第440話 規格

 エレベーターが止まり、見知らぬ階に着いた。


 扉は鉄へと変わり、面影などまったくなくなったが、万が一のときのために場に結界を施してある。だから、どの階にいるのかはわかるのだ。


「どこだい、ここ?」


 上昇した感じからエリア99の下。結界使用能力内にエリア99の防衛結界が入ってることからして約二十メートル下って感じだ。


「わかりますか」


「まーな。この山全体がオレの領域になってるからな」


 保存庫を守るためにヘキサゴン結界を山全体に敷いており、中は通路全体に敷いてある。まあ、だからって全てがわかるわけじゃねーよ。結界が繋がっていれば自由自在に操れるが、結界を把握できるのは約三百メートル。そこからは集中しねーと把握できなくなるのだ。


「やはり、なにか仕掛けてましたか」


「あるとはわかるんじゃが、なにかがわからん。いったいなんさね、これ?」


 人外二人でもこの結界は超不思議パワーなのか。まあ、神(?)が与えた力。人の外に出たくらいではわからんのか……。


「さーな。オレにもわからん」


 肩を竦めて見せた。


 もう魔術でもなく魔法でもないことはバレている。なら、隠したところでしょうがない。ならば正直に、思いのままに口にした。


「……こう言うところがベーの恐ろしいところじゃな。まったく嘘を言っとらんのに、重要なことはなにも語らん。目にも声にも気配にも揺るぎがない」


「それでいて真実をしゃべっている。フフ。ご隠居殿にはさぞや恐ろしく見えるでしょうね」


「恐ろしくてたまらんさね、こんな珍生物は」


 軽口を叩いているようで、二人の間には越えられない壁があるのを感じた。


「人の外に出ても心は人か。難しいもんだな」


 こんだけ生きていても人の心は変わらない。人とはいったいなんなんだろうな……って、哲学的なことはオレの今生にはいらねーよ。生きて死ぬ。それが全てだ。


「強いの、ベーは」


「羨ましい限りです」


 その言葉には応えず、扉を開くのを待った。


 反応を示さないオレに肩を竦めた博士ドクターは、エレベーターに付けられた水晶玉に手を置いた。


 それが開閉ボタンなのか、鉄が擦れる音とともに扉が開いていく。


 開いていく扉の向こうは、なにかの倉庫らしく、いろんな機材や材料が高く積まれていた。


「王都から持って来たものです。まあ、わたしのお宝ですね」


「男には宝。女にはガラクタ。男には秘密基地が必要だな」


「ふふ。至言ですね」


 うちもよくサプルやオカンにゴミ扱いされて、勝手に片付けられる。男は一国一城の主になるより、一家一部屋の主を目指せ、だな。


「で、ここにあんのかい?」


「はい。発着場を止めて工房にしました。アマラヴィとの工房の取り合いが激しくなりそうだったのでね」


 その取り合いがどう言ったもんか知らんが、まあ、聞かぬが花。想像するだけにしておきましょうだ。


 博士ドクターの後に続いて機材や材料の隙間を進んでいくと、なにやらケージの中に入れられた飛空船が現れた。


 小人族の飛空船とは言え、それなりにサイズはある。それを入れるケージを造るとか、ほんと博士ドクターは趣味がイイよな。もう惚れちゃいそうだぜ。


「うん?」


 なにやら大勢、だが、囁くような小さい声に気が付いて周りに目を向けると、ケージに造られた階段や踊り場、飛空船の上にと、小人族がいっぱいいた。


「さすがにわたしやアマラヴィだけでは無理ですからね。小人族にご協力を願いました。ベーの名前で」


 もうなんでもイイよ。好きにオレを使ってくれ。どうせ小人族の力は借りるつもりだったしな。


「そんで、どれをデカくすればイイんだ? あと、遊覧できる船は?」


「そこの一番から四番倉庫にあるのをお願いします。遊覧できる船は……七番ですかね。旗艦だったので他より大きいですがね」


 七番。七番。ああ、あれね。確かに全長二十メートル。巨大化したら軽く百メートルは越すな。


「わかった。それでイイよ」


 そこは博士ドクターの判断に任せるわ。


「では、一番から出して行きますね。ラジャム整備長、お願いします」


 と、なにか空飛ぶ円盤に乗る……ドワーフ? かと思うくらいずんぐりむっくりな髭もじゃのおっちゃんに声をかけた博士ドクター。えーと、どう言うこと?


「フフ。長いこと生きて初めて知りましたが、ドワーフの小人がいるなんて知りませんでしたよ。もしかしたら、昔にベーのような能力者がいて小人にしたかもしれませんね」


 な、なるほど。オレも前々から小人族の生態には謎を持っていたが、ドワーフがいるとなると、その可能性が高いな。


「って、今はどうでもイイ。歴史探求は歴史が好きなヤツにお願いしますだ」


「まあ、そうですね。わたし、歴史には興味ありせんし」


 そうシメて発着場に運ばれて行く飛空船の後に続いた。


 巨大化したことを前提に造られているようで、発着場は結構な広さをしていた。


 発着場の中央に浮かぶ飛空船を見て、ふっと思う。


「なあ、博士ドクター博士ドクターはどんな寸法を使ってるんだ?」


「寸法、ですか?」


 なにやら不思議そうに首を傾げた。なんかスゲー嫌な予感がすんな。


「これですね」


 と、どこかの異空間から紐を一本、出現させた。


「……えーと、つまり、だいたいこんな感じ、ってこと、かい?」


 もうなんと言うか、そうとしか言いようがねーな、こん畜生が。


「長さなんて人それぞれですからね。小人族もそんな感じでしたよ」


「……規格って概念すらなかったのかよ……」


 あ、いや、ないことには気がついてはいたが、まさか飛空船を造る小人族にもないとかあり得ねーだろう。どんなファンタジー理論が働いてんだよ、この世界!


「ダメだ。オレには堪えられねーよ」


 適当なオレが言う資格もなけりゃ説得力もねーが、寸法適当とか考えらんねーよ。キッチリ図って作るのがもの作りとしての礼儀だわ!


「一旦中止。買い物にいくぞ!」


 まずは規格創りが先だ。

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