第438話 ブタ肉飽きた

 しゃぶしゃぶを食ってから数日が過ぎた。


 ……ブタ肉、もう飽きた……。


 毎日毎日ブタ肉が出る我が家の食卓。いくら好き嫌いがなく、出されたものは感謝を込めて食うオレだが、三食ブタ肉がメインって、さすがに飽きるわ。


 とは言え、食事に文句は絶対に言わねーを主義主張してるから、面と向かって言わねーが、心の中で言うことはある。


「朝から焼肉なんてサイコー!」


「ふむーふむー」


 飽きると言うことを知らねー我が家の食いしん坊諸君。その飽きることのない食が羨ましいよ……。


 自分の少食に感謝しながら朝食を終えた。


「ベー。伐り場にいって来るわ」


「おう。気をつけてな」


 仕事を全てザンバリーのおっちゃんに任せたので、オレは食後の一時を過ぎてもその場から動かず、コーヒーミルクを堪能していた。


 ……さて。今日はなにするかな……。


 ここ数日のオレの朝の日課は、今日一日をどうするかを考えることから始まる。


 オトンが死んでしばらくは苦しい期間はあったが、ほとんどは暮らしに困らないどころか、贅沢な暮らしであり、趣味のような仕事がそこそこあった。


 だが、ザンバリーのおっちゃんが来て、そのそこそこを渡したから、まったく仕事がなくなった。


 ……他は働き手がいなくて苦しんでるのに、我が家は働き手が多過ぎて苦しんでいる。まったく、人生はままならねーぜ……。


「あ、ベー。今日は暇ですか?」


 と、親方がやって来た。


「ああ。暇だよ。なんかあんのかい?」


 オレの仕事はなくなり、どうするか考える日々だが、ほぼ毎日だれかがやって来るので暇ではなかったりする。


「小人族が浮遊島に引っ越したので、港を使えるようになったんですよ。だから飛空船を大きくしてもらえないでしょうか?」


「もうかい。早いな」


 三日前に引っ越すとは殿様から聞いてたが、あの数を移動させるとか、どんだけ行動が早い種族なんだよ、小人族って?


「まあ、わたしが急き立てたんだがね」


 そんなカミングアウト、いらねーよ、まったく。


「了解した。いくよ」


 残りを飲み干し、どっこらせと立ち上がった。


「あ、あと、小人族から伝言です。食糧を頼む、だそうです」


「それも、もうかい。なくなるの早いな」


 結構な量、置いて来たぜ?


「小人族とは言え、あの数ですからね。それを用意するベーの方にわたしは驚きですよ」


 いやいや、さすがに備蓄が半分になったわ。このままじゃ二月もしねーで空になるよ。


「サプル。昼は帰ってこねーから適当に頼むわ。あと、タケルが復活したら潜水艦を港から出すように伝えてくれ」


 角猪を捌くサプルに声をかけた。


 超天才なサプルちゃん。その腕が見えねーが、吊るされた角猪が部位ごとに捌かれて行く。今日もブタ肉に決定だな……。


「うん、わかった」


「あと、角猪の肉、いくらか持っててもイイか?」


 決して食いたくねーとか、ちょっとでも減らそうとかじゃありません。小人族のために持っていきたいんですぜ、ダンナ。


「うん、イイよ。保存庫にあるから適当に持ってて」


「あいよ。適当に持っていくわ」


 おし。あるだけ持っててやる。


 まあ、捌いてない角猪は、まだ百頭近くあるんですがね。


 角猪も家畜化しようと思ったんだが、さすがに人手も場所もねー。しょうがねーと、全て捌くことにしたのだ……が、マイシスターが角猪の捌きに夢中になっちゃって、毎日五頭は絞めて、ブタ肉料理を創作してるんです。はぁ~。


「ブタ肉料理か。さすがに野菜が食べたくなりました」


 お裾分けと称して親方のところやご近所さんに処……じゃなくて、試食してもらっているのだ。強制じゃなくて、お願いしてな。


「サプルが飽きるまではブタ肉料理が続くと思え。あと、今日の昼は魚料理にするから誰にも言うなよ」


 こそっと親方に耳打ちすると、任せろとばかりに親指を立てた。つーか、そんなサムズアップ的なこと、どこで覚えてくんだよ!


「んじゃ、保存庫から出してくっからちょっと待っててくれや」


「では、その間にアバールに頼まれた武具を置いて来ますね」


「すまんな、無理言ってよ」


 親方には武具の生産もお願いしてるのだ。まあ、お陰で内職もなくなったがな。


「なに、武具はジーゴに造らせて、わたしが付与してるから大変ではありませんよ。運ぶのもこの鞄に入れて渡すだけだからね」


 この親方こそが無限鞄の創り手であり、ドワーフのおっちゃんに頼んだニュー鞄ができたら無限化してもらう約束なのだ。


「あいよ。ちょっと時間がかかるかもしれんから、コーヒーでも飲んで待っててくれや」


 量が量だけに結構時間がかかんだよ。


「はい。このコーヒーを飲むのも楽しみの一つですからね」


 親方は、ラーシュのところのコーヒーがお気に入りのようで、オレ以上にコーヒーを飲んでいるのだ。


「まあ、ゆっくりしててくれや」


 言って、保存庫へと向かった。

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