第428話 オレ、この人大好きだ

 長髪イケメンに啖呵をきったときから、勇者ちゃんがくるだろうなと予想はしていたが、まさか村まで来るとは読めなかったぜ。


 オレの読みでは大老どの辺りが連れて来るんだろうと思い、毎日花月館にいくようにしていた。それが、ピンク髪の王族、ガーが連れて来るとは夢にも思わなかったぜ。


「突然、すまんな。シュレン坊に任せようと思ったんだが、わたしの血筋のことだしな、まあ、暇なわたしが連れて来た」


 確かに王様……いやまあ、王様業なんて知らんが、暇じゃないのはわかる。そんな中来られてもこっちが迷惑でしかねー。


「つーか、本当に暇だから連れて来たってのがよくわかる構成だな、おい」


 ガーの背後にいる仲良し四人組。勇者ちゃん存在、霞んでしょうがねーよ。


「まあ、イイさ。来たんなら歓迎するよ。どうせカイナ任せだしな」


 忽然と現れたカイナを軽く睨んだ。


 どうせカイナが遊びにこいとか言ったんだろうが、慎ましやかに暮らしている村のもんの前に出すなよ。刺激的なことには弱いんだからさ。


「なんでもイイから連れてけ。あとはこっちで処理するからよ」


 異論も反論も認めるが、オレにも村で守る常識や筋がある。ましてや、これは村の問題。部外者はどっかいってろだ。


「すまんが、任せるよ」


「終わったら顔を出せな」


「またな」


 メンドーは任せたとばかりに立ち去る人外ズ。まったくよー!


「……ベー。今のは……?」


 多分、ここにいる者の疑問を代表してザンバリーのおっちゃんが口にした。


「新しい友達だ。そのうち紹介するよ」


 気持ちに余裕があったら、だけどな。


「それよりだ。村長、これはどー言うこったい?」


 村の問題は村の者が解決する。そして、代表たる村長がなんとかしろや、だ。


 まあ、無茶ぶりしてるのは自覚しているが、オレは一村人であり、十一歳のガキ。自ら率先して動く立場じゃねー。こんな村の者がいる前ではな。


 ……やるんなら密やかに、バレずにやれだ……。


「あ、いや、以前、村の護衛を冒険者ギルドに頼んだろう。その依頼をこの子が、いや、勇者様が受けてくださったのだ」


 村長もオレの立場を守ってくれたようで、余計なことは言わず、勇者ちゃんの保護者たる女騎士さんに目を向けた。


 あ、どうもと女騎士さんが愛想よく頭を下げた。


 オレの中ではマブダチの位置にいる女騎士さんだが、説明役、この人で大丈夫なのか? ガーを帰したの失敗じゃね?


「わたしから説明するわ」


 と、冒険者ギルド(支部)の受付嬢で、裏のギルドマスターたる姉御が出て来た。


 ハッ! お願いするであります!


 敬意と敬礼を持って姉御にお任せした。


「……君のわたしに対するその態度はあとで話すとして、冒険者ギルドに依頼されたボブラ村の護衛は、王と冒険者ギルドの協議により、姫勇者様にお願いすることになりました。見ての通り、姫勇者様はまだ六歳であり、護衛の経験はありません。が、その支援として姫勇者様の護衛騎士隊、四名が付きます」


 姉御の言葉に、人垣が割れ、女騎士さん以外の女騎士さんズが現れた。


 年の頃は、女騎士さんより若く、どう見ても十六歳くらいにしか見えない。つまり、勇者ちゃんのお守り役謙世話係ってことか。こんなド田舎に追いやられてご苦労さま。


「まだ年が若く、経験もありませんが、マリー様は、A級冒険者並みの実力があります。正直言いまして、これは姫勇者様の修行であり、経験を得るためのものです。ですが、だからと言って村に負担はかけません。冒険者ギルドからも支援も行います。決して村を危険にはさらさないと宣言します。どうかご理解をくださいませ」


 まあ、これは村の者を安心させるためのパフォーマンスであり、勇者ちゃんがこの村にいるための方便ってこった。


「村の衆。そう言うことだからなにも心配いらん。依頼の金も王さまと冒険者ギルドが出してくれた。村に負担はない。ここは、素直に受け入れようじゃないか」


 村長の援護をするべくザンバリーのおっちゃんを一歩前に出させる。


「いいのではないか? 姫勇者様の実力はおれをも凌駕する。オーガの十や二十、ものではないしな」


 ここで余所者がと、反論する者はいない。A級冒険者としての実力や英雄譚はこの村にも伝わり、何度となく村へと来てるからザンバリーのおっちゃんの人となりも知れている。


 そんな人物がお墨付きを出し、村の一員となれば天下無敵どころか世界で一番安全な村と断言してもイイくらいだ。


「まあ、イイんじゃないか」


「そうだな。ザンバリー様もああ言っておるしな」


「それに、ベーもいるし、問題ないよ」


 概ね、どころか完全に大歓迎ムードになった。


 先程から無言で、不安そうにオレを見る勇者ちゃんに笑って見せた。


「ようこそ、ボブラ村へ。歓迎するよ」


「――うん! よろしくね!」


 笑顔を咲かせる勇者ちゃんの頭を撫でてやった。 


 まあ、しばらくは不自由な村の暮らしを経験してもらうがな。あと、女騎士さんも歓迎するよ。


 敬礼で応えると、女騎士さんも敬礼で応えてくれた。


 オレ、この人大好きだわ!

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