第427話 勇者ちゃん来る
昼食後、しばらく食休みしてから仕事を再開させた。
が、さすがA級の冒険者。数日はかかるだろう仕事を二時間でやってしまった。
「なにも本気でやることもないだろう。別に急ぎの仕事でもないんだからよ」
額に汗を浮かばせるザンバリーのおっちゃんに思わず苦笑してしまった。
「あ、いや、冒険者のクセでな。仕事は素早く片付けるのが当たり前だったからよ」
まあ、だからこそA級になれたんだろうから、徐々に慣れて行くしかねーか。
「それで、木を伐るのはこれで終わりか?」
「ああ。終わりだよ。つーか、しばらくは樵は休業だな。これだけあれば半年は余裕で税が払えるわ」
オレが伐ったものも大量にあり、家にも大量にある。ついでに保存庫にもあったりします。ハイ、いろいろな森でいろいろやらかしてるもので。
「……お前って、用心深い割りに無計画って言うか、なんと言うか、雑だよな……」
あ、うん。オレもそう思う今日この頃。ハイ、スンマセン。
「さて。家に帰るにはまだ早いし、ついでだから薪を集落に持ってきますか」
「随分と切り替わりのよい男だな、ベーは」
「まったく、イイ性格してるよ」
スルっとサラっと右から左に出発進行でぇ~す。さようなら~。
「ハイ、つーことで薪を荷車に運びまぁ~す。ホイのホイのホイっと」
束にした薪を担げるだけ担いだ。
「どうするんだ、それ?」
「時間もあるしな、税の支払いを教えるよ。集落のヤツらにも顔合わせしておきたいからな。量はオレくらいで構わんよ」
いくらザンバリーのおっちゃんが有名でも村人全員が受け入れてくれるとは限らねーし、余所者を素直に歓迎してくれるとも思わねー。まずはオレがザンバリーのおっちゃんを受け入れていることを示し、徐々にザンバリーのおっちゃんの存在を慣れさせて行けばイイ。今ならバンたちやシバダたちがいる。まずはガキどもから懐柔だ。
「わかった。なら、これくらいでいいか?」
オレには五トンのものを持っても平気な体があるから体重の三倍の薪を持ってもなんともねーが、ザンバリーのおっちゃんが自分の三倍もの薪を担ぐとか、ほんと、A級はバケモンだよな。つーか、バランス感覚もスゲーな。どう乗ってんだ、それ?
逆ピラミッド状になってる薪の束。イッツ、ミラクル! だな。
「お前さんら、本当の親子のようじゃな。そのバカっぷり」
なんて賢者殿の呆れた目を無視して荷車へと向かった。
山積みとなった薪をロープで縛っていると、ザンバリーのおっちゃんが不思議そうに覗いて来た。
「前から不思議だったんだが、そのロープの縛りはなんなのだ? なにか意味があるのか?」
ロープの縛り? ああ、南京縛りね。そー言や、ねーな。この時代に。ロープの結び方って。
「これは南京縛りって言ってな、荷車が揺れても荷が落ちねー方法なんだよ」
「前に教えてもらったもやい結びと同じか?」
あれ? 教えたっけ? まったく記憶にねーんだが?
「あ、あれはフェリエに習ったんだったな。だがまあ、お前から習ったと言ってたし、実質、お前から学んだようなものだ」
まあ、オレも細かく言うつもりはねーから、どうでもイイがよ。
「ロープの結び方はいろいろさ。こんな風にな」
簡単なところから、ひと結び、ふた結び、巻き結び、ちょっと難しいのでいかり結びとやって見せた。
「いろいろあるのだな。初めて見たわ」
「覚えておくと便利だぜ。ロープはいろんなところで使うからな」
前世で運転手のバイトを半年したとき、気のイイおっちゃんが南京縛りを教えてくれ、ちょっと興味を得てロープの結び方を覚えたものだ。もやい結びはじーちゃんに習ったけど、その頃はまったく興味はなかったがよ。
「なら教えてくれ。なんかおもしろそうだしよ」
新しいオモチャを得た子どものような笑顔を輝かせるザンバリーのおっちゃん。まあ、好奇心が強くなくちゃ長く勤まらんか。
「家に帰ってからな。まずは薪を集落に運ぶぞ」
ザンバリーのおっちゃんを静め、集落へと向かった。
途中、リファエルを器用に操りながら巻き結びや先程の南京縛りを記憶を頼りにやってみたりと、完全にロープ結びにはまっていた。
それを苦笑しながら見守り、集落へと到着したんだが、集落がなにやら騒がしい。
「なんだろな?」
「あの建物に人垣ができておるが、あそこは?」
「冒険者ギルド、だな?」
よく見れば村の長老衆や中堅どころが集まっていた。魔物の大発生でも起きたか?
「ベーが来たぞ!」
ならエリナのエサにしなくちゃと、捕獲方法を考えてたら、突然、オレの名が発せられた。
「ベー。イイところに来てくれた」
と、村長がこちらへと駆けて来た。なにやら安堵した顔で?
「どうしたい? 竜でも襲って来たか?」
「いや、お前の発想がどうしただわ!」
村長からのナイスな突っ込み。ちょっと気持ちイイ――じゃなくて、村長がこんな突っ込みするなんてただ事じゃねーな。
説明ぷりーずと言おうと瞬間、人垣からピンクの髪を持つ幼女が出て来た。
「え? 勇者ちゃん?」
オレの目が狂ってなけりゃ、それは勇者ちゃんだった。
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