第422話 ただそれだけのこと
「みんなー! 夕食にするよー!」
サプルの声が辺りに響いた。
ちょと前までなら叫ぶこともなかったのだが、好きなことに集中する家族が増えすぎて、呼ばないといつまで経っても集まらないと、サプルが叫び始めたのだ。
「はーい!」
どこにいたのか、モコモコガールの声が上がり、バビュンってな感じで家の中に消えて行った。
「腹減ったー!」
やや遅れて馬の家畜小屋からタケルが飛び出して来て、モコモコガールと同じく家の中へと消えていく。
「それじゃ、また明日ね」
苦笑気味のフェリエも出て来て、自分ちへと帰っていく。と、家畜小屋からフラフラと猫耳ねーちゃんが出て来た。
「ところで、ねーちゃんって誰?」
「え! 今さらっ!?」
あー、確かに今さらだな。でも、こうして面と向かうのはこれが初めて。ちょうどイイから聞いたのだ。
「あたし、タムニャだよ! タケルの……恋人だよぉ……」
なにやら衝撃の告白……なのかはわからんが、恋人だったんだ。いつのまにそんなラブストーリーがあったんだ?
「そうか。まあ、タケルをよろしくな」
「……怒らない、の?」
「はぁ? なにがだ?」
話の流れ、どっかで飛んだか?
「あ、あたし、獣人だし、奴隷だったし……」
ああ、そう言や、闇のオークションにいったとか言ってたな。あれ? でもメルヘンと一緒にいたっけ? あ、いや、なんでもイイか。
「別にオレは気にしねーぞ。つーか、それこそ今更だろう。猫の獣人なんて普通過ぎて意識に入ってもすぐに出てたわ」
猫と犬の獣人なんてそこら辺にいるし、普通にこの国に溶け込んでいる。まだドワーフの方が珍しいぜ。
「それに、奴隷の首輪、してねーじゃん」
猫耳ねーちゃんがなんの奴隷だったか知らんが、首輪をしてなけりゃ奴隷じゃねーだろう。
「それは、タケルがお金出して買ってくれたから」
「なら、元奴隷だろう。気にすることじゃねーよ」
まあ、してても気にはしねーがな。
「タケルがそう決めたなら、あんたはうちの家族だ。元魔王だろうと元殺戮者だろうと関係ねー。うちの家族を貶めるヤツはオレがぶっ飛ばしてやる。だから、なにも心配すんな。タケルの横にいてやれ」
「……うん……」
今にも泣きそうな猫耳ねーちゃんの背中を叩いて前を向かせた。
「ほれ、夕食にするぞ」
「うん!」
嬉しそうに走って行く猫耳ねーちゃんを見送り、未だに桃色空間を維持させるバカっぷるのところへと向かう。
……まったく、飽きねー二人だぜ……。
「ほれ。オカンにザンバリーのおっちゃん。夕食だぞ」
「あ、おおう。今いくよ」
「あいよ。今いくから」
五秒で限界。早くしろと言ってキャンピングカーの中へと消えて行くサリネの襟首をつかみ、問答無用で家を引っ張っていく。
家の中は大混雑。種族のるつぼと化している。
オレら家族にタケル、カーチェ、モコモコガール、猫耳ねーちゃん、剣客さん、サリネ、メルヘン数匹、そして、ザンバリーのおっちゃんが加わると、なかなかの珍妙な光景になることだろう。
まあ、もう見慣れたし、気にするオレでもねーので、サリネの襟首を離していつもの席へと座る。
フライングした二人はもう止める手段がねーので、放置して、皆が揃ったら、オレの音頭で夕食を開始した。
「今日もサプルどのの料理は旨いでござる!」
意外と食いしん坊だった剣客さんが感動の声をあげた。
「美味しいね~」
「うん。これサイコー!」
雑食メルヘンも山のように積まれたパンケーキを嬉々として貪っている。
「お代わり!」
「お代わり!」
いつものように大食い大会をやってる二人は、まあ、サプルに任せておこう。
とある一部の桃色空間は無視するとして、理性派なカーチェや食えればそれでイイと思うサリネは静かに食し、猫耳ねーちゃんはタケルに料理を差し出しながら食っている。
オレやプリッつあん、トータ(チャコは水と太陽光を食する生き物です)はいつもの通り。自分のペース食っている。配膳に徹してるサプルは残像でよく見えねーな。
まあ、サプルは少食で、料理中に試食してるので、皆が食べ終わってから食べるのだ。
今回も引き分けに終わった食いしん坊二人が真っ先に食い終わり、腹を出してぶっ倒れる。
あとは、それぞれの腹具合。今日はカーチェが早く終わり、オレのお気に入りの場所へと移り、酒を楽しむ。
続いてサリネが食い終わり、そのままキャンピングカーに戻るかと思ったら、今日は酒を飲むようだ。
サリネはそんなに飲むわけじゃねーが、息抜きには飲むらしい。なにか行き詰まってんのかな?
ボロボロなトータは風呂に向かい、猫耳ねーちゃんはタケルの介護。メルヘンズはノートパソコンに夢中。プリッつあんは、カーチェらと混ざって晩酌。
「ご馳走さまでした」
最後にサプルのシメで我が家の夕食が終了する。
オレのお気に入りの場所は、晩酌の場となったので、オレの一服はこの場所になった。
まあ、別にどこで飲んでもコーヒーはうめー。片付けを始めるサプルを見ながら食後の一服を堪能する。
ゆったりまったり我が家の夜の一時。
他の誰かがこの光景を見たら、なにが楽しいんだと思うかもしれねーが、知らないのなら知らないでイイ。無理に知らなくてもイイ。それは、オレが知ってればイイこと。オレの楽しみ。オレの幸せ。ただ、それだけのことなんだがな……。
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