第421話 絶対無敵の花乙女、チャコ

「……ただいま……」


 って言った側からマイブラザーとガブが帰って来た。


「おう。おかえり。随分と勇ましい格好だな」


 なにと戦ったかは知らねーが、まるで激闘死闘をしたあとのような格好である。


 にしても、トータとガブの服には結界を敷いてたんだが、なんと戦えばこうなるんだ? つーか、結界消えてんな。


「……うん。大変だったな……」


「……ああ。大変だった……」


 二人見詰めあい、しみじみと呟いた。


 なんか知らんが、いろいろあったらしい。とても六歳児には見えねー哀愁を漂わせいた。


「……まあ、なにがあったかは聞かんが、えーと、頭の上のそら、なんなんだ……?」


 二人の冒険は二人だけのもの。無理に聞く気はない。が、その頭のは超気になるんですが。


「……なんと言うか、花?」


「う、うーん。花、かな?」


 悩む六歳児。なんやねんいったい。


 オレンジ色をくすませた、四枚の花弁を持つ地味な花。たぶん、野草の類いだろうが……うん?


 ……この花、どっかで見たぞ……。


 記憶の扉を開き、この花と同じ記憶を探し出す。つーか、花で連想させるのはあそこの住人しかいねーよ!


「……まさか、花人はなびと族か、お前……?」


 トータの頭の上に咲く花がプルプル震えると、ポンと弾けて花を擬人化させたような少女に変化した。


「初めまして、かしらね。花園では何度も見てるけど」


 やはり、花園の住人だったか……。


 ここからちょっと行ったところに、花人はなびと族――所謂精霊人の生息地があり、たまに薬草の材料となるものをもらいに行ってるのだ。


 花人族は希少生物で、薬となる成分を多種多様持つ。故に、狙われる存在で、未開の地や人が立ち寄れない場所にコロニーを造り、外界との接触を断っているのだ。


 ……いやまあ、頻繁に接触してますがね……。


「そ、そうかい。でもまあ、自己紹介はしとこうや。オレは、ヴィベルファクフィニー。言い辛いときはベーでイイよ」


「ならベーと呼ばせてもらうわ。あたしは、ジョセフィーヌ・ラ・フランシェカ。あたしも言い辛いときはチャコでいいわ」


 なんだろう。その名前のどこにチャコが入ってんだよと突っ込むところなんだろうが、そのノリに懐かしさを感じてしまった……。


「……そうか。なら、チャコと呼ばせてもらうわ……」


 探るように、確認するように、チャコを見る。


 花状態でも地味だったが、人化しても地味なチャコ。オレを真っ直ぐ見るその目には、深い知性と意志のようなものがあった。


 ……百年二百年と生きた長老格のような重厚さはねーが、人生を経験した深みは感じる。こいつ、転生者だな……。


 考えるな、感じろではなく、これは経験から導き出されたものだ。


「あら、わかっちゃった?」


 悪戯っぽく微笑むチャコ。やはりこいつ、結構生きてから死んでるな……。


「まーな。そっちはなんでわかった?」


「あれだけ花園を文明開化させておいてわからない訳がないじゃない。そのうちビルが建つわよ」


 あーうん。行く度に発展してんなーとは思ってましたがね。


「その気はなかったんだが、ワリーな」


 自重って言葉を知らねー男なんでよ。


「別に構わないわ。文明開化してくれたお陰で意識改革が起こったからね。あのままでは、キノコ魔王に滅ぼされてたかもしれないしね」


「キノコ魔王?」


 そんなもんがいんのかい?


「アレの親玉で、花園に攻めて来たからトータとガブの力を借りて戦争したのよ。わるかったわね。弟さんを巻き込んだりして」


 なるほど。そう言う訳か。そりゃ帰ってこれんし、結界も破壊されるわな。つーか、キノコの魔王ってなんだよ。謎過ぎるわ!


「トータがやると決めたんだ、オレの関知することじゃねーよ。うちは、好きなことを好きなだけしろって家訓だからな」


「随分と攻撃的な家訓ね。でも、嫌いじゃないわ」


 ニヤリと笑うチャコ。こいつ、なかなかイイ性格してんな。


「そんで、なんでトータの頭の上にいんだ?」


 ガブの頭の上にも華のある花が咲いてるが、そいつも花人なのか?


「冒険をするためよ」


 よく見れば、いや、よく意識をチャコに向けたら確かに冒険者スタイル(なんかアニメっぽいな)をしていた。


「なんと言うか、チャコも攻撃的だよな」


 花人族は穏やかな種族で、自分を咲かせることに一生を費やす。もちろん、環境も含むので、その場から動こうとはしないのだ。


「こんなファンタジーな世界に生まれたんですもの、冒険しなくちゃ損じゃない!」


 目をキラキラさながら冒険に思いを馳せていた。


 ……こいつ、根っからの冒険者だな……。


 オレらと同じなら、神(?)から三つの願いを叶えてもらってるはずだ。


 まあ、なにを願ったかは知らねー(あえて言わないところもスゲーよな。まったく隙を見せねーよ)が、冒険をすることを前提に転生しやがってる。どんな種族になろうとも構わずに、だ。


「スゲーな、あんた。その執念に脱帽だわ」


「絶対無敵の乙女ですもの!」


 その意味はまったくわからんが、感覚的にはよくわかった。


「ふふ。そうか。そりゃ勝てねーな」


 久々に自分に正直に生きてるヤツを見たわ。


「まあ、好きなだけ冒険しな。トータも冒険者目指してるしな。それに、チャコみたいなのがついててくれたら兄としても安心だ。能力的には心配ねーが、世間を、世界を知らなすぎるからよ」


 そこは児六歳に無茶ゆーな、である。


「話のわかるお兄ちゃんで助かるわ。んじゃ、お世話になるわね」


「あいよ。好きなだけいな。あ、うちの母親、再婚するからよ、そこんとこもトータに教えてやってくれや」


「ダメなお兄ちゃんね。まあ、いいわ。相棒がいつまでもお子ちゃまでも困るしね」


 ハイ、ダメな兄でスンマセン。


「トータ。いくわよ」


「わかった」


 チャコの命令に素直に従うマイブラザー。なんだかな~。


 しかし、兄弟揃って頭の上に住人をつくるとか、なんか呪われてんのかね、オレたち。


「世の中に変な生き物がいるものね」


 ハイ、お前が言うな、ですよ、謎の生命体さん。 

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