第420話 皆の日常
家に帰り、桃色空間を極力見ないようにして保存庫へと向かい、結界エレベーターでカイナーズ港ホテル(仮)へ。コーリンをチェックインさせ、軽く保養地を案内した。
「コーリンの身を守るために結界を、まあ、竜に襲われても死なない魔法をかけたから好きに見て回っても構わねーし、トアラのところにいっても構わねーからよ」
さすがアイアンレディ。最初の驚きはなくなり、あるがままの光景を受け入れていた。
「世の中にはいろんな世界があるのですね」
なにやら達観したご様子。雰囲気に貫禄がついた感じがするよ。
「まーな。自分の小ささを痛感するよ」
世界は大きくて広い。だからこそ、世界はおもしろいだ。
「ドレミ。ワリーがコーリンについててやってくれ」
アイアンレディとは言え、年頃の女を見知らぬ場所に一人にさせておくのも偲びねー。せめて心地好い眠りを与えてやろう。
ドレミ、超抱き心地がイイんだぜ!
「はい。畏まりました」
黒猫の姿からスライムへと戻り、コーリンの頭に飛び乗った。もしかして、頭の上に憧れてた……?
今度、プリッつあんがいないときに乗せてやるからな。おっと。プリッつあん、オレの思考を読まないでくれよ。
ジト目のプリッつあんから光速で顔を背けた。
「んじゃ、用があったらいつでも来てくれ。もし、オレがいないときは、ザンバリーのおっちゃんかうちのもんに言ってくれ」
「はい。では、お休みなさい」
コーリンと別れ、家へと向かった。
桃色空間は継続中で、離れたところで読書するカーチェのもとへと行く。
「見てて楽しいのかい?」
十秒でも堪えられねー光景を楽しそうに見ている。脳ミソ腐ったか?
「いや、将来、ザンバリーの子ができたときに語ってやろうかなと思いましてね」
長命種、結構えげつねーことしやがるぜ。下手したら孫にまで言いそうだな、こん畜生はよ。
「オレが結婚したときはカーチェに注意するよ」
カーチェの肩を叩き、キャンピングカーから出て来たサリネのところへと向かった。
「おう、サリネ。酷い格好だな」
頭ボサボサ、服ヨレヨレ。木屑があちらこちらについていた。
「え、あ、うん? ああ、ベーかい。久しぶりだね」
サリネも集中が切れるまで止まらないタイプ。寝落ちしたか失神して、今目覚めたって感じだな。
「あんま無理すんなよ。別に急いでねーんだからよ」
なんて言ったところで集中型には馬の耳に念仏。好きにやれだ。
「あはは。あのお城を見たらつい、夢中になってしまってね。何度も作り直してしまったんだよ」
お城とはプリッつあんのドールキャッスルのことだよ。
「おいおい、あんなのは止めてくれよ。あれに住めとか拷問だわ」
「わかっているよ。ちゃんと注文通りに作るさ。ただ、興味で作ってるまでさ」
「なら、その中で小さいやつもくれや。農作業やりてーってヤツの家も欲しいからよ」
すっかり忘れてたが、賢者殿のこともやらねーとな。
「ああ、任された」
フラフラと風呂へと向かっていった。
ちゃんと風呂に消えるのを確認して、村を見下ろせる場所で瞑想する剣客さんと向かう。
近付くオレに気がついたようで、瞑想していた剣客さんがこちらへと振り返った。
「お帰りでござる」
「おう、ただいま。修行は順調かい?」
「まだまだでござる」
村……なんだっけ、この刀の名前? あー村正だっけ? 村雨だっけ? なんだっけ? いやまあ、なんでもイイや。洒落でつけたような名前だしな。
「そ、そうかい。まあ、剣の道は一日にしてならず、って言うしな、ただ修行あるのみだ」
「そうでござるな。剣の道に近道なし、でござった」
刀を夕日にかざし、決意を新たにする剣客さん。ガンバレ。
「あ、剣客さんよ。ワリーが今日からもう一人離れに住まわせるから。しばらくは我慢してくれや」
「構わぬでござる。某もあの御仁とは剣を交わしたいでござるので」
目を鋭くさせながら桃色空間を見た。うん。ある意味、この人もえげつないよね。
「まあ、元A級の冒険者。剣客さんと同じ剣で竜の首を刎ねた腕前だ、相手してもらいな」
これから我が家の大黒柱になるんだ、腕が錆び付かないように稽古してもらわねーとな。
「それはおもしろい。腕が鳴るでござる」
まあ、程々になと言い残し、今日も乗馬訓練をしているタケルらのもとへと向かった。
「お、形になってきたじゃねーの」
以前のへっぴり腰がなくなり、辛うじて背筋が伸びて、固さが抜けていた。
「そうね。毎日頑張ってるしね」
軽やかにランマルを操って来たフェリエがオレの独り言に応えた。
引きこもりなフェリエだが、運動神経は意外と悪くねー。集中したら直ぐに体に覚えさせれるくらいの才能を持っている。それに、小さい頃からリファエルにも跨がってる。今の感じからして、馬上戦闘もできそうだな。
「なら、そろそろ遠出でもするか?」
「そうね。じゃあ、明日から村の端まで行ってみて、大丈夫だったら遠出してみるわ」
そうだな。いきなりは辛いだろうしな。
「ところで、あの猫のねーちゃんはなにしてんだ?」
なにやらユキノの横っぱらに、必死にしがみつく猫耳ねーちゃん。なんかの曲芸か?
「あーうん。あの子も着いていくって馬術の稽古をしてるのよ」
「見る限り、才能ゼロって感じだな」
あの走りで落ちないのはある意味スゲーけど、あれでは旅はできんだろう。
「自分で走ればアカツキたちにも負けないんだけどね……」
まあ、猫の獣人だしな。走るのは速いだろうよ。
「その辺はフェリエに任すよ。リーダー殿」
冒険者ギルドには、オレの護衛としてフェリエに指名依頼を出したのだよ。
「これも勉強って言うんでしょう。わかってるわよ!」
その通りと、笑って頷いた。
「んじゃ、そろそろ終われよ」
言って、家畜を集めに出た。
ん? そー言や、トータたち、まだ帰って来てねーな。
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