第419話 判断と決断
バリボリバリ。あー漬け物うめー!
これで緑茶があれば最強なんだが、まあ、そのうちエリナからもらうとするか。
「アハハ! ほんと、ベーは美味しそうに食べるね」
おばちゃんから麦茶(まあ、似たような味がするものだよ)をもらい、ズズと啜った。
「おばちゃんの漬け物、マジサイコー。これで握り飯食いてーな」
「ニギリメシ? なんだいそれ?」
「東の大陸の食いもんさ。そのうち食わしてやるよ」
東の大陸にいくことは、オレの中で決定事項だ。まあ、いつになるかは神のみぞ知るだがよ。
「ついでだから漬け物買ってくわ。なんかある?」
オレが創ってやった地下倉庫には寝かしてある漬け物がいっぱいあんだよ。
「なら、あんたが頼んでった、イカとハモナのニンニク漬けがイイ具合になってるよ」
「おっ、できたんだ。おばちゃん、天才だな!」
海でイカが採れたから、これを活かした漬け物ができねーかと、サクっとおばちゃんに任せたのだ。
「フフ。そんなに褒めてもなんもでないよ。しかし、やっててなんだけど、イカと野菜って合うんだね。それに、海草を使ったものもイイ感じになったよ。ちょっと待ってな。出して来るから」
完全に漬け物の魅力にとりつかれたおばちゃん。もはや、おばちゃんを呼んだ主旨がどっか行っちまったが、これがド田舎時間。慌てず騒がず流れるままに、だ。
「お、ベー。来てたのか」
一家の大黒柱で、トアラのとーちゃんが伐採から帰って来た。
「薪は集まったかい?」
畑に力を入れてるとは言え、山の税が薪である以上、薪で払わなくちゃならん。まあ、漬け物とうちで余った薪を交換してるから、他の家のように伐り場に泊まることもなく、おじちゃん一人で通っているのだ。
「ああ。程々にな。漬け物か?」
「それはついでだ。今日はトアラのことでな。まだ、外で話してたかい、あの二人?」
「ああ。見慣れん娘だが、どこのだい?」
「伯爵令嬢で、服飾デザイナーだな」
「はぁ? なに言ってんだ、お前は?」
まあ、ド田舎のオヤジに理解しろと言う方が間違っている。なんで、理解させようとは思わねー。
「簡単に言えば、奉公先の紹介だ。まあ、トアラがやりてーと言って、おじちゃんおばちゃんが許せば、だがな」
それならわかんだろう? と、目で問うた。
「奉公先って、どうゆーこった?」
「トアラが服作るの上手いって知ってんだろう?」
「あ、ああ。広場で銀貨十二枚も稼いだとか言ってたな」
へ~。銀貨十二枚とは稼いだもんだ。この家の半年近くの税を稼いだに等しいぜ。
「トアラも十三だ。いつまでも機織りや家の手伝いではいられねーだろう」
トアラの上にはねーちゃんとにーちゃんがいる。
にーちゃんはこの家を継ぎ、ねーちゃんは来春に結婚してこの家に入る。その間に子が生まれたら、年齢的にトアラが出なくちゃならねー。一家、三世代が精々。それ以上は住めねーんだよ。場所的にも税金的(人頭税な)にもな。
「……そうだな。一番は、お前がもらってくれると助かるんだがな……」
「それはオレの一番じゃねー。そして、トアラの未来を決めるのはトアラ自身だよ」
まあ、その決断には無条件で賛成するし、応援するがな。
「まあ、イイんじゃないの。ベーが勧めるんだから悪いところじゃないんだし」
と、漬け物を出して来たおばちゃんが認めてくれた。
「そうだな。下手なところに奉公に出すよりベーが紹介してくれるところなら安全か……」
その信頼は光栄なこったが、ちっとは疑いを持てや。
「それで、どこに奉公すんだ?」
「王都だよ」
「王都? って、どこだ?」
首を傾げるおじちゃんおばちゃん。あーまあ、そんなもんか、こんな辺鄙なド田舎の村人には……。
「こっから歩いて一月くらいのところだよ」
「そんなに遠いのか。なら、いったら二度と会えんな……」
「寂しいね……」
なにやらしんみり。うん、そうなるわな。
「大丈夫だよ。まあ、仕事の具合にもよるが、長期休みのときは帰ってこれるからよ」
転移できることを説明すんのがメンドクセーから、そうとだけ言っておく。
「おかあちゃん。話があるんだけど」
どうやらトアラが判断して決断したようだ。
これから先はトアラんちの問題。部外者は席を外しましょう。
「コーリン。今日はこのくらいにして帰るか。宿屋に案内したいしよ」
はいと、なんとも楽しそうに笑うコーリンを連れて、カイナーズ港ホテル(仮)へと向かった。
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