第417話 服飾道ってなんやねん!

「んーそうだな。やっぱ、コーリンにもうちの村に来てもらうか」


 針子、トアラを花月館に、とは思ったが、まだ十三才の子をいきなり連れてくるのも暴論だわな。親にも断りを入れんと、オレの責任になっちまう。


 下手したら責任とってトアラを嫁にしろとか言われそうだ。特におばちゃんが。


 まあ、トアラの名誉のために言っておくと、別にオレはトアラが嫌いって訳でもなけりゃ嫁と考えたらお買得な器量だと思っている。


 だが、オレの性格と生き方を考えたとき、嫁には苦労しか与えねーと思うし、自由奔放なオレについてこれるとも思えねー。だからと言って、オレみてーに自由奔放な嫁でも困る。


 自由奔放なオレと嫁なんて家族崩壊どころか、家族として成り立たねーわ。だったら友達同士で充分って話だ。


 いや、話が反れたが、トアラはイイ娘だ。オレに人生を捧げるより自分のために生きて欲しい。まあ、男の身勝手な解釈だがよ。


「コーリン。ワリーが、まずはうちの村に来てオカンの花嫁衣裳を作ってくれねーか? 村一番の針子を紹介したいしよ」


 余裕と機会があればサリバリも紹介したいしな。


「もしかして、ですが、ベー様のお召し物を作った者でしょうか?」


 なにやら真剣な目でオレを、いや、オレの服を見ていた。


「あ、ああ。オレの服は、だいたいそいつに作ってもらってるよ。まあ、鞄は違うがな」


「やはり。縫い目や意匠が王都で見るものとまったく違います。こんな手法もあったのですね」


 やはり、とはこちらのセリフだな。見ているところが全然違うわ。さすがオシャレ星人。


「ぜひともその針子に会わせてください。いろいろお話が聞きたいです」


「ああ。願ったり叶ったりだ。だが、相手は村娘だ。学もなけりゃ礼儀もなっちゃいねー。その辺は許してやってくれよ」


 権力なんぼのもんじゃいなオレと違って、貴族や大物には萎縮しっちまう。ましてやトアラは気が小さい。コーリンの顔もまとめに見れねーかもしれんぞ。


「服飾道の前に貴賤の差はありません。が、身分の壁はあるもの。わかりました」


 そう言うと、部屋の隅に置いた自分の荷物だろうものを漁り始めた。


 服飾道ってなんやねん! 初めて聞いたわ! とか突っ込みたかったが、期を逃したのでスルーしておこう。


 しばらくして、なにかを見付けたのか、隣の部屋へと向かっていった。


 ザンバリーのおっちゃんに目で尋ねるが、目で知らんと返された。


 なんかよーわからんが、しばらくしてコーリンが返ってきた。なにやら、町娘がちょっとオシャレしました、ってな格好をしていた。


「ふふ。よく街に出てどんな服があるかを探求していたんです」


 まさに弾丸娘。伯爵どのの苦労が見てとれるな……。


「あーまあーそーなんだ。いろいろやってんだな」


 ワリー。なんと返してイイかわからんよ。


「あ、持っていくもんは……自由にしてイイよ。その鞄、結構入るからよ」


 女の持ちもんなんて知らねーし、どう制限かけてイイかわからん。好きなのを好きなだけ持ってけや。


「そうですか。なら、全部持って来ます。これだけの腕を持つ針子なら見せたいものがありますから」


 なんでもイイよ。好きにしてくれ。


「ザンバリーのおっちゃんは、このままいっても大丈夫なんだよな?」


 冒険者の格好ではなく、布の服に外套、あとはオレから買った収納鞄のみ。知らない者が見たら普段着で日常を過ごしているとしか思わんだろうよ。


「ああ、問題ない。必要なものしか持っていかないからな」


 必要になったら買えばイイだけだしな。


 コーリンが自分の荷物を収納鞄に詰め込むのを待ち、用意ができたら転移の間へと移り、サクっと村へと転移した。


「……なるほど、そう言う訳か。道理でカーチェの別れが軽いと思ったよ……」


「フフ。すぐに再会できると思ってましたからね」


 今生の別れと思ってたザンバリーのおっちゃんにしたら肩透かしだろうよ。まあ、オレもあえて言わなかったけどな!


「カーチェ、ザンバリーのおっちゃんを任……せなくてもイイか」


 恋する純情中年にはオカンしか見えてねー。ほんと、勝手にしてくださいだな。


「カーチェ。ザンバリーのおっちゃんが我を取り戻したら剣客さんと同じ離れに寝泊まりしてくれと伝えてくれや。まあ、オレが帰って来るまでああだろうがよ」


 なに、あの桃色空間は? 口から砂糖が洩れ出すわ!


「ですね。まあ、あれでも友ですからね、面倒は見ますよ」


「将来の息子としてありがとよ」


 カーチェとハイタッチ。なんの意味かはオレたちにもわかんねーよ。


「んじゃ、あと頼むわ。コーリン、いくぜ」


 辺りをキョロキョロ見渡すコーリンを促してトアラんちに向かった。

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