第416話 アイアンレディ

 灰色の脳細胞のお陰で問題は解決。秘密基地の中を軽く教えて花月館へと転移した。


「もう昼か。時間が過ぎんの早いな」


 のんびりゆったりがオレの人生なのに、こんなに忙しいとかふざけてるよな。


 なんて怒ってみたが、これはこれでおもしろい。まあ、人(外)との交流もまた人生を豊かにしてくれる。ならば楽しめだ。


 昼、どうすっかな~? と考えながら二階に上がると、ザンバリーのおっちゃんらが来ていた。


「おう、ワリーな、留守にしてて。待たせたかい?」


 テーブルにつくザンバリーのおっちゃんとコーリンに謝った。


「お前のことだからな、一日二日待つくらいの覚悟がなくちゃ付き合えないよ」


「アハハ。反論できねーのが悲しいな」


「今度はなにをしてたんだ?」


「まあ、いろいろだな。一言では語れねーよ」


 オレもなにやってんだかわからなくなってきたしな。説明できねーわ。


「お前は、違う方向に働き者だよな」


「村人だからな」


「その返しが意味わかんねーよ。村人の仕事じゃない仕事をやってんのに」


 オレからしたらどれもこれも村人でいるための行動だ。そうじゃなけりゃ、こんな疲れることしねーわ。


「まあ、そんなことより昼にしようや。腹減ったわ。コーリンも食うだろう?」


「はい。いただきます」


 伯爵令嬢なのに随分と気さくだなと思いながらも、収納鞄から昼食を出して行く。


「コーリンは、葡萄酒でイイかい?」


 貴族の食卓には葡萄酒が出ると聞いたのを思い出したので、一応、尋ねてみた。


「ザンバリー様から聞きましたが、ベー様の鞄は本当になんでも入ってるのですね。あ、葡萄酒でお願いいたします」


「なんでもは入ってねーが、まあ、それなりには入ってるな」


 そんな話をしながら昼食をいただいた。


 食後は、コーリン、プリッつあん、ドレミに白茶を出してやり、ザンバリーのおっちゃんとオレはコーヒーで一服した。


「さて。まずはコーリンの方から片付けるとするか」


 席を立ち、一階へ連れていく。


「コーリンには、ここの場所を任せる。つまり、コーリンの店だ」


「わたくしの、ですか?」


 キョトンとした顔で返して来た。


「ああ。まずは自分で稼いでみろ」


「……ど、どう言う意味でしょうか……?」


 まあ、それでわかるほど世間慣れしてねーか。だから商売しろって言ってんだからな。


 結界でテーブルを創り、その上にオシャレグッズを出して行く。つーか、いっぱいありすぎて全部出せねーな。メンドクセーとオシャレグッズが入った収納鞄をコーリンに渡した。


「その中にオシャレグッズが入ってるから、それを売って商売を覚えろ。オシャレを創るにしても考えるにしても、まずは金がいる。相手がいる。だから、まずは自分を鍛えろ。誰も通ってねー道を切り開いて行かなくちゃならんのだからな」


 これは一種の試験であり、コーリンの根性と才能を見るためのものだ。


「伯爵令嬢の立場を利用するのもよし。父親を頼るのもまたよし。使えるものは使って、ここをコーリンの店だと世に知らしめてみろ。それくらいできなくちゃ、コーリンが求めるものは手に入らねーぞ」


 世間知らずのお嬢さまには厳しいことだろうが、その厳しい世界に出たいと言ってるんだ、下手な優しさは有害でしかねーよ。


 だが、思い立ったが弾丸娘。オレの厳しい言葉など屁のかっぱ。まるで好敵手を得たかのような気迫を出して来た。


「ならば、ベー様に誓いましょう。わたくしは、わたくしの欲しいものを手に入れると」


 フフ。まさにアイアンレディ。頼もしいこった。


「ああ、精一杯がんばれや。微力ながら手伝わせてもらうよ」


 オシャレはオレの不得意分野。だが、衣食住と言うように衣は大切だ。ド田舎暮らしでもいろいろ服は必要になる。ましてや、これから人が増えてくる。益々服の需要は増えてくるだろう。


 食と同じように実るまでには時間がかかる。なら早目に始めてなければならんだろう、って訳だ。


「では、コーリンに最初の依頼を頼む。うちのオカンのために花嫁衣裳を考えてくれ。針子はこちらで用意すっからよ」


 二度目とは言え、やっぱオカンには花嫁衣裳を着させてやりてーしな。まあ、年が年だから派手じゃないのを頼むがよ。


「もちろん、代金はザンバリーのおっちゃん持ちな」


 息子としての孝行もあるが、男のプライドもある。そこは同じ男として立ててやらねーと、ザンバリーのおっちゃんの立つ瀬がねーよ。


「当たり前だ! 金に糸目はつけねーよ!」


 まあ、その心意気だけはオカンに伝えておくよ。あと、ちゃんと花嫁衣裳を着るように説得もな。

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