第415話 その方向で
チーン。
心の中のベルが到着の合図を鳴らした。
「ほ~」
「ここまた凄いことになってるね」
扉が開き、地下三階の造りやあるものに感嘆の声をあげるお二人さん。創作者としてはムフーと鼻息荒くなっちゃいますな。
「一応、ここも飛空船のドック――発着場として創ったんだが、小型のもの専用にしてるところだ」
サプルの愛機、ファニー号は、家の地下に置いてあるので、ここにはない。
「ここもベーが?」
「おう。趣味に突っ走った」
まあ、知識のねーど素人が創ったもんだから、いろいろ不備はあるだろうが、広さと資材、工具は豊富だぜ。
「完全に趣味を超越してるよな。だが、悪くはないね」
さすがカブキねーちゃん。このよさをわかってくれるか。
「二人にはここをやるから好きに使ってくれ。不便なら改造してもイイ。ただ、山を崩すようなのは止めてくれよ。この山、結構生活に必要な山なんでよ」
「ベーと一緒にしないでください。これでも常識派なんですから、わたし」
なに気に失礼なことをおっしゃる親方どの。でも、その通りなので反論できねー。
「ですが、確かによい造りですね。道工具も良質だし、見たこともないものが揃っている。回転式の砥石に掘削機、でしょうか? 実に興味をそそられますね」
創造者の性か、常に笑みを浮かべている親方が、子供のように興奮していた。
「気に入ってくれて嬉しいよ。さて、まずは親方とカブキねーちゃんに見て欲しいもんがある」
「え、ちょ、そのカブキねーちゃんって、決定なの?」
「諦めなさい。ベーは人の名を覚えるのを放棄した子です。嫌なら別の呼び名を用意しなさい。まあ、もう手遅れのようですがね……」
「し、師匠、知ってて黙ってたでしょう!」
「はい。おもしろそうだったので」
「っ~~! ほんと、腹黒師匠が!」
師弟のじゃれあいを邪魔しねーように、微笑ましい気持ちで見守った。ふふ。こーゆーのもイイもんだな。
弟子ではねーが、デンコとこーゆーことできたら楽しかっただろうな……。
まあ、人生、全てのことができるわけねーしな、今できる可能なことを楽しんで行こうじゃねーか。
「ほれ、いつまでもじゃれあってねーでいくぞ」
二人を促し、奥の格納庫へと向かった。
「今度はなにを見せてくれるんだい?」
「二人をここに連れて来た理由さ」
格納扉の横にある通路用扉から中へと入った。
「こ、これは!?」
「飛空船? それも小人族の……」
本来、飛行機を格納させるはずだったんだが、その前に殿様と知り合い、襲撃して来た艦隊らを一斉捕獲。飛空船ゲット! とか喜んでみたものの、オレ乗れねーじゃんと気付いてガックリ。捨てるのもなんだからと、格納庫の展示物にしたのだ。
「まあ、ここにある理由は省くとして、二人にはこれを整備、改造、そして、新たに建造してもらいてー」
「それは、とても興味深いけど、これ、小人族の飛空船じゃないか!」
「なるほど! ベーの力で大きくさせるわけですね!」
さすが親方。理解が早くて助かるぜ。
「とは言え、飛空船の発着所が小人族に占拠されたから、デカくする場所がねーんだよな」
小人族の戦艦は、大きいもので約二十メートル。このドックなら辛うじて格納できるが、人サイズにしようとしたら百メートルを超える。とてもじゃねーが、ここでは無理だ。下の飛空船ドックでも拡張しねーと無理だろうよ。
「さて、どーすっぺ?」
オレの灰色の脳細胞よ、覚醒せよ! とか叫んでも、そんなご都合な名案が出て来るわけもありませぬ。
「なら、ベーの力でわたしらを小さくしたらいいんじゃない? 最低でも小人族の飛空船は解析できるし、大きくするだけなら外ですればいいじゃない。小人族の飛空船も浮遊石を積んでるでしょう?」
「あ、ああ」
「なら、外に係留しておけばいいじゃない。なんなら、別に拠点を造るとか」
カブキねーちゃんのセリフに、まるで雷を受けたような衝撃が走った。ね、ねーちゃん、天才か!?
「な、なるほど。そう言う発想もあったな。まさに発想の逆転だぜ」
そんな発想で考えたら手は幾らでもある。
陽当たり山の海側は絶壁だ。なら、そこを港と見立てて、桟橋を伸ばせば飛空船は停泊できるし、近くに小さな島がある。そこを改造して飛空船場とすれば捕獲した戦艦十隻全てを大きくできるぜ。
「小さくなれるのはよいとして、ベーがいなければ不自由ですね」
「あ、そうね。小さいままではいろいろと不都合があるか……」
「いや、そうでもねー」
今、オレの灰色の脳細胞が大活性しているのか、その問題を解決できる手を思い付いた。
が、できる保証はねーので、まずはやってみることにした。
オレの考えるな、感じろ的思考から、結界使用能力と伸縮能力は同じだと判断する。なら、同使用も可能だと判断する。
あればできる。やればできる。なせばなる。伸縮結界、出ろ!
なんてやったら、あらできた。
「……イッツ、ファンタジィ~!」
で、超力全開で納得しとこ。うん。
「……ベーですしね……」
「……あ、ああ。ベーだからでいいんじゃない……」
ハイ、その方向でお願いします……。
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