第413話 カブキ者

 青年団に、あとは好きにしてろと言い残して花月館へと舞い戻る。


 居候さんも残りの青年団も帰ったようで、誰もいなかった。


「昨日の続きをするの?」


「ああ。時間もあるしな」


 のんびりマン〇ムタイムで待つのもイイが、今日は動きたい気分。んじゃ、やりますかね。


 転移の間から一階へと上がり、店、だったところへと来た。


 以前、なにか商売でもしてたのか、グレン婆の店と同じくらいの広さがあった。


 が、今はなにもないので、なんとも殺風景である。


 いずれここをオシャレ同盟の本拠地として考えているが、その前にオシャレ屋さんとして商売を始めようと思う。


 思うのだが、オシャレに疎いオレがオシャレ屋さんと言っても、なにをしてイイかわかんねーよ。


 じゃあやんなよの突っ込みに清き一票。


「やーめた」


 ゆっくりまったりマ〇ダムタイム。あーコーヒーうめー!


「え!? ベーの中でどんな展開があったの!? その短い間に!」


 なんかプリッつあんが騒いでいるが、マンダ〇タイムはオレの至高の一時。メンドーなので放置です。


 外の流れ行く風景(結構、人通りがあんだな)を眺めながら、二杯目をカップに注いでいたら、親方が現れた。


 あちらもオレに気がついたようで、軽く手を上げた。


 結界椅子から立ち上がり、店のドアを開けて親方を迎い入れた。


「おう。早かったな。午後かと思ってたよ」


「わたしも無限袋を所有してますからね、準備にはそれほどかかりません。今日になったのは、ちょっと昔の弟子を誘いに行ってたんですよ」


 と、親方の視線が動き、釣られて見れば、眼鏡をかけた超ナイスなボディーをお持ちの派手な衣装を着たお姉様がいた。


「……あーえーと、どこの民族衣装?」


 なんと言いましょうか、極楽鳥のような派手さだな。なんか目がチカチカしてくるな……。


「いえ。この子の趣味ですよ。才能ある子なんですが、美的感覚がアレでして……」


 あーうん。確かにアレだな。まあ、アレがなんなのかわからんが、アレとしか言いようがねーな、その美的感覚は。


「やだわ、先生ったら。いつまで経ってもこの美しさを理解してくださらないんだからぁ」


 無駄にエロいお姉様に、親方は大苦笑。弟子の中で相当の問題児だったようだな。


 師匠の苦悩などお構い無し。無駄にエロい目をこちらに向けてきた。


「初めまして。わたしは、アマラヴィ。師匠の六番弟子で飛空船大好きっ子です」


 無駄にエロいのに、無駄に子供っぽいことを言うお姉様。ふふ。自分に忠実な趣味人だな、このねーちゃん。


「オレはヴィベルファクフィニー。平々凡々に、悠々自適に、今日を楽しく生きてる村人です」


 その洒落た自己紹介に敬意を払い、ねーちゃんの流儀で返した。


「フフ。さすが師匠をたぶらかすだけはあること。おもしろい子。いえ、おもしろい村人さんね」


 無駄にエロい目が一瞬だけ理知的な目になった。


「そうかい。おもしろさで言ったらアマラヴィさんの方が上だと思うがな。イイかぶきっぷりだぜ」


「カブキ?」


「常識や風習に捕らわれず、世に自分は自分と主張する者のことさ」


 まあ、本来は違うが、このねーちゃんのスタイルを言葉にしたらカブキ者が一番似合ってると思ったまでさ。


「……カブキ。カブキ者ね。不思議な響きだけど、いいんじゃない。フフ。なら、あなたの期待を裏切らないように、精一杯カブキましょう」


 無駄にエロい雰囲気が、なにやら歌劇団の男役っぽくなった。


 なんか、いろいろやっちゃった感が否めないが、本人が満足してんなら、いっか。オレ知らねー。


「……ベーは、良くも悪くも人をおだてるが上手いな……」


 呆れ顔の親方なんて見えません。オレ、悪くないもーん。


「それで、このあと直ぐにいくのですか?」


 親方とカブキねーちゃんに結界椅子を勧め、親方にはコーヒーを。カブキねーちゃんにはコーヒー牛(羊)乳を出した。


「村に行くの親方たちだけじゃなくて、もう二人……いや、もう何十人かいんだが、今日の午後に将来、オレのオトンになる者とオシャレ屋を任すねーちゃんが来るんだわ。ワリーがその二人が来るまで待っててくれるかい?」


「わたしは、それで構わないのですが……」


 と、カブキねーちゃんを見る。


 オレも釣られて見れば、目を爛々と輝かせて早くいきたいと駄々をこねていた。


「わかったよ」


 言っても無駄なタイプと早々に諦めた。


「プリッつあん。ワリーが留守番頼む。ザンバリーのおっちゃんらが来たら待ってもらっててくれ」


「ハイハイ。わかったわよ。でも、早く帰って来てよ。わたしとベーは共存体なんだから」


 なんか、結構離れている時間があるような気がするんだが、それを言ったらメンドクセーことになりそうな予感がするので全力でスルーしておこう。


「はいよ。直ぐ帰ってくるよ」


 プリッつあんの頭を軽く撫でてやり、優しく笑って見せた。


「んじゃ、いきますか」


 二人を連れて転移の間へと向かった。


 豚もおだてりゃ木に登る。なんてことは考えてませんよ。


「……悪い顔してますよ……」


 おっと。スマイルスマイル。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る