第406話 ギルティ
カランコロン。
ん? なんだ今の?
どこからか鐘が鳴る音が耳に届いた。
「来たんじゃないの?」
プリッつあんの言葉に、今のがなんなのか気がついた。
「あ、呼び鈴か、今の!」
あったんかい、そんなもの! まったく気がつかんかったわ!
ド田舎じゃ自分の声が呼び鈴だ。前世でも呼び鈴のないアパートだったのですぐにわからんかったよ。
「プリッつあん、よく見てんな」
「見てないベーが変なのよ」
メルヘンとは言え女は女。侮れねーな、こん畜生が。
席を立ち、玄関へと向かった。
あいよーとドアを開けると、居候さんと、オレよりちょい上ぐらいな白髪のエルフさんがいた。
「お待たせ。農作業したいって子を連れて来たわ。ほら」
居候さんが白髪のエルフ……殿を前に出すと、ペコリと頭を下げた。
「は、初めまして。タノン・ティンと申します」
「……あ、うん。初めまして。オレは、ヴィベルファクフィニー。よび難いときはベーと呼んでくれ」
エルフは握手する習慣がないので、軽く頭を下げた。
「しかしなんだ。この国にはいろんな人外さんがいんだな。まさに森の賢者って感じだな」
見た目からは想像できないほど、目の奥に知性の輝きがあった。
「これまでエルフとは何人も見てきたが、吸い込まれそうなくらい深い目をしてんな。ある意味、魔王すら凌駕してんな」
魔力や武力ではなく、存在感がスゲーのだ。多分、この賢者殿は気配を殺してるんだろうが、オレの考えるな、感じろセンサーが完全に振り切れている。
……この賢者殿、居候さんと同等か、ちょい上の感じだな……。
「ふふ。なるほど。グレンさんに気に入られるだけはある。見た目には騙されんか」
「それで騙されるヤツは目が悪いかアホなんだろう。ある意味、居候さんより敵にしたくねー存在だな」
まさに老獪にて老猾。一番敵にしてはならねータイプだ。
「フフ。やっぱり自分に似てる者はわかるのね」
「それは賢者殿に失礼ってもんだな。オレはたんに思いつきで行動してるだけだ。深くなんて考えてねーよ」
考えたとしても二手か三手先まで。賢者殿のように何千手先まで見るような、深い知性を宿らす目には遠く及ばねーよ。
「どんなに深く考えようと、たんなる思いつきに負けるときもある。一歩先は闇さ」
たまに前世と似たような諺があるよな、この世界って。
「まあ、だからこそ生きるのはおもしろいんだがな」
そう思えるのは、前世の記憶があり、三つの能力があり、親に恵まれ、環境に恵まれ、人に恵まれたからだ。だからこそ、この人生に感謝したくなる。
「自分のことを差し置いて言うことではないが、見た目とはまったく違うのぉ」
「オレは気にせんよ。こうして中身を見てくれる者がいるからな」
だからこそ、その出会いを大切にしたい。
「歓迎するよ、タノンさん」
「世話になるよ、ベーさん」
エルフの習慣ではない、人の習慣たる握手で迎え入れた。
花月館へと招き入れ、居候さんとタノンさんにお茶を出した。
「よいお茶を持っておるな」
「言ったようにエルフの知り合いが多いんでな、イイお茶をもらうこともあんだよ」
まあ、淹れたのはサプルであり、結界凍結してただけだがな。
「農作業を、と居候さんから聞いてるが、なんでまたやろうと思ったんだい?」
エルフが農作業するとは聞いてねーし、農作業をやるタイプにも見えねーんだがな。
「もう、飽きるくらい人の世で生きた。死ぬそのときまでは、これまでしたことのないことをやろうと思ってのぉ」
まさに老後は田舎でスローライフって感じだな。
「それもまたイイ人生だ。楽しむとイイさ」
死ぬそのときまで人生だ。楽しく生きて楽しく死んでけだ。
「ふふ。だが、こうして人と話すのも存外、止められんもんだのぉ。時々でよいから話し相手になってもらえると助かるよ」
「それはオレのセリフさ。時々と言わず、暇があったら遊びにいかせてもらってイイかい?」
「ふふ。男に誘われるなんて何百年ぶりかのぉ。枯れていたものが熱くなってきたよ」
「まあ、女は死ぬその時まで女って言うしな、熱くなればイイさ。もちろん、他の男に、な。さすがにこの年の差は犯罪だぜ」
もちろん、タノンさんの方がギルティだがな。
「おや。見た目的にはお似合いだと思うがのぉ?」
「見た目だけだろうが。オレはボン――いえ、なんでもございません。女は中身デス」
なんか全方位から殺気が来たので主義趣向を無理矢理ねじ曲げました。
「ふふ。それがいい男ってものさ」
うん。やっぱこの賢者殿、敵にしたらヤベー人(外)だ。
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