第405話 花月館

「では、用意してまいります!」


 そう叫ぶと、ねーちゃん、コーリン嬢がどこかへと駆け出していった。


 ノリと勢いの人と思ったからノリと勢いで煽ったが、どうやらこの人も思い立ったが吉日らしい。ブレーキ役がいねーとダメなタイプだな。


「な、あ、コーリン嬢! 待ってください!」


 と、数メートル空いた距離を一瞬で縮めてコーリン嬢の手首をつかむザンバリーのおっちゃん。さすが元A級の冒険者。運動神経や反射神経がハンパねーな。


 でもまあ、納得だわ。確かにザンバリーのおっちゃんをお目付け役にしなくちゃなんねーわな。こんな思い立ったが吉日弾丸娘、並みでは御し得ねーよ。


「ドレミ。ワリーがザンバリーのおっちゃんに着いてってくれ。用意ができたら転移して家に連れて来てくれ」


「はい、マスター。わかりました」


 猫の身体能力ばりにザンバリーのおっちゃんね肩にジャンプ。手乗り文鳥ならぬ肩乗り猫となった。


 なんかイイな、あれ。とか思ったが、頭の上の住人さんからしたらオレの肩は居間的なところらしく、しかも、自分の部屋に人を入れたくないタイプときたもんだ。ちぇっ。 


「ザンバリーのおっちゃん。家を用意しておくからそこで待っててくれ。なるべく毎日いくようにするが、いろいろあってこれるかわかんねーんだよ。まあ、明日の午後にはくるから、コーリン嬢にもそう言っててくれや」


「わ、わかった」


 腕をつかまれていても弾丸娘の威力はなくならないようで、ザンバリーのおっちゃんを引きづりながら進んでいた。


 ……なんつーか、残念なご令嬢だな、この人……。


 なんてことを思いながら二人とドレミを見送った。


「さて。いくか」


「え、どこに?」



「もちろん、家……じゃ紛らわしいか。そうだな……花月。花月館でイイか」


 どうしてかは内緒。ただ、思い出の名とだけ言っておこう。


「あの家、花月館に決定な」


「まあ、いいんじゃない。響きが綺麗だし」


 プリッつあんの賛同を得たので、花月館へと戻ることにした。


 到着し、いつものように倉庫から入ろうとしてストップ。そう言や、玄関から入ってねーなと気がつき、玄関へと回って館の中に入った。


「なにもないのね」


「まあ、長いこと空き家だったらしいからな」


 なんでも昔は人外さんが住んでいたらしいが、共同生活なんてできるわけもなく、たった半年で封鎖されたらしい。それから住む人もなく、そのまま放置されていたんだってよ。


「にしても、靴のまま住む文化には慣れねーな」


 我が家は日本家屋風で、土禁にしてある。だから余計に慣れねーんだがな。


「まあ、セカンドハウス的なもんだし、しゃーねーか」


 もらったものとは言え、たまにくるオレに合わせたら、ここに住むヤツが気の毒だ。このままにしておくか。


「取り合えず、二階から見ていくか」


 二階三階が住居ってことらしいので。


 たぶん、グレン婆が設計したんだろう。なんか造りがアレだった。


「なにか、造りが可愛らしいわね」


「そうだな」


 意外と乙女趣味なヤツだったからな。住むには、ちと勇気がいるぜ。


「でもまあ、乙女が住むんだから構わんだろう」


 ここをオシャレ同盟の本拠地にしようと考えてるし、オレの部屋は地下に創ろうと思ってる。なんも害はねーさ。


「とは言え、そこまでいくには時間がかかるし、まずは普通にしておくか」


 まずは居間からやるかと移動し、収納鞄からクッションやら敷物やらを出していく。


 一応、台所があったので皿や鍋、食器類を出したり食糧を出したりしておいた。


「つーか、家具がねーと、どうしようもねーな」


 テーブルや椅子と言ったもんがねーと、暮らすには不便だわ。


 とは言え、さすが家具はどうしようもねーな。収納鞄には容れらんねーし、家具類は受注生産。作り置きはしてねー。まあ、ちょっとした入れ物的なものはあるが、不便には変わりはねーよ。


「どーすっかな~」


 サリネに頼もうにも別の依頼を出しているから無理だし、王都の家具屋に頼んでも時間かかりそうだし、カイナに頼……ん? そー言や、プリッつあん、カイナからドールハウスならぬ、ドールキャッスルもらってたよな。確か、家具も着いてたはずだ。


「プリッつあん、ドールキャッスル出してくれや」


「ドールキャッスル? ああ、わたしの家ね」


 いや、あんたの家、オレの頭の上じゃんとかは言わないでおこう。なんかメンドクセーことになりそうな予感がするんで。


 オレが創ってやったポシェットからドールキャッスルを取り出した。


 なんかいろいろ突っ込みされそうな状況ですが、ここは全力全開でスルーさせてもらいます。


「どうするの?」


「ワリーけど、プリッつあんの家から家具もらうな」


「えー! お気に入りなのにー!」


「またカイナに頼んでやるから我慢しろ。そのうちサリネにも頼んで作ってもらうからよ」


 宥めすかしてプリッつあんの許可を得た。


 一センチくらいのドールキャッスルを二メートルくらいにデカくして、家具を取り出した。


「オモチャのクセに精巧な作りしてやがんな」


 でもまあ、今はその職人芸に感謝しよう。感謝感激雨霰と、家具を各部屋に運んでデカくしていく。


「こんなもんかな」


 今日は時間もねーし、だいたいでイイだろう。


 それでも結構時間がかかったようで、もう五時を過ぎていた。


「難航してんのかな?」


 まあ、急いでもしょうがねー。ご隠居さんが来るまでマン〇ムタイムといきますか。


 あーコーヒーウメー!

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