第404話 外野はお静かに

「よっ、ザンバリーのおっちゃん。まだ王都にいたんだ」


 もう、とっくの昔に村に向かっていると思ったが、まだいたとはびっくりだよ。


「ベ、ベー! お前こそ、村に帰ったんじゃなかったのか!?」


「帰ったよ。で、また来たまでさ。まあ、今回は日帰りだがな」


 あ、そー言や、サプルやオカンに出かけること言ってくんの忘れたわ。ワリー、二人とも。


「あの、ザンバリー様。この子は?」


 と、横にいた、如何にもな貴族のご令嬢様が、不思議そうにザンバリーのおっちゃんに尋ねていた。


「どうも、初めまして。オレは、ヴィベルファクフィニー。ただの村人だよ。頭の上にいんのはプリッつあん。横にいんのがドレミだ」


「どうも。わたしは、プリッシュよ」


「ドレミと申します。どうかお見知り置きを」


 バーザのおっちゃんとは違い、自分から前に出て行く二人(?)。プリッつあんはともかく、ドレミもこの状況を理解してんのが驚きだよ。


「…………」


 そんな二人(?)に目を見開くご令嬢様。まあ、耐性がない人にはびっくり生物だしな。


「あ、あのな、ベー。これはなんでもなくて、コーリン嬢を案内してるだけで──」


「──そう慌てんな。ザンバリーのおっちゃんがそんなことできるとは思ってねーからよ」


 そんな甲斐があったら、それこそとっくの昔に結婚してるわ。良くも悪くも純情なおっちゃんだからな。


「んで、いつ頃村にこれんだ? 迎える準備もあるからよ」


 まあ、それなりに準備は進めてはいるが、オカンの方の心の純情を整えさせなくちゃなんねー。のほほんとしているクセに、結構、自分のことには弱いんだよな、うちのオカンはよ。 


「あ、ああ、おれもすぐにでもいきたいんだが、ちょっと、断れない依頼を受けっちまってな……」


 言い難そうにご令嬢様を見た。


「冒険者、引退したんじゃねーの?」


 カーチェはギルド証を返したって言ってたぞ。


「いや、まあ、引退はしたんだが、断れなくてな。サリオ伯爵には恩があってよ」


 A級の冒険者となれば貴族からの依頼が多くなるし、貸しや借りが生まれてくる。まあ、オレには不向きな生き方だが、人の中で生きてりゃしがらみは嫌でもついてくる。しゃーねーと諦めろだ。


「ふ~ん。それはご苦労さん。で、時間がかかりそうなんかい?」


 かかるならかかるで構わんよ。なるようにしかならんのだからな。


「それが、よくわからんのだ。コーリン嬢の探し物がなんなのかわからなくてな……」


 そりゃまた難儀な依頼だこと。


「ねーちゃん、なに探してんだ?」


 メンドクセーので単刀直入に尋ねた、んだが、まだ惚けてやがるぜ。


 しゃーねーと、結界ハリセンでパシっと喝を入れてやった。


「ベー! お前、なにやってんだ!」


「正気を取り戻してんだよ。ほら、目覚めろや!」


 もう一発入れてやる。


「おまっ、止めろよ! 不敬罪で捕まるぞ!」


「大丈夫。コネと金はある。たかだか伯爵ごときなんもできねーよ」


 こっちには、大老どのと宰相どのがついている。伯爵ごとき、闇から闇さ。ケッケッケッ。


「と言うのは本気で」


「本気かよ!」


 なかなかナイスな突っ込みをするザンバリーのおっちゃん。でもなんかしっくりこねーな。


「ほれ、ねーちゃんよ。いい加減目覚めろや」


 結界ハリセンでねーちゃんの頬をグリグリさせる。


「──はっ!」


 漫画みてーな覚醒を見せるご令嬢様。なんかおもしろい人かも。


「ねーちゃん、なに探してんだ?」


「……え、あの、なにがどうなっているのでしょうか……?」


「ご令嬢様がなんか探してる。それはなんだってことを話してたんだよ。ほれ、言ってみな。ホレホレ」


 結界ハリセンで頬を突っついてやる。


「え、え、え、あの、実は、髪飾り屋を探してまして」


 髪飾り屋? 王都にそんなもんあったっけ?


 いやまあ、王都のオシャレ屋さんなど知らんが、髪飾り屋なんて……ん? あれ? なんだ、この喉に引っかかるものは……?


「ねぇ、ベー。もしかして、この人の言ってる髪飾り屋って……」


 あーうん。オレがやったオシャレ屋さんですね。


 いや、まさかここに来て以前の話が出て来るとは。人生、なにがあるかわかんねーな。


「もしかして、と言うか、オレです。その髪飾り屋は」


 正直に認めた。なんか、オレの考えるな、感じろセンサーが激しく振れているから。


「そ、そう言えば、サナが男の子と羽妖精がやっている店と言ってましたっけ……」


 うん。オレたち以外にいないですね。


「お願い! わたくしに髪飾りを見せてくださいませ!」


 なにやら興奮したご様子。なんなのいったい?


 説明ぷりーずとばかりにザンバリーのおっちゃんを見る。


「あー、そう言や、コーリン嬢、衣装に興味を持っていたな」


 ザンバリーのおっちゃんの説明を端的に纏めると、このご令嬢様、オシャレ大好きさんってことらしい。する方じゃなくてさせる方、まあ、デザイナー志望、ってことか?


「ねーちゃん、伯爵令嬢なんだろう? イイのか、そんなことして?」


 貴族社会なんて興味もねーし、知りたくもねーが、前世の記憶から言って貴族のご令嬢様がやってイイことじゃねーだろう。つーか、ご令嬢様に人権なんてあんのか?


「わたくしは、わたくしのやりたいことをやります! 例えこの身が朽ちようとも、わたくしはわたくしのために生きるのです!」


 なかなか豪気なご令嬢様だ。うん。気に入ったよ、このねーちゃん。


「ふふ。なら、ねーちゃん。世界、いや、オシャレ界を覆してみねーか? ねーちゃんのそのやる気と感覚と才能を、この世界に示す覚悟はあるか?」


 まっすぐ、ねーちゃんを、いや、コーリンを見た。


「覚悟ならとっくに持ってます。わたくしはわたくしのために生きると決めたその日に!」


 コーリンも真っ直ぐオレを見た。


「ならばオレと来い。お前を、いや、コーリンと言う名を世界に刻んでやる。デザイナーコーリン。コーリンブランド。その名は永遠だ!」


 オレの差し出した手を、コーリンは躊躇いなくつかんだ。


「ええ。わたくしの名を世界に刻んでみますわ!」


 後の世に、コーリンブランドが世を席巻する、かどうかはコーリン次第だ。遠慮なくやったれだ。


「なにかしら。前にもこんな茶番を見たような気がするんですけど」


「わかってはいたが、未来の息子の将来が心配でたまんねーよ」


 ハイ、外野はお静かに。

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