第407話 青年団

 カランコロン。


 タノンさんとおしゃべりしていると、花月館かげつかんの呼び鈴が鳴った。


「ご隠居さんか?」


「ええ。移住者を連れて来たわよ」


 んじゃと席を立ち、玄関へと向かった。


 トントンと軽やかに階段を下りていくと、なにやら外から団体さんの気配(あと魔力)を感じた。


「……随分と賑やかだな……?」


 ドアを開けると、ご隠居さんの背後に青年団が控えていた。


「なんだって大人数だな」


「ああ。いつの間にか集まってしまってな……」


 なにやら困り顔のご隠居さん。どったの?


「まあ、無理言って連れてきてもらったんだ、中へどうぞ」


「お邪魔するさね。お前さんら、わしが紹介するまで大人しくしてるように」


「わかりました、先生」


 見た目、三十前後の貴族かと思うくらいピシッとしたあんちゃんが、青年団を代表して答えた。


 ん? 先生? ご隠居さんがか?


「まあ、老後の暇潰しさね」


「ふふ。まあ、深くは追求はしないでおくよ。先生としての威厳もあるだろうからな」


 これはオレの適当な想像だが、ご隠居さんは、失敗から学ぶタイプなんじゃねーかなと思う。


 だからいろいろやらかしてんだろうな~と思ったんだが、その表情からして、やはりいろいろやらかしてそーだわ。


「……お前さんは、無駄に勘がいいから始末に負えんさね……」


「若いときの恥は掻き捨てろ。ってな。今のご隠居さんをつくったんだから無駄にはなってねーさ。まあ、バレないようにガンバレ」


 若い頃の恥は今になっても恥ずかしいこと。墓まで持っていけるように、死ぬその時まで誠意努力だな。フフ。


 ご隠居さんの睨みから逃れるように、青年団を館に迎え入れた。


「まだ、住むようにはなってねーんで、適当にしてくれや」


 花月館の居間は、大人数を迎え入れるように設計されたのか、備え付けの土椅子(?)が結構あるのだ。


 ドールキャッスルからも結構椅子を出したので、まあ、全員……って、青年団、何人いんだ? と思って数えたら十四人もいやがった。


「茶出すのもメンドクセーし、酒でイイかい?」


 野郎だし、茶よりは酒が好まれんだろう。


 収納鞄から適当に酒を出して、テーブルに置いた。


「まあ、正気を失わねー程度に飲んでくれや」


 カイナが出した酒だが、あの飲んだくれの中に、ご隠居さんもいた。テキトーに飲み方教えてくれ、と視線で頼んだ。


 野郎ばかりにもてなしするのもなんなので、レディさんたちにももてなしとして、ラビーで作ったモンブランモドキを出した。


「ほ~。これはまた美味なる菓子じゃな」


「おいひぃ~!」


 まあ、気に入ってもらえてなによりだよ。


 青年団に酒がいき渡り、初めての味に興奮している光景をコーヒーを飲みながら眺めた。


 視界の隅にご隠居さんが入っていたが、オレのしたいことを理解してくれたようで、なにも言わず日本酒を口にしていた。


 青年団を眺めての感想は、若いな、であった。


 立ち振舞いやしゃべり方からして優秀な者たちなのは嫌でもわかるが、それを隠す術や抑える術がまったくなかった。


 まあ、この年代に老成を求めるほうがどうかしてるが、せめて、こちらの意図に……気がついた者が何人かいるか。さすがご隠居さんが選抜しただけはある。


「さて。場も和んだことだし、自己紹介といこうか」


 討論会気味になっていた青年団が、一斉にこちらを見た。


「そうさね。自己紹介といくかね」


 お猪口(妙に似合ってんな、その飲み方)をテーブルに置き、青年団を並べさせた。


「まあ、自己紹介と言ってもお前さんのことだから各自の自己紹介は止めとくさね。なんで、こいつらは、わしの教え子で、バリトラス塾の塾生だ。なんと説明してよいかわからんが、まあ、未来を考える者たち、かの?」


 塾と言うよりは結社って感じかな? この時代と情勢では。


「ふ~ん。そう言うのがあったんだな」


「まるで似たようなものがあることを知ってそうな口振りじゃな」


「老害が激しいところには自然とできるもんだしな。まあ、本の受け売りだがな」


 ご隠居さんの突っ込みをサラっと受け流した。


「ほんで、この青年団が移住したい──ってわけじゃねーよな。さしずめ課外授業ってとこかな?」


 オレのところに来て、なにを得られるかは知らんけどよ。


「フフ。課外授業、か。言い得て妙さね。まあ、確かにお前さんを見せるために来たがのぅ」


「言っちゃなんだが、オレから学んだら人生に失敗するぞ」


「それは真似したら、じゃろう。誰もお前さんみたいな生き方なんてできんさね。だが、そう言う考えもあると知ることは、充分学ぶ価値があるもんさね」


「さすが教育者。言うことが深いね~」


「お前さんの前では浅知恵さね。それに、わしの教えは過去の経験。未来の失敗は教えられんよ」


「歴史を学ぶのも重要さ。過去を知り、今を知ることが未来を知ることに繋がるからな」


「聞いたかい? これが今を知り、今を生きている者の意志じゃ。うわべだけの知恵やうわべだけの経験などこいつの前では苦笑でしかない。お前たちの嘲笑など赤子の微笑みと同じ。上には上がいて、未知の考えを持つ者がおる。お前らが何十人と集まろうが、ベーの足元にも及ばんさね」


 ああ、なるほどね。つまり、その傲慢をヘシ折ってくれってことね。


「オレたちは今、異種族間国家を創っている。まだ国の形もできてねー。だが、いずれ形になり、人が、増える。そこに王はいるが、統治はしねー。さて。あんたたちは、どうする?」


 今の今まで気が付かなかったが、エリナに統治なんて超絶無理。ならば、その代案を考えなけばなんねー。ご隠居さんはオレを高く買ってくれてるようだが、それは買いかぶりだ。オレの頭じゃ民主制国家ぐらいしか思いつかねー。異種族を纏める法律やら統治やらどうするかなんてわかんねーわ。


 なら、頭のイイヤツ、いや、頭のイイヤツらにマルっとお任せしようじゃねーの。


「もし、興味があるんなら考えてみな」


 睨むような目でオレを見る青年団に向け、挑発するように言ってやった。


 そして、願わくば、オレに代わって難しいことをやってくださいな。オレのスローなライフを守るために、よ。

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