第402話 回覧板

「さて。どうする?」


 アロード武具店を前にして、どう誘うか悩んだ。


「また、碌でもないこと考えてる」


 ハイ、プリッつあんの呟きなど、右から左にスルっとスルーです。


 う~ん。前回と同じにするのも芸がない。かと言って友達を誘う手段など、アレ一択しかねー。


 そもそも友達を誘うなんてしたの、小学校の、それも低学年までだ。だいたいは学校帰りに遊んだり、遊びにこられたりぐらい。そんなバリエーションがあるわけもねーよ。


「しゃーね。普通にいくか」


 それしか思いつかんしな。


 アロード武具店のドアを開けて中へと入った。


「おばちゃん、ジーゴくんいますか~?」


 カウンターの向こうにいるジーゴの嫁さんに尋ねた。


「ぶふっ。まるで遊びにきた子どものようだね」


「オレ、子ども。ジーゴ、友達。礼儀正しい子供の誘いだろう?」


「……あ、そう言や、あんた子どもだったね。見た目は、だけど」


「失敬な。オレは身も心も子どもだもん!」


 胸を張って言えるぜ、オレはよ。


「子どもの姿をして子供を装ってる老獪で悪戯好きなバケモノだよ、あんたは」


 失敬なおばちゃんだ。プンプン!


 なんて怒ったところで老獪で、人外なおばちゃんに通じない。あんたがバケモノじゃんかよ。その異様さが透けて見えるぜ。


「ジーゴも大変な嫁を持ったな。まあ、他人の色恋に興味はねーけどよ」


 オレの考えるな、感じろピューターが言っている。このおばちゃんは、深淵って言葉が似合いそうな人外だってな。


「なんだい。ノロケ話は聞いてくれないのかい?」


「アホか。そんな口からなんか出そうな話、聞きたくもねーわ。誰もいねーところで二人でチチクリ合ってろ」


 ジジババのそんな光景、想像もしたくねーわ。


「まあ、あんたには感謝してるよ。あんな生き生きしたジーゴを見るのは久しぶりだからね」


「オレの勝手でしたことだよ」


 ジーゴのあの突っ込みが好きでやってるまでだしな。


「そんで、ジーゴはいんのかい?」


「ちょっと前に鍛冶ギルドにいったよ。なんか嫌な予感がするとか言ってね」


 アハハと豪快に笑うおばちゃん。


「ほう。ジーゴもとうとう人外の域に近付いてきたな。さすが親方の弟子だぜ」


「いや、別にジーゴは人外になろうとして、いや、人外になってくれた方がいいのかい? いつか一族にしようと思ってたしね……」


 ハイ、その言葉で決定。このおばちゃん、吸血鬼でしたー。ジーゴ、君は人外になるべくしてなる運命のようだね。ご愁傷さまです。


「まあ、その永遠の愛に幸多かれと願うよ。ジーゴのほう、多めでよ。いねーのなら親方んとこいくわ」


「そうかい。ゆっくりして行きな」


 左側の扉が開き、あいよと応えて階段を下りた。


 いつものように(?)に扉が自動で開いてくれたので、勝手にお邪魔しますよっと。


「親方、いる~?」


 なにやら店内に姿は見えねーようだが。


「はい、いますよ~」


 と、奥(?)から親方の声がして、しばらくして、なにかA4サイズくらいの板を持って出てきた。


「忙しかったかい?」


「いや、ちょっと回覧板が回ってきたから読んでたんですよ」


 回覧板? って、あったんだ。この時代に……ってか、この世界に、か?


「め、珍しい風習があんだな、王都って」


 他のところで回覧板があるなんて聞いたことねーぞ。


「あ、いや、これは我々の間で回っているものですよ。引きこもりが多いですからね」


 ほらと回覧板を見せてもらった。


 前世でよく……は見てねーが、なんか摩訶不思議なインクで書かれ、脇にはこれを読んだ人──人外さんの名前が記入してあった。


「つーか、差し出し先、グレン婆のところかよ!」


 人のこと言えねーが、変なもん根付かせてんな、グレン婆は。


「人を探しているようですね。移住とか」


 回覧板にはボブラ村へ移住する気がある者はグレン婆の心地好い一時まで、と書いてあった。まあ、要約すると、だがよ。


「ああ。今創ってる国の住人が増えてくる前に働き手を確保しようと思ってな。できればジーゴが来てくれっと助かるんだがな。人魚族の武具造ってもらいてーからよ」


 決して突っ込みがホシイからじゃナイヨ。


「では、わたしではどうですか?」


「はい?」


 えーと、よく聞いてなかった。なにが、わたし、ならなんだ?


「わたしがボブラ村に移住してはダメでしょうか?」


 ワ、ワリー。ちょっと考える時間をオレにくださいな。えーと、あーと、つまり……。


「マジで?」


「マジがなんなのかわかりませんが、多分、そのマジです」


「あーうん。イイんじゃねーかな。いや、来てくれんなら大歓迎さ。いや、武器は幾らあっても困らねーからな」


 エリナんとこ、人魚んとこ、あんちゃんのとこと、催促きてっからな。充実させねーと思ってたんだよな。


「あ、親方って、防具とかも造れんのかい?」


「ふふ。これでもジーゴの師匠だよ。なんなら飛空船だって造ってみましょうか?」


 やれやれ、すぐ近くにいたとはな。人外、いや、親方パネーぜ。


「なら、飛びきりの場所を用意してやるよ」


 秘密基地、親方に進呈せんとな。

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