第400話 超解せぬ!
Cランチを二、三口食べた頃、親父さんが現れた。
「結構近くにいたんだな」
通信を切ってからだいたい七分もしないでくんだからよ。
「いや、全力で走ってきたようにしか見えんが」
言われてみれば確かに肩で息をしている。元気な親父さんだ。
「すまないな。ベーがバカで」
なぜか公爵どのが謝罪する。つーか、なぜに罵倒されたのオレ!
「いや、無理に言うことはない。まずは息を整えられよ。すまぬ、飲み物を頼む」
ちょうど通りかかった居候さんに飲み物を頼む公爵どの。なんか、オレの立場、なくない?
「ハーイ! 只今お持ちしまーす」
無駄にウェイトレスが板についてる居候さん。あんた……いえ、なんでもございませんデス。
なんかスッゴい目で睨まれたので光の速さで目を反らしました。
目を反らしたままCランチに全力集中し、食べ終わったら親父さんが落ち着いていた。
「まったく、お前は無茶ばかりしてくれるよ」
「?」
「いや、なに言ってるかわかりませんって顔してるのがわからんわ。おれはまだ冒険商人上がりなんだからな」
「ああ。知ってるよ。それが?」
名前を忘れ――覚えるのが苦手なオレだが、他のことには結構、記憶力イイんだぜ。まあ、覚える気があったら、だげどな。
「……もういい。お前の中の常識に、なにを言っても無駄みたいだからな……」
「まあ、それが賢明だな。こいつの顔の広さは飛び抜けておるから。たかだか帝国の公爵がごとき、ベーの中では中の下ぐらいの価値でしかないからな」
「そう思えるベーが非常識ですからね」
「フフ。さすがベーに見込まれただけはある。なかなかの豪胆ぶりだ」
「これでも心の中では叫びまくりですよ。なんだこの非常識なガキはとか、顔に出さないようにするのが精一杯でしたからね」
超余裕綽々な顔しか記憶にないんですが。
なにやら会話が弾むお二人さん。
まあ、なんだ。どちらも、なんだろうが、この二人は似てるな。
頭のよいところ。カリスマ性があるところ。人を内面で見るところ。常に不敵でいるところ。冒険心が強いところ。機を見る目がスゴいところ。茶目っ気があるところ。誰とでも話せるところ。まだまだあるが、一番に似ているのは、生きていることを楽しんでいるところだろうな。
「輝いてんな」
「なんだ、突然?」
「なにが輝いているんだ?」
首を傾げる二人に笑いが込み上げてくる。もっと早くに出会っていたら、この二人は親友同士になってたかもな。
「いや、なんでもねーよ。それより、公爵どのにアブリクト貿易連盟を見せてやってくれや。公爵どのも……そうだな。一旦戻ってリオカッティー号で、正式に来た方がイイかもな。今日だけではわからんだろうしよ。公爵どの、どうだ?」
「……なにを考えているのだ?」
訝しげな目をオレに向けてくる公爵どの。まあ、そう思うのも無理もねーか。この状況では。
「いや、考えるな、感じろ的にそう思っただけさ。今日だけでイイってんなら夕方までには帰ってこいよ。次、いつくるかわかんねーからよ」
あの転移珠、オレしか使えねー仕様になってんでな。
「……ベーの考えるな、感じろはバカにできんから始末に終えんからな……」
瞼を閉じて考えに入る公爵どの。まあ、よく考えて決断しな。決めるのは公爵どのなんだからよ。
「わかった。正式にお邪魔させてもらおう」
「ってことだから、正式に出迎えてくれや、親父さんよ」
ハイ、サクっと親父さんに丸投げです。
「だから、おれは冒険商人上がりだと言ってるだろうがよ……」
「大丈夫大丈夫。親父さんの背後にはマフィアや会長さんらが控えているじゃん。それに、美中年さん――この国の宰相さまともお知り合い。今なら大老どのもいるから問題なく話を進められるって」
まあ、いろいろメンドクセーことはあるだろうが、そこはそれ。親父さんの努力と手腕に期待します、だ。
「……もう、この国牛耳ってるの、お前だと言われても信じられそうだよ……」
「おれは、一国どころか世界を牛耳ってると言われても信じられるな」
牛耳ってはいない。ただ、暗躍はしているだけだ! とは言わない。なんかスゲー納得されそうだから……。
「はぁ~。わかった。正式にこれるように準備しておくよ。ただ、公爵どの――あ、いや、失礼しました。公爵樣――」
「公爵どので構わんよ。もうあだ名のようになっているからな。もう気にもならんさ。いや、もうそれで良いのではないかと思える自分がいるくらいだ」
「では、わたしは、ブラーニーとお呼びくださいませ。あと、口調はご勘弁を。さすがにベーのようにはできませぬゆえ」
「ベーのように無茶は言わんよ。こればかりはしょうがないからな」
「別に畏まることねーじゃん。公爵とは言っても帝国の公爵なんだからよ」
身分制度のある世界とは言え、公爵どのは外国人。違う国の人なんだから気軽に話したらイイじゃん。
「お前の豪胆ぶりが羨ましいよ」
「まったくです」
なぜか呆れた目で言われた。超解せぬ!
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