第395話 宣言

 カイナーズホームがスゲー興味あるが、殿様の方をなんとかしないと夕食に遅れてしまう。


 まあ、遅れたところで『またか』と思われて終わりだが、夕食に向かう努力をするのが家長としての心意気。ハイ、言ってみただけです。すっぽかし常習犯です。


 結界エレベーターで秘密基地へと昇った。


 階にして地下六階。飛空船ドックになるところで降りた。


 一応、五十メートル級の飛空船を容れようとしたので、殿様の空母は余裕で収まっていた。


 以前も殿様の船をここに容れたとは言え、小人用には造ってねー。なんで結界で空母を固定。結界桟橋を渡してやった。


「あんたたち、もう離してイイぞ」


 空母の乗組員が下りて、人力で空母を押さえていた。


 ちゃんとわかるように結界を色付けしてるので、乗組員たちは素直に手を離した。


「あ、アマリアたち、いたんだ」


 プリッつあんの呟きに辺りを見回すと、奥の倉庫と通じる通路から出てきた。もちろん、人型形態でな。


 荷物運搬用なので高さもあるから、二メートル近いバ、バル……もう、メルヘン機人型形態とかでイイや。


「つーか、なんか増えてね?」


 さっきまで五機だったのに、なぜか八機に増えている。飛行機派って何人いんだよ?


「整備班が乗ってるんじゃないの?」


「整備班?」


 なんだそりゃ?


「よくわからないけど、操るよりいじるのが好きな子たちが整備班になったって聞いたよ」


 ほんと、よーわからんな、メルヘンどもは。


「プリッつあんは、あーゆーのに興味はないのか?」


「全然。わたしは、お洒落する方が好きだわ。なんで皆、あんなのが好きかわからない」


 なんだろう。今、プリッつあんが正統派メルヘンに思えたんだが。


「ベー」


 と、下から殿様の微かな声がした。


 殿様自体がデカい声を出すので辛うじて聞こえるが、基本、小人族との会話は成り立たねーんだよな。


 オレには結界があるから普通に話せるが、なにやらいっぱい出てきて、オレの足元近くまで来ていた。


 話すだけなら問題ねーが、さすがに踏んでしまいそうで怖い。しゃーねーと、自分の体を小さく──ふべしっ!


 なんか重いものに体のバランスを崩され倒れてしまった。


「もー! いきなり小さくならないでよ!」


 上からプリッつあんの声が……って、頭の上にいたっけ。すっかり忘れてたわ……。


 重さがなくなり、立ち上がる。


「──プリッつあんデカっ!」


 目の前に巨大化したプリッつあんが──って、オレが小さくなったんだっけ。プリッつあんのデカさに驚いて一瞬、忘れたわ。


「プリッつあん、以外と背があったんだな」


 元の体で言えば、だいたい一メートル七十くらい。結構あったんだ。


「逆にベー小さかったのね。なんか可愛い」


 と、頭を撫で撫でしてくる。が、目に殺気が。そして、力が強いんですが……。


 どうやらいつぞやのことを根に持って仕返ししてきたのだろう。が、小さくなってもオレの力は変わらぬようで、プリッつあんの仕返しなどびくともしなかった。


 お返しに抱き締めてやろうかと思ったが、やったらちょうど胸のところにくるので止めておいた。なんか痛そうだし。


「なにやら乙女の誇りを汚すようなこと考えてるでしょう?」


「いや、全然」


 プ、プリッつあんのクセに生意気な。乙女とか百年早いどころか次元が違うわ! とか言ったら怖いのでお口にチャック。そして、心のお口にもチャックです。


「おっと、殿様がいたんだーっと」


 プリッつあんから殿様へと逃げ――ではなく、向き直った。


 後ろから世界を狙えるコークスクリューパンチが連打で来てますが、まったく痛くないのでスルーです。


「よ、よいのか、結構重そうなのを食らっているようだが……」


「プリッつあんがじゃれてるだけさ。それより、なんだよ、この人数は? 民族大移動じゃねーかよ」


「フフ。民族大移動か。ベーはおもしろいこと言うな。良し。歴史にはそう残しておくとするか」


「勝手にしろ。ったく」


 そっちには歴史的な一大事だろうが、こっちからしたら厄介事でしかねーよ。


「で、いったい何万人の大移動だよ。なんか、戦艦三十隻もいたと聞いたが」


「正確な数はわからんが、約三万人だな。戦艦は確かに三十隻だ」


「戦艦、は?」


 なにか不穏な言い方すんじゃねーかよ。


「ベーがいたのは偶然だし、ベーを頼ろうとはしたが、無計画で出てきたわけではない。自分の住み家ぐらい用意したさ」


「……もしかして、アレ、か?」


「ああ。新ドウ・ゲン都市島がこちらに向かっている」


 小人族が住むところは浮遊島だが、それは浮遊石があってこそ。つまり、浮遊石があれば都市島が造れるのだ。


「ベーに頼む。我らを救ってくれ」


 殿様が頭を下げると、配下の者たちも一斉に頭を下げた。


「……殿様が殿様でなくなってもか?」


「もとより、藩主の位などシャンバラを出たときに捨てたわ。今の我はコノガ。ただのコノガだ!」


 こーゆー思いっきりなことをするから殿様ってスゲーぜ。


「救ってやるとは言えねーが、生きる場所は用意してやるし、協力はしてやる。あとは自分たちの力でなんとかしろ」


「おうとも!」


 そう力強く応えると、背後にいる配下たちに振り返った。


「皆の者。ここに我らの未来を創るぞ!」


 殿様の宣言に、飛空船ドックが震えた。

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