第394話 カイナーズホーム

 夕方近くに、やっと陽当たり山が見えてきた。


 本当ならもっと早く帰ってこれたんだが、さすがに天候だけはなんともできねー。季節外れの暴雨風に阻まれて遠回りになったのだ。


「自然には勝てねーな」


 まあ、これもまた自然の恵み。命の水に感謝だ。


「ベー。また港でいいのか?」


「ああ。そこに入れて……あ。そー言や、タケルの潜水艦が停めてあったっけ」


 今日も今日とて乗馬訓練だったので海洋訓練には出てねーのだ。


「センスイカン? なんなのだ?」


 ちなみにオレがいるところは艦橋の船長席。更にちなみにだが、艦橋なのになんで船長かと言うと、公爵どのの拘りらしい。


 ――艦長より船長の方が響きがいいからだ!


 よーわからん拘りだが、本人がそうだと言ってるならオレに否はねー。好きにしろだ。


「海の中を進む船だよ。まあ、機会があったら紹介するよ。ワリーが第二港に行ってくれるか? 前に入った港の左側にあるからよ」


 そう指示して第二港へと接岸してもらった。


「無駄に立派な港だな、おい」


 ちょっとした田舎の港くらいには創った第二港を見て公爵どのが呆れている。


「そうか? ただ、防波堤や桟橋を創っただけなんだがな」


 一日もかからねーで創った雑なもの。立派には程遠いぜ。


「ベーにかかれば港もお遊びか。まあ、あっちの港から見れば確かに力が入ってないか」


 二つある桟橋の間に入れてもらい、結界でリオカッティー号を固定した。


「ここも人魚族の領域だから海竜が寄ってくることはねーと思うが、一応、見張りを立ててくれ。人魚の世界もいろいろあっからよ」


「お前の立ち位置がわかんねーよ」


「オレは生まれたときから世界の隅っこで力強く立ってるが?」


「うん。意味わからんな」


 まあ、別にわかってもらいたいわけじゃねーから、どうでもイイよ。


「船長。外に誰かいます」


 リオカッティー号の監視員が声を上げたので、艦橋の窓により外を見る。


「カイナとあんちゃんか」


 まあ、ここにくる、いや、これるのは極僅か。チャンターさんもアダガさんも帰ったから、この二人しかいいねーんだけどな。


「オレの義兄弟とお隣さんだ」


「お前が関連してることからして普通ではないんだろう? と言うか、片方、どう見ても堅気じゃないよな。存在感がハンパねーよ」


「まあ、元魔王だって話だからな。今は宿屋の主をしてるよ」


「うん。意味わからんな」


 いや、それ、たんに思考放棄してるだけだよな。まあ、どーでもイイがよ。


「副長、あとを頼む」


「はっ!」


 と、男装した目の鋭いねーちゃんが敬礼して応えた。


 副船長、いたんだ。しかも、男装のねーちゃんが、と驚きながら公爵どののあとに続いて下船する。


「お帰り、ベー。今日はどこで暴れてきたの?」


「暴れてきたの前提かよ」


「陽当たり山に小人族の戦艦が三十隻も来たら、もうベーがなんかしたとしか思えないよ。しかも、帝国の聖女さままで連れてきて。ベーの一日、濃すぎだよ」


「そうか? 結構、平和な一日だったがな」


 エリナ関係に比べたら今日のことなんてテーマパークにいってきたようなもの。イイ一日だったって言えるぜ。


「つーか、三十隻? 殿様、完全に移住じゃねーか」


 いったい何千人、いや、何万人連れてきたんだよ。メチャクチャしやがんな!


「まったく、小人族用の住み家創んねーとならねーじゃんかよ」


 数百人単位だったらデカくして、エリナの国の住人にしようかなと思ったが、数万人単位だと完全に小人の国になっちまうよ。エリナんとこではいろいろ農作物を作ってもらおうと計画してんだからよ。


「用意できるところがベーだよね」


「まあ、小人族の住み家なんて、そう難しいもんじゃねーしな。カイナ。ワリーが、公爵どのたちに部屋を用意してやってくれや。しばらく滞在するからよ。あ、こっちが公爵どので、こっちが大老どのな」


「また、あっさりとした自己紹介する。まあ、自己紹介はこっちでやっておくよ。小人さんたちのところに行く前に、ちょっといいかな?」


「なんだい?」


 なにかマジな顔してるが。


「ここの保養地、おれに売ってくんないかな?」


「構わんよ。つーか、カイナにやるよ。たまに利用させてくれたらオレは充分だからな」


 来るのは夏。フェリエやサリバリ、トアラたちと海水浴に来るときしか使わない。やってくれんなら万々歳だ。


「いや、売買で頼むよ。魔族の子たちの働きの場にしたいしね。それに、おれも世界貿易ギルドに入ったから、商売としてちゃんと区別しておきたいんだ」


「まあ、カイナがそう言うのなら構わんよ。好きにしな」


 親しき仲にも礼儀あり。ましてや金のことは、ハッキリさせておく方が健全だしよ。


「なら、これで売って」


 と、ジェラルミンケース(だと思う)の山が現れた。


「なにこれ?」


「十億円。それで売ってよ」


 十億円? なに言ってんの?


 理解に苦しんでいると、カイナがジェラルミンケースを一つ、開けて見せた。


「……一万円札って……」


 まさか今生で見るとは思わんかったよ。


「世界貿易ギルド内でのお金、ってことで、どう?」


「……インフレ起こしそうだな……」


 出し放題じゃん、カイナ……。


「その辺はアバールさんと決めるよ。あと、ホテルの一泊は二万円ね。泊まるときはよろしく」


 なんだかよーわからんが、金払えってことで納得しておくよ。


「それともう一つ。オレも店を出したから、いつでも利用してよ。品揃え、世界ナンバーワンさ」


 そう言われて連れられて来たのは、保養地の上。


「カイナーズホームにようこそ」


 ………………。


 …………。


 ……。


 うん。所謂これは、ホームセンターだねっ☆

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