第393話 試合終了

「ヘイ、ラストだ!」


 最後の一球で竜機隊が全滅した。


「蒼天に咲いた千の桜。見事なり!」


 この世界に桜はねーし、本物には劣るが、前世から引き継いだ心の原風景。それに近いものを見ると懐かしくなるんだよ。


 酒が飲めたら一献傾けたいところだが、今はその風景に酔いしれ……ねーか。まだ戦艦が残ってるしな。


「さすがに近寄ってはこねーか」


 小人族もバカじゃねーし、仮にも戦艦を預かる者。ましてや小人の国も戦争はある。騙し騙され雨霰。権謀術数で今がある。鎖国してるとは言え、竜や魔物による被害はある。このファンタジーな世界。バカじゃやってけねーんだよ。


 さて、どうすると見てれば、全艦が一斉に砲筒をこちらに向けた。


「へー。通信技術まであんのかよ。小人族、マジスゲーな」


 殿様からは、そこまで深く聞いてなかったから知らんかったが、あれが以心伝心で行われていたら小人族、マジゴメンナサイだわ。


「お、おい、ベー、さすがに不味くないか?」


「一点集中攻撃なら超余裕だよ」


 小人族の戦艦は、砲弾ではなく魔砲。つまり、魔力の塊を撃ってくるもので、威力としては角猪を吹き飛ばすくらいだ。


 まあ、威力としては首を傾げるものだが、戦艦の砲筒はだいたい四十。積んでいる魔石にもよるが、殿様の話では四百発くらいは撃てるらしい。


 それが八隻。それが連続で撃たれたら飛竜でも逃げるわな。


 照準がリオカッティー号に合わさったようで、一斉に撃ってきた。


「ヘキサゴン結界!」


 港を守る六角形の盾を能力限界まで生み出した。


 カイナにはまったく効かないだろうが、人外さん級なら五発、いや、ご隠居さんでも二発は余裕だぜ。


 三百以上もの魔砲がヘキサゴン結界へと激突。だが、小揺るぎもせんわ!


 更に魔砲が撃たれてくるが、まったくもって問題ナッシング。


「さて。そろそろオレの回といきますか」


 能力限界ギリギリのところにヘキサゴン結界を一枚生み出し、角度を調整する。


「こんなもんかな?」


 まあ、まずは一発試しだ。


 ポケットから木の球を取り出し、弾力性のある結界で包み込む。


「ヘイ! ライト、いくぞ! 跳弾打ちぃっ!」


 ノックした木の球がヘキサゴン結界にぶつかり、ライトに見立てた戦艦の鼻先に当たった。


「チッ。ズレたか」


 試しとは言え、やっぱ外すとおもしろくねーぜ。


「もーいっちょ、いくぜ!」


 角度を微妙に調整してノック。今度は狙った横っ腹に当たった。


「おしっ! オレ天才!」


 生まれ変わってもオレの野球センス、マジサイコー!


 次々とノックとヘキサゴン結界の調整を行い、戦艦をフルボッコ。戦闘不能にしてやった。


「……酷いんだか優しいんだかわからん攻撃だな……」


「どっちにしろ、被害甚大だな。と言うか、戦艦全滅させるとか村人の所業じゃねーよ」


 オレはスーパー村人。まだ第一形態だぜ。


 なんてネタをやったところで白い目しか返ってこねーんだし、ちゃっちゃっと片付けますか。


 で、試合終~了~。


「ふぅ~。イイ汗かいたぜ」


 こんな気持ちイイ汗をかいたのは前世以来だな。


「敵、被害甚大。味方、無傷、どころかなにもしてねーよ」


「なんだろうな。圧倒的大勝利なのに、まったく喜べないな。いや、小人族が不憫でならないわ……」


 さっきから外野がうるさいな~。勝者には拍手で讃えろよ。


 とは言え、今の気分は七回コールド勝ちな気分。イイ汗はかいたが、震えるような達成感はねー。


「さてと。最後の一発だ」


 収納鞄から紙を一枚取り出して、サラサラサラ~と一筆。結界にくるんでシャンバラ方向へとカキーン。


 ──オレの思い、届け! なんって~。まっ、なるようになるだ。


「んじゃ、いくか」


 え、どこに? なんてボケてくれる人もなし。ため息二つ吐かれ、つつがなく発進しましたとさ。めでたしめでたし。


「ええ。ベーの頭がね」


 頭の上からの突っ込みもノーサンキューです。

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