第392話 千本桜
「ったく。こーゆーことになるのが嫌だからシャンバラを刺激しねーよにしてたのによ」
相手が小人とは言え、小人族では最大の国。その技術力も他の種族を凌駕している。軍事力だって無視できねーくらいに強力だ。
まあ、鎖国してるからうちの村まではこねーだろうが、この一帯を封鎖できるくらいは余裕だ。そうなる方がメンドクセーわ。
「まったく、厄介なことしてくれるぜ」
公爵どのとの商売もそうだが、帝国への買い物が大変になるじゃねーか。日帰り……できなくてもイイのか。ザンバリーのおっちゃんが来れば家のことは任せられんだからな。
公爵どのも近道だからここを通っているんであって、時間がかかってもイイのなら、帝国とアーベリアンを繋ぐルートは三本ある。二ヶ月の往来が三ヶ月になったところで問題はねー。なんか急ぎがあるんならメルヘン飛行隊を使えばあっと言う間だしな。
「公爵どの。ワリーが、殿様を逃がすから竜機隊の前に出てくれるか?」
「やるのか?」
「まあ、殿様とシャンバラ、どっち取ると言われたら迷いなく殿様だ。他に選択肢はねーよ」
「正直、小人族に恨まれるのは痛いが、利と得はお前の方が断然高い。我々はお前につくよ」
「まあ、ベーを敵にするくらいなら小人族に恨まれるほうがまだマシだな」
「すまぬ、ベー。責任は我が取る」
らしくない殿様の背中を叩いて前を向かせた。
「気にすんな。オレがやると決めたことだ。それに、オレは小人族を虐殺するつもりはねーよ。まあ、だからと言って敵に容赦はしねーがな」
オレは無駄な殺しは嫌いだし、戦いに喜びを感じる質じゃねー。だが、やられっぱなしの泣き寝入りなんでゴメンだ。こっちはやりたくねーのに、無理矢理突っかかってくるアホには死ねほど後悔させてやんよ。
「殿様。船を行かせろ。オレんちの秘密基地は覚えてるよな?」
「ああ。覚えておる」
「なら、そこで落ち合う。入れるようにはしてあるからよ」
いつかオレも飛空船をと、そのための空間は創ってある。まあ、一隻だけしか入らんけどな。
「すまぬ」
また小さくさせて結界で空母に戻した。
「ベー様。わたしにできることがあるなら、なんなりとお申し付けください」
いつの間にか、ヨウコさん──じゃなくて、クラーマがいた。
「お前、カーレント嬢を守るのが役目だろう? オレに従ったりしてイイのか?」
「主と名の契りを交わしましたが、マスターからベー様に力を貸せと最優先事項として我が命に刻まれております。なので、優先するべきはベー様の命令でございます」
まったく、エリナもメンドクセー設定にしてやがんな。
「なら、殿様、あの船を護衛して帰ってくれ。あ、メルヘン飛行隊、じゃなくて、他の飛行機に乗ってるヤツらにはこの飛空船の護衛を頼むように伝えてくれ。ただし、オレが打ち洩らしたものだけ攻撃しろ。それ以外は手出し無用だ。あ、なんならカーレント嬢も連れてけ。エリナが会いたがってるだろうからな」
「畏まりました。では、失礼します」
まあ、エリナが生み出した手下ならなんとかすんだろうとマルっと任せ、右のズボンのポケットから殺戮阿を抜き放った。
「お披露目、といきてーが、この状況じゃしゃーねーか」
昨日、完成した殺戮阿吽さつりくあうんだが、ノックするに二本はいらねー。阿だけで充分だ。
結界球を生み出し、すぐそこまできた竜機に打ち放った。
直撃した竜機は、結界により飛行不能となり落下していく。竜機は生き物。頂いても維持に困るからいらねーよ。
ノックしながら船尾へと移動する。
「おーおー、いっぱい出して来やがったな」
よほど、殿様のしたことが許せねーんだろう。竜機隊を二百近く出してきた。
「殺戮技が一つ、ではねーが、対竜機用ノック、名を千本桜! 食らえやっ!」
生み出した結界球を連続で打ち出していく。
結界球――千本桜に危険性を感じた竜機隊が一斉に散開する。
「言ったろ、対竜機用だってな!」
連打した千本桜が千に散り、散開した竜機隊に襲いかかり、蒼天に見事な桜を咲かした。
「カッカッカッ! 今宵の阿は一味違うぜよ!」
血に濡れ……てはいないけど、懲りずに向かってくる竜機隊に突きつけた。
「いや、今昼だよ」
「一味どころか、もう苦味しかねーよ」
ハイ、そこ。そんな冷静な突っ込みノーサンキューです。
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