第391話 スクランブル再び

「しかしなんだ、小人族をデカくしても、全然おもしろくねーな」


 サイズが違うだけで小人と人なんて変わりねーし、なんのロマンもねー。なんかガッカリだわ……。


「お前はおもしろいで種族崩壊させたのかよ……」


「いや、殿様たちと話すときの距離感が難しいからデカくしたんだよ」


 相手は身長二十センチ以下。オレたちには平気でも、小人族にはオレたちの声はちょっとした兵器。結構、空気の振動がスゴいらしいんだよ。


「大きくなったのはわかるが、これと言って新鮮味がないな」


 体の具合を確かめていた殿様も、オレと同じ感想らしい。


「まあ、周りが同じ造りだし、対象物がねーとそんなもんなんだろう。体はなんともねーんだろう?」


「ああ、多少、体の重さは感じるが、これと言った違和感はないな」


「んじゃ、他のヤツらもデカくするぞ」


 殿様の指示でついてくる者を順々にデカくしていく。


「デカくすると、結構、体格のイイヤツらだったんだな、近衛隊って」


 鎧をしてるからもあるんだろうが、それでも体格の良さはわかる。多分、鎧を脱いだらマッスルさんたちだぜ、近衛隊のヤツら。


「逆にベーは、小さかったんだな。我の胸までしかないとはな」


「しょうがねーだろう。まだ十一歳なんだからよ」


 まだ一・四五メートル。身長はオカンに似て低いんだよ。


「そうだったな。その口調と態度から忘れがちだが、うん。こうして見ると確かに子どもだな」


「どう見たってオレは子どもだろうがよ」


「こうして面と向かい、話をしてもまだお前を子どもにしか見えないようでは、その者は目を交換したほうがいいな」


「確かに。こいつは子どもの姿をした非常識だからな」


「これを子どもと言う奴は目が腐ってる証拠だ。実は千年生きていると言われても驚きはしないな」


 こんな可愛い子どもに向かって失礼な。と、心の中で言っておこう。言ったら総突っ込みを食らいそうなんで。


「それより、どうする? さすがにこれだけの人数を入れる部屋はねーだろう」


 元々、生活するような造りにはなってねー。公爵どのの部屋からして狭いんだからよ。


「こう言っては失礼だが、結構、狭いのだな、巨人族の飛空船は」


 小人族からしたらオレらは巨人族。ちなみに、この世界にオレら以上の巨人はいねーです。


「小人族の技術力が先をいってるだけさ。それに、浮遊石が採れる場所は限られている。この大陸じゃ、殿様のところだけだ。闇で取引されてる量もたかが知れてるしな」


 小人族の闇ブローカーが運び出せる量はたかが知れてる。ましてや浮遊石は小人族の最重要資源。そう大量には流失しないよ。


「この自称村人は、なんでも知ってやがるな」


「なんでもは知らねーよ。知ってることだけだ」


 帝都には年に一度、数時間しかいれねー。その時間では大したことは聞けねーよ。


「その事情を知ってるだけで村人と言えねーよ」


「村に住んでる以上、オレは村人。ウソはねー」


 ただ、力と金とコネを持ってはいる村人だがな。


「まあ、ベーは村人がちょうどいいさ。これで闘争心やら権力欲があったら世界は破壊と混乱の渦に陥っているところだ」


「村人でも非常識と言う破壊と混乱を撒き散らしてるがな、こいつは」


「やはりベーは、他と違うのだな。巨人族が皆ベーのようだったら我は一生シャンバラから出ぬところだ」


 なんだろうな。三人よると突っ込みが痛いぜ。やっぱ、突っ込みは一人がイイな。特にジーゴの突っ込みサイコー。村にきてくんねーかな。


「ほれ、無駄話してねーで、どこでやるか決めろ。殿様も無理して出てきたんだろう?」


「……わかるか……」


「いくら藩主でも鎖国の国からそう簡単には出てこれんだろう。つーか、シャンバラに見てくれとばかりの行動だな。なに考えてんだ?」


 まあ、なんとなくはわかるけどよ。


「出奔した」


 と、あっさり口にする殿様。


「いや、出奔の意味ちげーよ。これはもう宣戦布告だわ……」


 前から、と言うか、出会った頃に国の不満を口にし、開国しようと行動していたと言う。


「驚かぬのだな」


「まあ、開国できねーのなら出るしかねーからな。つーか、よくこの短時間に出てこれたな?」


 殿様の藩だけでも何十万といる。その全ては無理だとしても新天地を目指すならある程度の数は必要だし、物資も相当な量となる。それ以上に、なんでオレがここを通ることを知ってたんだよ。


「なんだろうな。この世には神がいるのではないかと信じたくなる。まさに決行の日、お前が現れるのだからな」


 殿様が背後、シャンバラの方向を見た。


 そこにはスクランブルしてきた竜機隊と、戦艦七隻が見えた。


「……だろうと思ったよ……」


 シャンバラから逃げ出すときもそうだったしな。

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