第382話 泣いてないやい!

 なにか、結束と言うか仲間意識ができたと言うか、さらに打ち解けた三人を眺めながら、コーヒーを堪能していた。


 冷静に自分を見て、自分に商才はねー。と、この三人を見て強く思う。


「人魚から買ったものだが、どう思う?」


 あんちゃんが収納鞄からバルサナを出して二人に試食……じゃなくて試飲させた。


「ほ~。旨いな」


「ええ。濃厚で鼻に抜ける香りがなんとも言えませんね」


「あ、おれもちょうだい。お、なにこれ! 美味しい!」


 あんちゃんに差し出されたのでオレも一粒いただいた。うん。旨いな。


「海の中にも果物が生るんだな」


「実はこれ、種なんだとよ。しかも、人魚の間ではお茶として飲まれているそうだ」


「お茶? おもいっきり食ってるぞ」


「確かに、歯ごたえのあるものですし」


 オレには種族差によるものだけで片付けられる出来事だが、三人には驚くべき差のようで、あーだこーだと語り合っている。


「さすがにお茶としては売れないが、海の果物としてなら売れると思うんだが、どう思う?」


「いいのではないでしょうか? この味なら我々の口にも合いますし」


「うちの国でも受け入れられる味だな。下手したら葡萄より人気が出ると思う。いや、人気が出るな、この味なら」


 そこから売買の話になり、なんやかんやで、問題が出た。金をどうするかだ。


 この国の金は、七ヵ国同盟貨幣と呼ばれ、七つの国と、貨幣を造れない何十もの小国で使われている。


 まあ、簡単に言えば帝国に攻められないようにと、七つの国が集まって造ったものなので、通貨単位がなく、枚で使われている──んだが、種族民族を越えちゃってるから、どうする? ってことになったわけさ。


「まあ、両替や換金ができるから、おれらはなんとでもなるんだがな……」


 と、あんちゃんとチャンターさんがアダガさんを見る。


「魔族での取り引きは、魔石ですので……どうなるのでしょうか?」


 そこで、沈黙となり、なぜかオレを見る三人。いや、見られてもオレにはなんもできねーから!


 経済論とか、国際取り引きとか、まったくってほど知らんよ、オレは。求められても困るわ。


「なら、新しく貨幣を造るか?」


「仮にできたとして、使えるのはここだけだろう。それに、両替商を間におかなくちゃならない。どのみち今の段階では不可能だ」


「ならば、まずは七ヵ国同盟貨幣でやっていきますか?」


「それしかないか……」


 だからオレを見るな。答えられんもんは答えられんっての。


「だったら、まずはベーが一手に引き受ければいいんじゃない」


 と、カイナさんが入ってきた。なに、お前は経済論とか国際取り引きに詳しい人なの?


「どう言うことでしょうか、カイナ様?」


「これが公正かどうかはわからないし、提案の一つとして聞いてね」


 そんな前置きに、三人は了解と頷いた。


「だいたいにして、国を創るためにものが欲しいから三人を集めた訳だがら、各自、まずはベーのところに持ってきて、ベーが決めた価格で買ってもらう。支払いは、お金でも物でもいいことにする。まあ、ベーのことだからメンドクセーの一言でアバールさんに丸投げするから、アバールさんが代理で買い取りをする。もちろん、支払いはベーの財布からとする。ちなみにベーって、資産どのくらいなの?」


「んー、金鉱山を三つ、いや、四つは持ってるぐらいかな」


 時間がなくて二つしか手を出してないが、十二畳間に金塊が詰まってるくらいにはあるな。まあ、銀塊も同じくらいあるがよ。


「……道理で金とか豊富に出せると思ったら、それかよ……」


「なんと言うか、真面目に商売してるのがバカらしくなるな……」


「もう、ベー様がこの大陸を統一したほうが平和になるのではないですか……」


 まあ、我が土魔法は超便利にて超優秀。金鉱山を見付けるなど造作もない。ちなみに温泉を掘り出そうとしてダイヤモンド鉱床を見つけたが、ダイヤモンドにそれほど興味がなかったんで、記念にソフトボールくらいのを五、六個ほど持ってきたってことは内緒にしておこう。なにやら、お腹いっぱいの様子だから。


「ま、まあ、ベーだからと流しておくとして、それでどうかな?」


「そうだな。アバールが決めるのならおれに異論はない。信頼も信用も同情もする」


 は? なぜに同情が出てくるん?


「わたしも異論はありません。一番苦労して、頑張ってる人が一番儲けるのが筋ですからね」


 いや、それに異論はねーが、なんか含みのある言い方はなんですのん?


「あー、やっぱり、おれらで決めたほうがいいな」


「意義なし」


「同じく」


 チャンターさんのセリフに、あんちゃんとアダガさんが力強く、肯定した。


「なら、第二回世界貿易ギルド会議を始めるか。あっちで」


「そうだな。ここでは雑音がありすぎる」


「ゆっくり、落ち着いてやりますか」


 ってなことを言いながら世界貿易ギルド員がサロン(風の寛ぎ部屋)を出ていった。


「…………」


 こ、ここはきっと、考えるな、感じもするなって場面ってことだねっ。


「あーコーヒーうめー!」


「ハイハイ、泣かない泣かない」


 泣いてないやい!

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