第381話 急上昇、急降下

 カレー、超旨かったです。ごちそうさまでした。


「んじゃ、帰るか」


 ふー食った食ったと立ち上がり、帰ろうとしたら、あんちゃんにスプーンを投げつけられた。


 痛くはねーが、汚ねーだろうがよ。


「お前はなにを帰ろうとしてんだよ。話はこれからだろうが!」


「別にあんちゃんらで決めたらイイじゃん。オレはそのおこぼれを頂くからよ」


 身内価格で安く買わしてもらえたらオレはどーでもイイんだがな。勝手にやれだ。


「それを決めるのにお前がいなくちゃなんも決めらんねーんだよ。つーか、世界貿易ギルドの全貌を知ってんのはお前しかいないんだから、おれらでやってけるまで面倒見ろや!」


「まったくだ。いきなり場所をもらっても商品もなければ、ここにくる航路さえわかんねぇよ! つーか、ここどこだよ? 誰と商売すんだよ? わかんねぇこといっぱいだわ!」


「わたしもこの国や人を理解しておりません。理解するためにもベー様には、まだご指導を頂きたいです」


「メンドクセーなー」


 とは言うものの、オレのスローライフを確実にするには、あんちゃんたちの存在は欠かせない。早く軌道に乗ってもらうためにも今をガンバレだ。


「ったく。わかったよ。んじゃ、場所を移すか。ここじゃ波の音がうるせーからな」


 一応、風を防ぐ結界はしてあるが、音までは遮断してねー。岩場だから結構うるせーんだよ。


「片付けとくから先にいっててよ」


 嫁度がすこぶる高いカイナに任せてサロン(風のただの寛ぎ部屋)に移った。


 鬼巌城のような華やかさと豪華さはないが、アットホーム度はこちらが勝っている。だからなんだと言う突っ込みは、したかったらテケトーにどうぞです。


「一気に家庭的な空間だな」


「あんちゃんからの突っ込みは求めてねーんだよ! 空気読めよ」


「な、なんでおれが怒られてんだよ! つーか、お前の自由過ぎる空気なんて誰も読めねーわ!」


 なんてやりとりはどうでもイイので、適当に座らせた。


「ほんと、お前は自由に生きてるよな」


「オレの美点の一つだからな」


「他人からしたら欠点だわ!」


 怒るあんちゃんを軽く受け流し、収納鞄から酒を何種類か出してテーブルに並べた。


「好みがわからんから適当に選んで飲んでくれ」


 酒も種族民族で好みが違う。なんで、各自の好みに任すよ。


「さすがに酒はいいや。なんか、お茶をもらえるか?」


 と、チャンターさん。そー言や、飲み過ぎてぶっ倒れてたんだっけな。


 なら、コーヒーでイイかと、オレのお気に入りを出してやった。


「お、旨いな、これ」


 チャンターさんも味の違いがわかる人のようで、コーヒーを気に入ったようだ。


「これとは違うが、南の大陸のコーヒーをわけてやるよ」


「南の大陸って、もう商売してるのか?」


 なぜかオレではなくあんちゃんに尋ねるチャンターさん。なぜに?


「いや、ベーが個人的にやってるだけさ。まあ、相手が王子さまってところが、ベーのベーたるところだがな」


「……どんだけ顔が広いんだよ、お前は……」


「人生、これ出会い。おもしろいヤツとは仲良くなれだ」


 オレの主義主張の一つだ。


「まあ、話を戻すが、世界貿易ギルドは立ち上げたばかりだから、なにをしろとは言えねー。だから、あんちゃんは自分の店をやりつつ、人の雇い入れ、人の教育、商品の仕入れ、人脈作りをしろ。ギルド長の仕事はそれらができてからだ」


「……ま、まあ、確かに、今はしがない店の店主でしかないからな……」


「今は足場を固めろ。で、チャンターさんは、まず王都に戻って、小麦……はねーか。王都にきたと言うことは、その前にサーバンカ国にも寄ってるよな?」


 隣の国で、海の交易地点となっており、いろんなものが流れ込んでくるのだ。


「あ、ああ。寄りはしたが、なんだと言うんだ?」


「そこで人を買え」


「はぁ?」


 と意味がわからないと怪訝そうな顔を見せた。


「奴隷市だよ。サンハリカの街の奴隷市は有名だろう。そこで奴隷を、人を買えるだけ買ってこい。開拓民にする」


 ますます意味がわからないって顔になる。あれ? 通じてない?


「あー、ベー。まずは、あの喪服の人から説明しないとダメじゃないか? この世界貿易ギルドもそのためのものなんだろう?」


 おろ。そー言われてみれば、チャンターさんに言ってなかったな。


「あーワリー。この地下に他種族他民族間国家を創ってるんだわ。だからその国民と言うか、働き手が欲しいんだわ。そのための世界貿易ギルドってことさ」


 と、簡素に説明したら、さらになに言ってるかわかりませーんな顔になるチャンターさん。アダガさんは理解……してないようだね、その顔では。


「カイナ、わかってて、アダガさんらを連れてきたんじゃねーの?」


 そうだとばっかり思ってたがよ、と、やってきたカイナを見た。


「いや、それ初耳。ベーならアダガたちに安住の地を与えてくれるかな~と思って頼ったんだよ」


 なに気にサラっと重大なことを押しつけてんだよ、お前は……。


「ま、まあ、人が増えるからイイけどよ。なんで、チャンターさんには人を買いに行ってくれ。できれば、獣人を中心に頼むわ。まずは力仕事が主だからよ」


 収納鞄から金塊を五つ出してチャンターさんに渡し……ても持って帰れねーので収納鞄を一つくれてやった。


「……おれにはアバールの位置は買えないな。つーか、アバールの凄さが今やっとわかったよ。おれには、この非常識を飲み込めないわ……」


「わたしもチャンターに同じです。アバールこそベー様の横に相応しい」


 なにやらあんちゃんの株が急上昇。なのに、オレのなにかが急降下していると感じるのはなぜだろう……。

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