第379話 保養地

 港には秘密がある。


 なんて言ってみたが、それほど大袈裟なもんでもねーし、港にある訳でもねー。


 保存庫には、港へと下る通路と、秘密、でもねーところへと続く通路がある。


「前から気にはなってたんだよな、ここ。意味ありげに保存庫の奥にあるのに、開けてもなんも入ってねーし、部屋にしては狭いし。なんなんだ、ここは?」


「エレベーター──つってもわかんねーか。まあ、自動昇降部屋だ」


 部屋の奥へと進み、壁にあるボタンを三人に見せる。


「これがこの部屋を昇降させる装置だ。まずここの位置が一階で、下にいくときはこの逆三角を押せば勝手に下へといく。上はそのうち連れていくから今は気にすんな。あんちゃん、逆三角を押してみな」


「だ、大丈夫なんだろうな?」


「大丈夫に決まってんだろう。イイから押せ」


 ここは、毎回使うものじゃねーが、フェリエやサリバリ、トアラたちを連れて行くために安全第一に創ったものだ。不備はねー。


「わ、わかったよ。これだな……」


 恐る恐るボタンを押すあんちゃん。商売以外はヘタレでビビリなんだよな。


 結界と浮遊石で創ったために振動はねーが、浮遊感と言うか落下感と言うか、敏感な人なら感じるくらいの揺れしかない。


「……す、凄い……」


 どうやらアダガさんは敏感な人らしく、この揺れがわかるようだ。


「鬼巌城にはねーのかい? カイナならつけそうだがな」


 まあ、前世のエレベーターとか、メンテナンスが大変そうだがよ。


「はい、似たようなものはありますが、鬼巌城のものは、それぞれの魔力で動かすので、個人差で揺れが出るのです。ベー様のようにまったく揺れを感じさせないなんてあり得ません。しかも、魔力が動いた気配がないなんて。いったいどうやっているのですか? 失礼ながら、ベー様の魔力は低いように感じますが」


「ふふ。アダガさんのそこがスゴいよな。魔族にとって魔力が絶対。オレみてーに低魔力なんてカスだろうに、それを態度に表しもしなければそれが絶対だとは思ってねー。さすがだよ」


 前に一度だけ魔族に会ったことあるが、もう笑っちゃうくらい魔力至上主義。典型的な噛ませ犬だった。まあ、その話は機会があったらとして、魔族は魔力を絶対視している。故に、他の種族を下に見て、ためらいなく侵略してくるのだ。


「世の中、魔力だけで世界は統一できませんからね」


「アハハ。アダガさんは、商売で魔王になりそうだな」


 なんてこと言ってる間に最下層に到着した。


 ボタンがある方の扉が開き、明るい通路が現れる。


「……港に続く通路と全然違うな……」


「まーな。ここは我が家の保養地として創ったところだからな。明るめにしたんだよ」


「保養地とか、お前はどこの貴族だよ。村人が持つどころか口にしていいもんじゃねーよ」


「……もう王で良いんじゃないか、お前はよ……」


 嫌だよ、王さまなんて。メンドクセー。


 港へと続く通路と同じ距離を進むと、大広間へと出る。


 土魔法で創っただけなので、それほどファッション性や華やかさはないが、なんちゃって神々の像でリゾート気分を出している。


「……な、なんの神殿なんだ、ここは……」


「いや、たんなる大広間だよ。カウンターとか置いてギルドホールにすればイイさ。あそこの扉を開けば港に下りられるからよ」


 本当は高級リゾートを想像して創ったんだが、なんかパルテノン風になっちゃったんだよ。まあ、フェリエたちには、アホな子を見る目をされたが、オレに後悔はねー。


「この上に部屋があるから好きに選んでイイぞ。あ、ただ、海側は食堂とか売店とか用に創ったからダメな。あと、部屋の内装は個人持ちな。その代わり、好きにしてイイからよ」


 まあ、どの部屋も広さは同じだし、設備も大差ない。そして、布団などの備品もない。夏しか使わないところだからな。


「夕食の準備するから、その間に部屋を決めてこいや」


 ここに驚きながらも世界貿易ギルドの創立者(オレは創案者ね)。直ぐに商人の目になって階段を上がって行った。


「さて。せっかくだし、シーサイドテラスでやるか」

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