第378話 オレのために
「お前、アホだろう」
あんちゃんの蔑んだ目と罵倒が、オレのナイーブ……でもねー心に突き刺さった。
「いや、モコモコガールの変獣化なんて知らねーし」
つーか、なんでオレ以外が知ってんだよ。そっちのほうがびっくりだわ!
「モコモコガールがなんなのか知らねーが、獣人族が獣化するって教えてくれたのはお前だろうが。なんでそのお前が驚いてんだよ?」
「いやいやいや、モコモコガールの変獣、完全におかしいだろう! あと、変獣と獣化は違うから。いや、つーか、なんでゆるキャラになってんだよ!」
獣化なら何度も見てるし、モコモコダンディーが変獣するのも見たが、あちらはリアル変獣。モコモコガールはファンシー変獣だよ。種としてもジャンルとしても飛び抜けてんじゃんかよ!
「ゆるキャラ? なんだそれ?」
「ゆるキャラってなんだ? あと変獣って?」
「ゆるキャラは初めて聞く言葉ですね」
なんか、ちょっと間で打ち解けた商人ども。なんだろう。なんか歴史的瞬間を見過ごした感じがするんだが……。
「ゆるキャラとはなにか知りませんが、変獣化とは、完全に獣になることを言うんですが、変獣種のほとんどは魔族が住む地にいます。多分、白羊族の流れでしょうが、まさかこの大陸にいるとは思いませんでした。これも多分ですが、あの子は金羊族の血も混ざっているかも知れませんね。あの体格から言って」
「金羊族って、魔王を輩出した魔族二十四種のうちでも高位の存在じゃなかったっけ?」
金色の魔王と言われ、昔、この大陸を暴れ回ったとかなんとか。
「そこまで知ってますか」
「金色の魔王は、サンワン地方で有名な寝物語だからな。そうか。モコモコ族はその子孫か。なんか歴史的一幕を見たような気分だぜ……」
食いしん坊キャラとしか見てなかったが、魔王の子孫とか、歴史的背景を知ると、モコモコガールの見方が……あんま変わんねーか。あのゆるキャラのような姿ではな。
「今度、モコモコダンディーから話を聞かねーとな」
文字を知らねー種族は、だいたい口伝で一族の歴史を伝えていく。きっと楽しい口伝がいっぱいあるだろうて。
「ほんと、お前は物語とか伝承とか好きだよな。そんだけ好奇心があるんなら冒険者になれば良いだろうに。オーガどころか飛竜すら狩るんだからよ」
「はぁ? 飛竜?」
「飛竜ですか。確かに非常識ですね」
そんな二人は無視。
「オレは堅実派なんでな、その日暮らしなんてゴメンだよ」
「……なんだろうな。まったくもってその通りなんだが、お前の生き方を見てる者としては、なぜか納得できねーよ……」
「確かに、あの非常識を見せられたらふざけんなって言いたいな」
「フフ。堅実に生きてたら国より豊かになりました、なんて笑い話にもなってませんね」
種族民族を超えたオレに対する罵り。キミたちもシメられたいのかな?
とは思ったが、時間も時間だ、さっさとこちらも終らせんと、オレのスローライフが奪われる。ちゃっちゃっと進めろだ。
「ほれ、無駄話してねーで、いくぞ」
三人を促し保存庫へと向かった。
「おい、ベー。どこにいくんだよ。と言うか、なにをするためにおれらを集めたんだよ?」
「なにって、商売の話に決まってんだろうが」
「いや、それはわかってんだが、ここじゃ不味いのか?」
「別に不味くはねーよ。ただ、チャンターさんやアダガさんにも儲けさせてやりたいからな、世界貿易ギルドの拠点をやろうと思ってな」
「世界貿易ギルド?」
「まあ、適当に名付けたが、オレは欲しいものが沢山ある。それを得るためなら、オレは種族民族主義主張は問わねー。だが、オレは村人だ。そうそう買い出しに出てらんねー」
いやまあ、たまには出ますがね。
「それに、いちいち対応もしてらんねー。だから、代わりにやってもらう者が必要になる。だが、さすがに世界相手の貿易だ。オレと反対に種族民族主義主張に拘るヤツはいる。邪魔してくるヤツがいる。くるって言うなら返り討ちにしてやるが、それに時間を費やすのもメンドクセー。そんなメンドクセーをやってもらうんだ、その拠点くらい創ってやんねーとワリーだろう」
マルっとサクっとお任せするオレだが、さすがに世界を相手に任せっぱなしは気が引ける。やはり、最低限のことはやらねーとならんでしょう。
「世界貿易ギルドの拠点と、各自の部屋をやる。そこで商売に励め」
オレのために、な。クク。
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