第334話 義兄弟

 まあ、なんだかんだあったようななかったようなことがありまして、そこに出したるはキャンピングカーが一台。なんともド田舎には不釣り合いなものでした。


「……なんつーか、場を弁えてねーって言うのかな? 違和感バリバリだな……」


「う、うん。そうだね」


 これが前世の田舎だったら純白のキャンピングカーがあってもそれほど違和感はねーんだろうが、なぜかファンタジーなド田舎には似合わねーんだよ。


 まあ、キャンピングカーを前に村を背景にするなら気にはならねーのに、我が家や隣近所を背景にすると、なぜか違和感が出てくるんだよ。これはあれか? ファンタジーに含まれる理解不能な成分がそうさせるのか?


「不都合があるなら変えるけど?」


「別に良いんじゃない? ベーのところだし、ある意味自然なんじゃないかな?」


 プリッつあんがもっともらしいことを言ったが、それはオレを貶めていると同じだからなね。つーか、あるがままを受け入れてるよね、君って……。


「だな。で、こいつは発電機つきなんか?」


 カイナが出したキャンピングカーは、車で引っ張るタイプのもので、幅二メートル。長さ四メートル。高さ一・八メートルの箱型。屋根がせりだし、脇にはひさしが丸まっていた。


 前世が貧乏独身男だったもので、こんなセレブなものとは縁がなかったし、それほど興味がなかったからキャンピングカーに詳しくはねーんだよな。


「あんまり使わないけど、一応は付けてあるよ」


「なんで使わねーんだ?」


 電気がねーと不便なんじゃねぇの? こーゆーキャンピングカーってよ。


「灯りは魔法でなんとでもなるし、食べ物飲み物は直ぐ出せるしね。こうやって」


 と、右の手のひらにプレート食器に入った料理を出した。なんな味気ねー料理だな。


「でも、風呂とかトイレはどーすんだ?」


「それも魔法でちょちょいとね」


「ふ~ん。魔法超便利、ってことか」


 前世の記憶と若い発想力。そして、オレの結界を消すくらいの超魔力。不可能はねーって感じだな。


「そうだね。便利と言えば便利だけど、日々の張り合いってものがなくなるからね、ベーの不便もまた一興って言えるその精神、ちょっと、じゃないな。スゴく羨ましいよ……」


 想像、でしかないが、物欲に満ちた日々はきっと人をダメにする。人を腐らせ、大切な欲と感情を消滅させることだろう。


 人が人でなくなったら、もはや生きてるとは言わない。ただ、そこにあるだけの世界の染み。あとは黒ずんで消えていくだけのことだ。


 カイナの腰をバンて叩いた。


「なに、人の人生なんて千差万別。趣味もいろいろ。生きる意味なんてどこにでもある。カイナが旅に出たのもその一つ。違うならまた別の意味や楽しみを見つけたらイイさ。これまでだって年を忘れるくらいの生きる意味や楽しさがあったんだからな」


 カイナはまだ三十過ぎたばかり。世界の一部どころか世界の端っこに触れただけに過ぎない。楽しみなんてまだまだそこら中に転がってるわ。


「そんなに暇ならオレの人生に付き合え。オレはまだまだやりたいことがいっぱいあるし、いろんな人と遊びてー。いろんなものを創りてー。仕事して商売して、疲れたらゆっくりして、誰かと一緒に茶したり、おしゃべりしたり、そんなイイ人生にしてー。だからカイナ。オレと一緒に人生を楽しめ。まだまだ楽しいことはいっぱいあんだからよ!」


 今生で力を得た。家族を得た。生きる理由を得た。これだけでもオレは幸せだ。だが、オレは貪欲だ。もっと力(技)が欲しい。もっと生きる理由が欲しい。もっとやりたいことをやりてー。もっと楽しみてー。


「カイナ。今日このときからオレらは兄弟。家族だ。文句あっか?」


 ビシッと人差し指をカイナに突きつけた。


「……ぜ、全然、まったくないよ……」


 魔王のようなツラして今にも泣きそうなカイナのケツを叩いてやる。


「よろしくな、兄弟!」


「おう、兄弟!」


 拳と拳をぶつけ合い、義兄弟の契りを結んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る