第331話 とある男との出会い

 あれ? オレ、仕事がないんだけど。


 気を取り直して広場に戻ってきたのだが、自分の店に入れてもらえず、買い取りの隊商はきてないようでやることもない。なら、女衆の手伝い──はしたくねーから無視するとして……なんだと考えたら仕事がないことに気がついた。


 さて、どーすっぺ。


 去年もそうだったが、二日三日となると広場も落ち着き、休日のような感じなって人の動きが鈍くなるのだ。


 まあ、そうは言っても店は大繁盛でひっきりなしに入店しているがな。


 しょうがねーと、広場の片隅でゴザを敷いて別の商売をすることにした。


 とは言っても売るものはほとんど店に出してるので、いつも収納しているものだけ。二重販売になっちまうか。


「なににすっかな~」


 収納鞄をがさごそかざ。おっ、バモンがあった。


 バモンの食い方を増やしてもらおうとサプルに渡したはずだが、一箱だけ残っていた。


「う~ん。鞄の中広げすぎてわけわからなくなってきたな」


 自由自在に操れるとは言え、入っているものに意識を向けないと自由自在に出せない。なんとかせんとな……って、前もこんなこと思ったな。まあ、後で後でが人間の性。しょうがないよね。


「そろそろ昼だし、バモンでも食うか」


 土魔法で火鉢と金網を創り、炭を出して火を着ける。


 イイ感じに炭に火が回り、金網にバモンを乗っけた。


 バモンが焼けるまで小豆に近いバナ豆から作ったアンコを出し、皿に盛る。ほんと、サプルが妹でオレ幸せ、だな。


「あんころバモン、ウメー~!」


 一つ二つと食っていると、広場に張っていた結界がなんの前触れもなく霧散した。


 まずあり得ないことに食っていたバモンを落としてしまった。


 無敵、とは言わねーが、オレの結界は超強力だ。凶悪とされる火竜ですら動きを封じられる。それなのに、霧散? 意味わからんわ!


 い、いや、落ち着けオレ。この世にあり得ねーことはねー。起こったことを素直に受け止めろ。真実から目を逸らすな、だ。


 広場の片隅とは言え、だいたいの範囲は見回すことはできる──のだが、これと言った変化はねー。なんか凶悪な魔物がきたとか、なにかが攻めてきたとか、そんな光景は見て取れない。先程と変わらぬ光景がそこにあった。


 なにがなんだかわからないが、悪意は感じねー。


 ……どこからか人外さんがきたのか……?


 この国、人外さんがゴロゴロしてるし、ご隠居さん級なら不思議じゃねーが、くるなら一言あるだろうし、もっと穏便に……はしてるか。いったいなんなんだよ?


 落ちたバモンを拾い上げ、結界で土を払ってから口に入れた。


 モグモグと食っていると、店(なんのだよとかは聞かないで)に男がやってきた。


 身長は二メートル近く、ガタイもムキムキ。だが、体つきはバランスがよく、鈍重と言う感じはしない。気配も静かで目に優しさがあった。


「……餅?」


 二メートルもの巨体をしゃがませ、火鉢に乗るバモンを凝視した。


 が、オレが凝視しているのは目の前の男、ではなく、男が背負っている“銃”だった。


 銃に余り興味はねーから、種類とか名前とかは知らねーが、男が背負っているやつは前世のとき良く映画に出てきたもの。米の字の国の軍人(特殊部隊とかの人)が持っていたものだ。


 男の身なりは革鎧だが、マガジンポーチとかベストとかは前世のもので、靴なんて化学繊維製の戦闘ブーツだった。


「餅じゃなくバモンって言うんだよ。東の大陸から運ばれてきたものさ。アンコはうちで作ったもんだがな」


「アンコ? 茶色なんだ?」


「そりゃ小豆じゃねーんだ、色が違うのはしゃねーさ。食って見るかい?」


 まあ、座れやと勧めて見た。


「あ、じゃあ、遠慮なく」


 と、戦闘ブーツを脱いでゴザに上がった。


 いろいろ言いたいことはあるが、客となったからにはおもてなしだ。


 あんころバモンにはお茶だろうと、ほうじ茶に近い香草茶を出し、漬け物を幾つか添えた。


「……えーと、日本人、だった人?」


「ああ。元日本人で転生者だな。今はボブラ村のヴィベルファクフィニーとして生きてるよ。あ、名前長いからベーでイイよ」


 もう隠す必要もねーくらいバレバレになってるから素直に認め、自己紹介をした。


「あ、おれ、ひろ──じゃなくて、カイナって言います。帝国辺境郡バリッサナ辺境公領ザリの街からきました。見た目はコレですが、中身は三十一歳です。旅人してます」


 しゃべりの口調や態度から若いとは思ってたが、結構な年じゃねーか。まだ十代後半くらいかと思ったよ。


「まあ、なんにせよ。歓迎するよ、旅人さん」


 碗を掲げると、理解した旅人さんが碗を掲げた。


「ありがとうございます」


 碗をぶつけ合い、この出会いに乾杯した。

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