第329話 理解者

 ……まるで公開処刑だな……。


 今、サリバリに散髪してもらってるのだが、結構なギャラリーが集まり、公開処刑ならぬ公開散髪となっていた。


 まあ、隊商に顔の知れたオレが綺麗な服を着た美少女に散髪してもらってたら、嫌でも人は集まる──とは読んでいたが、まさかこんなに集まるとは想像にしなかったわ。


「……ベー。スゴい人なんだけど……」


「今は散髪に集中しろ。そして、お前の腕を見せてやれ」


 散漫になって耳を切られたらたまらんわ。そのハサミ、名工と呼ばれた旅の鍛冶師ドワーフに作ってもらったもんで、角猪の骨すら裁断する切れ味なんだからよ。


「わ、わかった!」


 意気込んだサリバリがシャキンと構え、その天才的な腕を披露した。


 トアラと同様、こんなド田舎には不釣り合いなセンスと腕を持つサリバリにかかれば十分もしないで終了。すっきりさっぱり、短髪になってしまった。


 これと言って髪型に拘りはねーが、ちょっと切りすぎじゃね? 


 今までは後ろで髪を縛るくらいの長さだったが、髪がちょっと立つくらいまで切られていた。


「今回は随分と切ったな。前のがちょうどイイとか言ってたのに?」


「ダメ、かな?」


「いや、ダメってことはねーが、いきなりだから頭がスースーするわ」


 髪って結構温かいものだったんだな。生まれ変わってから知ったよ。


「最近のベーって、子どもっぽさが消えてきたから短いのがいいと思ってね。我ながらいい出来だわ!」


 そんなもんかね。


「まあ、サリバリに任せておけば間違いなねーしな、ありがとよ」


 オレは、お洒落に興味はねーが、身だしなみは大事にする男。サリバリがいいと言うのなら恥ずかしい格好になってねーはずだ。


「ベーさま。これはいったいなんなのですか?」


 目の前で興味津々と見ていた秘書のねーちゃんが真っ先に近寄り、これまた興味津々にアフターされたオレやサリバリの服を見回していた。


 カムラで身だしなみやお洒落に力を入れているだろう秘書のねーちゃんも、オレから見たらダサいに尽きる。ましてや髪も短くして飾り気もねー。完全に素材スッピンだけで勝負している感じだ。


「ベーさま、この子の髪についてるものはなんです? 髪飾り、ではないようですけど、でも、髪を纏めているのはこれですよね? いったいなんなのですか?!」


「そう言うのはサリバリの専門なんでな、ハイ、任せた」


 サリバリの背中を押して秘書のねーちゃんの相手を任せた。


「ちょ、ちょっとベー!」


「こっからはお前の商売だ。その感覚と腕を見せつけてやれや」


 なんてもっともらしいことをしたり顔で言ってやる。


 ……オレにお洒落トークなんて求めんじゃねーわ……!


「うん、任せなさい!」


 おう! と応えて速やかに撤収──する前にトアラの店に立ち寄った。


「トアラ、これに服を着させろ」


 土魔法で土人形を創り、結界で人の姿を張りつけた。ちなみにモデルはフェリエとサリバリと姉御だ。なぜかは聞くな。あの世に旅立ちたくなければな。


「え、ど、どう言うこと?」


「ただ服を並べて置くより、こうして服を着せた方がどんな服かわかりやすいんだよ。イイから着替えさせろ」


 モデル人形とトアラを更衣室結界に閉じ込めた。


 しばらくして更衣室結界の中から「終わったよ~」の声が発せられたので結界を解除した。


「ほぉう。やっぱ着せると違うもんだな」


 お洒落な服の度合いが二十パーセント上昇したかのようだった。


「えーと、三人に怒られない?」


 そんな不安がるトアラににっこり笑う。


「怒られるときは二人一緒さっ!」


 ハイ、お前共犯だからね☆


「そ、そんな~! 殺されちゃうよ~!」


「アハハ。大丈夫だって。一人で死ぬより恐くないさ」


 安心させるために親指を立ててキランと涙──じゃなくて白い歯を輝かせた。


「なに一つ大丈夫じゃないよ! 死ぬの前提じゃない!」


「おっ、前提なんて難しい言葉を使えるなんて賢いな~トアラは。サリバリやサプルも見習って欲しいわ。おっと。広場の見回りを続けねーとな。トアラ、ガンバ!」


 友達を見捨て、幼なじみも見捨てる非情なオレ。ク~ルだぜい。


「ベーのあんぽんたんおバカ!」


 うっせいやい! なんとでも言いやがれ。オレは自分の身が一番カワイイんだよ!


 ハイ、今度こそ速やかに撤収デス!


「ほんと、優しいよね、ベーは」


 目の前に悪魔のような笑みを浮かべるねーちゃんがいた。

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