第327話 うちの子

 サクっといって、マルっと拐ってきて、ポイとゴミ箱(馬車)に破棄した。


 ハイ、ミッションコンプリート。撤収です! とばかりに我が家へと帰った。


 え、その話は? と言う要望は笑顔で却下です。勝手に物語ってくださいだ!


 辺りはもうすっかり暗くなり、我が家からは暖かい光が漏れていた。


「ワリー。遅くなった」


 夕食が終わり、今片付けが始まったところのよーだった。


「お帰り、ベー。ご苦労さんだったね」


「あんちゃんお帰り。夕食は?」


 オカンとサプルの優しい言葉が心に染みる。あぁ、これぞ幸福。人の温もり。生きている実感である。


「おおっ、プリッつあんよ~!」


 ちょうど目の前を飛んでいたプリッつあんをつかまえて抱き締めた。


「え、え!? な、なんなの?!」


「プリッつあん、君はオレの癒しだよ~!」


 これぞファンタジー。腐ァンタジーなんていらねーんたよ! こん畜生がよ!


 充分癒されたのでプリッつあんを解放し、いつもの席に着いた。


「あんちゃん、はい」


 と、けんちん風うどんが置かれた。


「食べたくないだろうけど、ちゃんと食べて力つけてね」


 ほんと、できた妹である。あんちゃん、涙で前が見えないよ……。


 妹の心遣いを無駄にしないためにありがたく、具一つ汁一滴残らず胃にへとおさめた。ごっつあんでした。


「ベー。そんなに忙しいのかい?」


 心配そうな顔をするオカンに、安心させるように笑顔を見せた。


「あ、いや、仕事は大したことねーんだが、いろんな取り纏めが大変でな、ちょっと疲れただけさ」


 サプルはもちろんのこと、オカンにもあんな腐浄に触れさせたくねー。なんで、うちでは一切エリナに関連することは口にしません。そこんとこヨロシク!


 疲れてはいたが、家族とのコミニュケーションは最優先事項。笑顔を絶やさず今日のことを語り合った。


「ん、そー言えば、モコモコガールがいねーな? どーしたん?」


 ちなみにプリッつあんはオレの頭の上にいます。


「もう、あんちゃんったらいい加減アリザの名前覚えなよ。それに、アリザは昨日からいないじゃないのさ」


 へ? そーだっけ? なんかいて当たり前になってたから気がつかんかったわ。


「アリザのおとうちゃんが島に行きたいって言うから昨日、タケルあんちゃんの船でいったんだよ。聞いてなかったの?」


「まったく聞いてなかったな」


 まあ、別にオレの許可を必要とするわけじゃねーし、いきたいときはタケルに言って連れてってもらえと──あ、だから港になかったのね。納得だわ。


「にしても、あの食いしん坊がよく素直についてったな。もううちの子になったのかと思ってたわ」


「……あんたは、バカなんだかおおらかなんだかよくわからない子だよ……」


「あんちゃんのそーゆーとこ、マジスゴいよね……」


 なんかオカンからもサプルからも呆れられた!?


「でも、ベーらしいよね」


 なにやらプリッつあんの纏めに、オカンもサプルもまったくだと笑い出した。


 まあ、解せぬのは解せぬのです! とか思いはするが、家庭に笑顔が生まれるのならオレに否はねー。肩を竦めて苦笑で応えた。


 いつものようにそれぞれの思い思いに時間を過ごし、広場での疲れがあるのか、サプルは早々とベッドに入り、広場にはいってねーオカンも各家の手伝い(ヤップのかーちゃんの世話だったり年寄りの世話だったり、広場にいってる女衆の代わりにやってんだよ)で疲れたらしく、いつもより早く眠りについた。トータは……あれ? トータがいねーな?


「プリッつあん、トータ知らね?」


「え? 今さら!?」


 暖炉の前でお茶してたプリッつあんがびっくらこいた。


 ハイ、まったくもって今さらですが、なにか?


「……ベーの目にはいったいなにが映ってるのか、スッゴく気になるわ……」


 そりゃ薔薇色の人生だよ! とか言っても理解してくんねーだろうから肩を竦めるだけに止めた。


「トータならドワーフさんちにお泊まりだよ」


「お泊まり? なんでまた?」


 夜は寝るだけの五才児であり、我が家では一番のフリーダム。時間など幾らでもあるだろうに、わざわざ泊まる必要もねーだろう。


 あ、いや、泊まるのがワリーと言ってるわけじゃねーし、やりたいのならやればイイ。止めはしねーさ。だが、あの人見知りが他人の家に泊まるなど青天の霹靂級の出来事である。


「よくはわからないけど、冒険の準備だ! とか言ってたわよ」


 毎日が冒険のトータが? それともガブと一緒だから舞い上がってんのかな?


「まあ、なんにしろ好きにやれだな」


 うちは放任主義。やりたいことをやれ、だからな。


「プリッつあんは、今日なにしてたんだ?」


「馬たちと遠出してた。風がすっごく気持ちよかったよ」


 羽根妖精が馬に乗って遠出とか、なんかスゲーシュールな光景だな。つーか、プリッつあんの趣味嗜好がよーわからんわ!


「そりゃよかったな。また馬を遊ばせてやってくれや」


 もはやプリッつあんもうちの子。好きなときに好きなことをやりなさい、だ。 

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