第326話 宣誓!
なんて怒ったところでやると決めたのはオレ自身。ならばやるしかねーか。超絶的にやりたくねーがよ……。
「はぁ~。んじゃ、その箱タリフェンに渡してくれな。あと、水や食糧は倉庫に入ってるから適当に持っててくれ。わざわざきてもらった礼だ」
「そりゃ助かる。お前のところの食いもんは、どんな宮廷料理より旨いからな。遠慮なくもらっていくわ」
あいよと応え、飛空船から下りた。
港へと続く通路は二つ。一つはうちへと続き、一つは広場に、だったんだが、いつの間にか第三の通路、エリナロードができていた。
言った通り、ここはエリナの領域としているからエリナがなにを創ろうが構わないのだが、もうちょっと見た目をよくすることが出来なかったのか?
「なんつーか、エリナの本性を具現化したように入りたくねー通路だよな……」
「申し訳ありません。主の力は闇の力なもので」
エリナの命令できたのか、蠢く闇の前でバンベル(執事バージョンで)が待っていた。
「まあ、リッチなダンジョンマスターだしな。しょうがねーか」
そこに突っ込んでも意味はねー。あるがままを受け入れろだ。
「では、こちらに」
覚悟を決め、バンベルの後に続いて蠢く闇に踏み入った──と思ったら森の中に出た。
「はぁ?」
な、なにがどうなってんの?
周りを見渡すと、エリナの馬車があった。
「て、転移した、ってことか?」
バンベルに疑問をぶつけた。
「いえ。転移と言うよりは空間を繋げた、と申しましょうか、わたしにもよくわかりません」
その後になにか言葉が出そうな感じだったが、バンベルの苦労を考えてスルーしておいた。
……エリナ一党の中で常識人なのがスライムって、なんなんだよいったい……?
「どうぞ」
この馬車も入りたくねーが、早く終わらせるためには我慢しろだ。
中へと入ると、なぜか優雅な応接間になっていた。
二人掛けのゆったりソファーと一人用のゴージャスソファーが三つ。中央には大理石(?)のテーブル。その上にはデリシャスなケーキと紅茶が置かれていた。
これもなぜだか喪服なドレスに顔を隠すベール付きの帽子を被ったエリナも全身全霊を懸けてスルーします。
「ベーどの、どうでござった?」
「どうって、見てたんだろう?」
「あ、わかっちゃいました⭐」
ベールの向こうでなんかイラつく顔をしてるのがわかるだけにさらにイラつくぜ。
「ま、まあ、真意は伝えたし、補給が済んだら出発するだろ」
「同志に例のものが届くのはいつくらいになりそうでござるか?」
例のものを極力考えないで飛空船の速度と公爵領までの距離を計算する。
「天候次第にもよるが、早くて三日。遅くても五日で届くだろうよ」
ファンタジーな乗り物とは言え、人の目と感覚で視界を確保しなければならねー。なんで飛べるのは昼間だけだし、浮遊石や竜と言ったファンタジー要素満点の領域を避けてのコースとなる。地上をいったら軽く四ヶ月はかかるんだから世界最速の飛空船と呼んでも過言ではねーよ。
……まあ、SFなものは抜きにして、だけどな……。
「そんなにかかるでござるか……」
「人のこと言えねーが、前世の時間に捕らわれんな。もっとゆっくり生きろ。どうせお前の寿命は長いんだからよ」
まあ、生きてると言ってイイのかはわからんが、腐っても不死の王。勇者に退治されなきゃ永遠に存在してんだろうよ。
「……そ、そうでござるな。まだ新しい人生は始まったばかり。ゆっくりまったり、腐の道を歩むでござるよ」
出来ることならその腐の道は避けて欲しいが、知的生命体が存在する限りは腐の道が途絶えることはない。ならば正しい(?)腐の道を切り開いてもらうだけだ。
「じゃあ、そう言うこ──」
「──ならば、身近にいる同志を誘うでござるよ!」
そのままイイ話にして逃げ出そうとしたが、そうは問屋が卸さない。あっさりと首根っこをつかまれてしまった。
チッ。エリナのクセに生意気な……。
「わかったよ。だが、お前、隊商のねーちゃんは小さい男の子好きな変態だぞ。お前の趣味と合うのか?」
まったくこれっぽっちも興味を持ちたくないが、そーゆーのって、ジャンルがわかれてんじゃねーのか?
「あの御仁は、半ズボンが好きな貴腐人でござる。なら、我の範疇でござるよ!」
ホント、ナニイッテルカワカリマセンナ。
「あ、うん。そっ」
宣誓! ボクは正々堂々、力の限り、考えるの放棄しまーす!
「んじゃ、呼んで来るよ」
オレの中から隊商のねーちゃんはいないものと確定しました。
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