第325話 ガッテム!
「話が見えん。いったいなんなのだ?」
まあ、今ので話がわかったのなら公爵とは縁を切りてーよ。オレは腐海は薙ぎ払え! な主義だからな。
「そこはねーちゃんの個人情報だからな、例え公爵にも言えねーよ」
「なんなのだ、個人情報とは? 親が娘のことを知るのは当然ではないか」
まあ、個人情報うんぬんが通じるファンタジーじゃねーしな、公爵の方が正しく、当然のことである。
「そこは公爵を思ってのことと、ねーちゃんのイメー──じゃなくて印象を守るためだ。あとな、親だからこそ知りたくなかったってことがある。今後も娘を可愛いと思いたいのなら知らないふりをしろ。これは、オレからの精一杯の忠告だ」
もし、オレの娘がアレだったらと思うと軽く死ねるわ。つーか、一思いに殺してくれだわ。
「……そ、そう言われると余計に気になるわ……」
それが運命の別れ道。知りたいと言うならオレが責任を持って介錯してやるよ。
どうする? と問おうとしたとき、ドアが勢いよく叩かれた。
「船長、直ぐにきてください! 甲板に淫魔が、魔族が現れました!」
淫魔? ってことはアレか。つーか、この場を見てやがるのか、あの汚物は?
この港はエリナの領域でもあるのでダンジョンマスターとしての能力で見ることができても不思議ではねーな。
「──あ、それ、オレの知り合いだ。害意も敵意もあるが心配すっことねーよ」
「いや、なに一つ心配しなくても良い理由がないよな!」
あれ? 言い方間違えた?
「あ、まあ、暴れたりはしねーから騒ぐな。たぶん、オレに用があんだろうさ」
わざわざイン子を寄越したんだ、なんかあんだろうよ。
と言うことで甲板に出ると、いつものメイド服をきたイン子ちゃんが小箱を抱えて立っていた。しかも、これってないくらい仏頂面で。
「どうしたイン子。可愛い顔が台無しだそ」
中身はまったく可愛いくはないがな。
「イン子じゃないもん! チャーニーだもん! お前なんか嫌いだ!」
と、持っていた小箱を投げつけてきた。
大きさはA4紙が二百枚は入る容量であり、重さだった。
「マスターが同志に渡してってさ!」
言うだけ言って飛び去っていった。まあ、こちらもあのおバカを相手したくねーのでさっさと消えてくれて助かったけどな。
「……お前は、魔族にまで知り合いがいるのかよ?」
「魔族だったらまだよかったんだがな……」
死して腐の王になった汚物とその部下。最悪最凶過ぎて勇者ちゃんに退治してもらいてーわ。
「……敵ではないのだな?」
「ある意味においては公爵の敵だな。公爵軍全滅覚悟で挑めば辛うじて倒せるはずだから退治してきてくれや」
「お前、それ、魔王を倒してこいって言ってるのと同じだからな!」
まんま魔王を倒してこいって言ってんだが、罪もない数万人の命を散らすのも気毒だ。ここは、公爵一人に犠牲になってもらいましょうだ。
「それで、その箱はなんなのだ?」
「さしずめ、パンドラの箱って感じだな」
もっとも、災いだけしか詰まってねー腐箱だがな。
……例え希望が入ってたとしても、公爵にはなんの気休めにもなんねーだろうよ……。
「パンドラ? 箱? ちゃんとわかるように説明しろ!」
「知りたきゃその箱を開けろ。但し、オレが消えてから、誰にも見せず、遺言を書いてからにしてください」
パンドラならぬベーの箱として歴史に刻まれたくねーわ。子孫に顔向けできねーよ。
「な、なんだよ、それ?! メチャクチャ怖いわ!」
「大丈夫。公爵やオレが開けなければなにも問題ねー。健やかに、愛しい妻たちと生きたいと思うならそのままカーレント嬢に渡せ。それが最良の選択だ。と、無理矢理信じろ。オレはもうカーレント嬢はいないものと思ってる」
「ほんと、なに一つ安心できねーこと言わねーな、お前は! 友達に裏切られた気分だわ!」
「オレはオレの平穏を守るためなら公爵に死んでくれと言える男だ!」
「お前、最低だな! お前と友達になった自分が憎いわ!」
「安心しろ。オレは自分自身に対してなに一つ裏切ってねーからよ」
「できるか、このアホ村人が!」
なんてバカな言い争いをしてると、イン子が戻って来た。
「忘れてた。マスターが広場にきてくれってさ。そこにいる同志を紹介してくだされ、だって。ちゃんと伝えたからね!」
また、言うだけ言って飛び去っていった。
「ったく。どいつもこいつも腐りやがって! 」
ガッテム!
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