第322話 変態だけど
「沈まれ!」
「──おふっ!」
お〇さまは好きだが、変態はノーサンキュー。腹パン一つで黙らした。
「……なんだか去年も見た光景ね……」
白目剥いて床に倒れる隊商のねーちゃんを見て、フェリエが感嘆とした口調で呟いた。
あーそう言やぁ、去年もやったな。つーか、学べよ。特にオレ!
「……な、なんてことを!? こ、この方は、カムラでも実力のある商人なんですよ……!?」
レリーナのねーちゃんが青い顔して震えているが、オレからしたらのただの変態。腹パンしたところで罪悪感なんぞ一ミリグラムも感じねーわ。
「……また、ですか……」
と、隊商のねーちゃんの手綱──秘書のねーちゃんが現れた。
見た目は地味な感じだが、できる女の代名詞みたいなねーちゃんで、感覚で商売する隊商のねーちゃんの代わりに実務的なことを一手に引き受けている、このねーちゃんこそ女傑だろうと言う人だ。
「おう。よく来たな」
変態を跨いで秘書のねーちゃんを歓迎した。
「今年もよろしくお願いいたします」
クールビューティーなねーちゃんだが、オレには優しい笑顔を見せてくれる。ほんと、こーゆーイイ女ばかりだと人生がもっと華やかになるのによ。惜しい人だぜ。
「……そ、その笑顔をわたしにもおくれやす……」
なにか変な幻聴が耳に届いたが、きっとそれは虫の声。気にしない気にしないだ。
「今回は早かったな。毛長牛百頭って言うからもっと遅くなると思ったよ」
まあ、百頭連れてくるとは思わねーが、契約金として十頭くらいは連れてくるだろうとは見てた。
馬車に載せて運んでくるとしても、一日中馬車に載せておく訳にはいかない。一日に何度か下ろして休ませないとストレスで死んでしまう。前に買った毛長山羊も休ませ休ませきたにも関わらず、十頭中四頭がストレスで死んでしまったのだ。
「ふふ。やはりベーさまは賢いお方です。わかってしまいましたか」
「こんなことすんの、カムラじゃこの変態だけだしな。嫌でもわかるわ」
変態だが、商人としては超一流。あんちゃんとはタイプは違うが、たまに気持ちのイイ商売をするから厄介なのだ。
「そうですね。わたしもこのへ──いえ、ザーネルには驚かされました。まさかあんな取引をするなんて。相手がベーさまでなかったら殺しても止めるところです」
「まったく、変態は突拍子もないことするからな。周りは大変だぜ」
アハハ、ウフフと秘書のねーちゃんと笑い合った。
「……まさに、自分のことを言ってるって、なぜ気づかないのかしらね、この自称村人さんは……?」
フェリエの呟きが耳に届いたが、そんなもんは電光石火でスルーです。
「それで、アニバリ様の件は承諾されたと言うことでよろしいのでしょうか?」
「ああ。それでイイよ。ただ、オレの手には負えねーからバーボンド・バジバドルに任せる。だから一人か二人、王都に回してくれ。アニバリにも一人回せと言っておいたからよ」
まあ、その辺のことはまた後で。四者集まってからだ。ダメなら適当にだ。
「バーボンド様、ですか。ベーさまなら顔見知りだとしてもなんら不思議ではないのでしょうが、随分と早く話が纏まりましたね?」
「いろいろコネと運が良かったまでさ」
秘書のねーちゃんは好きだし、友情みたいなものを抱いてはいるが、相手は商人。ちゃんと線を引いて付き合わねーとこの関係は崩れる。なんで、転移できることは内緒だ。
……もっとも、場合によっては教えるし、巻き込むけどな……。
「ふふ。嘘は言ってないが、真実でもない、なにか考えているときのベーさまの誤魔化しですね」
できる秘書のねーちゃんなら気付くとは思っていたのでニヤリとだけ笑っておいた。
「そんで。早くきた理由はなんなんだい? ついでに毛長牛は何匹連れてくるんだ?」
「ザルーネの言葉では『なにかが呼んでる!』とのこと言うことです。わたしにはさっぱりわかりませんがね」
隊商のねーちゃんは、たまに『エスパーかっ!?』と言いたくなるときがある。まったく、なんの電波を拾っているかは知らねーが、いつでもどこでも感度良好なんだから参るぜ……。
「毛長牛ですが、アニバリ様との契約したその日に二十頭を用意して万全の体制で出し、明日には二十頭欠けることなく到着できるでしょう」
そーゆーところがスゲーよな、隊商のねーちゃんは。変態だけど。
「わかった。残りは順次ってことで頼むわ」
「畏まりました。次回は来月。同じく二十頭連れて参ります」
今回の二十頭はうちで。残りはエリナんとこで飼ってもらうか。
「あいよ。なら、続きは明日な。まだ仕事が残ってるからよ」
「はい。では明日。ザダ。パーニー。これを運び出してちょうだい」
ドアから屈強な男が二人入ってきて、無造作に変態を持ち上げ出ていった。
あ、これも去年見たな~。
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