第305話 ノリ突っ込み

「会長さん、石炭買わねーか?」


「おう、買う買う──って言うと思ったかっ!」


 まさかのノリ突っ込み。


「アハハ。会長さんウケる~~」


「ウケる~じゃねーわ! ウケるってなんだよ! 意味わかんねーが、止めろ! 腹立つわッ!」


 なかなか爽快な絶叫がクセになる。やっぱ、会長さん好きだぜ。


 勇者ちゃんに案内してもらい、会長さんの店にきたら運のイイことに店前にいたので挨拶したのだ。


「──さて、挨拶もほどほどにして本題に入るか」


「……ほんと、お前を相手してるとわしの中のなにかが崩れていくわ……」


 力なく地面に崩れ落ちる会長さん。ガンバ!


 まあ、オレの応援がなくても天下の大商人。五秒もしないで復活した。


「よしこいっ!」


「なにがだよ」


「話の続きに決まってんだろうが! 他になにがあんだよ!」


 そりゃそーだ。ノリがイイから忘れてたわ。


「……そ、その忘れてたって顔止めろや。わしの胃のためによぉ……」


 ハイハイ。今日は虫の居所がワリーだね。老人は大切にしねーとな。


「だから、その心の声を顔に出すんじゃねーよ……」


 襟首をつかまれ、持ち上げられる。会長さんって力があんだね~。


「ここではなんだ、中で話すぞ」


 オレに否はねーの持ち上げられたままお邪魔します。


 で、通されたのは前にきた執務室ではなく、応接室的な場所だった。


「なんか、意味ありげな部屋だな」


 小さく質素な上に造りが重厚だ。窓にも鉄格子なんか付いちゃったりしている。


「まーな。店が大きくなると敵が増えるからな、こう言う静かに話せる場所が必要になってくんだよ」


「商人も大変なんだな」


「お前がもってきた話も大変なことなんだからな」


 そーなん? なら益々会長さんにお任せしねーとなんねぇな。


「で、石炭ってなんなんだよ。詳しく最初から話しやがれ」


 席から立ち上がり、棚から瓶に入った酒を出し、そのまま口にして半分近く飲み干した。


「今日の午後のことなん……どうしたい、しゃがんだりして? 酔ったのか?」


 前にうちに泊まったときは蒸留酒飲んでも平気な顔してたのによ?


「……だ、大丈夫だ。お前に常識を求めるわしがワリーだけだ。続きを」


「そうかい。なら、続けるよ」


 とまあ、午後のことを簡単に、と言うか、一分くらいで説明が終了した。


「……簡素でわかりやすい説明をありがとうよ……」


 と言う割りには難しい顔してんな。どーしたん?


「カルフェリオン・アニバリ、か。また厄介なものと知り合いになったもんだな、お前も……」


「アニバリ、そんなに厄介なのかい、立場的に?」


「……お前、わかってんなら相手すんなよ。あの国、マジでヤバイ国なんだからよ……」


 マジの次はヤバイも出してきたよ、このじーさま。進化ハンパねーぜ。


「ふ~ん。ヤバイ国、ね~」


 どうヤバイかは知らねーし、聞く気もねーが、興味はあるな。もちろん、国の内情じゃなく、アニバリの生き様によ。


「……ワリー顔してるぞ、お前……」


「おっと。そりゃ失礼」


 真面目真面目と顔をほぐしてキリッとして見せる。


「そんで、石炭は買ってもらえるのかい?」


 そう聞くと、深いため息を一つ。そして、商人の顔になった。


 フフ。さすが会長さん。腹のくくり方が他とは違うぜ。


「任せろ。石炭はわしが引き受ける。で、品はいつ届くんだ?」


「あー、それな。いつとは聞いてなかったわ。まあ、ザーネル──って、そー言やぁ会長さんってザーネルは知ってるか? カムラ王国で一、二を争う大商会の娘なんだが?」


 うちの村にきたときもカムラ王国からの帰りだし、カムラ王国の内情は知ってるはずだ。


「……ほんと、お前はあの女傑とも知り合いかよ……」


 やはり知ってたか。ってまあ、あの濃いねーちゃんが世間に埋もれるわけねーか。もしかすっと国一番の有名人かもな。


「毎年隊商率いてうちの村にくっからな」


 まあ、その後、バルサナの街までいって海産物や外国の品を買ってから別ルートで帰るそうだがな。


「人のことを言えんが、行動力のある女傑だ」


「それには同意だな。まさに陸の冒険商人だ」


 あの性格には困ったもんだが、商人としては五指には入る(オレの指でのことな)は入る。そこだけは尊敬するよ。


「多分、ザーネルが運んでくると思う」


「……妬けるな……」


 突然、そんなことを言う会長さん。なんだい、いったい?


「女傑は、お前が必ず絡むと見て行動し、一切の躊躇いなくアニバリについた。しかも、お前が動くと確信している。ダチとしては妬けるぜ……」


 そう言われると嬉しいが、あのねーちゃんに見透かされているかと思うと腹立つな。やっぱ、五割増しにしてやんよ。


「まあ、イイさ。楽しい時間はわしの方が勝ってるしな、そこは譲ってやるさ。どうせ女傑もベーに苦労してんだろうからな」


 それこそワリー顔して笑う会長さんだった。


「おっと。話が逸れたな。なら、石炭は女傑がきてからってことだな」


「だろうな。きたらまたくるよ。そんで、買い取りの値段なんだが、食料で頼むわ」


「あー、あの国、飢饉で大変だったな」


「なんで小麦を中心に、根菜類や保存食を五千人分頼むわ。五日以内によ」


 さすがに万とか集めるのは不可能なくらいわかる。そんなの国の倉庫でも開かんと無理ってもんだ。あ、会長さんのコネならできっかな?


「……わ、わかった。五日以内に揃えておくよ、こん畜生が!」


 こん畜生はいらねーと思うが、人それぞれ。会長流の気合いの入れ方なんだろうからオレが口を挟むことじゃねーか。


「なるべく中級の倉庫に入れてくれ。そうじゃねーと運べねーからよ」


 オレの結界使用能力は、半径三十メートルが限界。それ以上だと連結結界で広場に創る倉庫と繋げなくなるからな。


「……なにをするかわからんが、人に見られるようなことはせんでくれよ。ただでさえ帝国の密偵に睨まれてんだからよ」


「安心しな。万が一誘拐されても死なない仕掛けは施してあっからよ」


 大事なダチだ、クズどもに指一本触れさせねーよ。


「んじゃ、またな」


 さて、早く帰らねーと夕食に間に合わなくなるぜ。

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