第300話 事情を話しな
収納鞄から商品を出していると、なにやら外が騒がしい。
「なんだろうね?」
「なんだろうな」
オレの頭の住人さんが尋ねてくるが、構わず品出しを続ける。なんか問題があんならくんだろうさ。
外にはサプルがいる。あのスーパー幼女に危害を加えるヤツなんて人外クラスの者じゃなけりゃ不可能だし、万が一の結界も施してある。それに、力できたら力で返せとも言ってある。まあ、なんにしろ商売にはトラブルがつきもの。経験だ。
「ベー! ちょっときておくれよ!」
と、おばちゃんらが雪崩込んできた。
「どーしたん?」
出しながら応える。
「隊商の冒険者が品を買わせろって騒いでんだよ!」
「サプルはどうした?」
「あ、あー、いつものあれが出て、一人を殴って村の方に走っていっちまったよ」
その説明でだいたいの事情が理解できた。
スーパー幼女の弱点、汚物がなによりキライってことだ。まあ、潔癖ってほどじゃねーが、今の時代かからしたらキレイ好きってレベルを突破して、ちょっと心配されるくらいだろう。たぶん。
「ったく、しゃーねーな」
毎年のこととは言え、忙しいときにこられっと頭にくんぜ!
外に出ると、なるほど、サプルが逃げ出すのもしょーがねーと思えるくらい悪臭を撒き散らす冒険者がいた。
いったい何日風呂に入らなければそうなるんだってくらい汚れ、さすがのオレも鼻をつまみたくなるくらいの臭いだった。
こーゆーときのための結界とばかりに臭いを遮断した。
おばちゃんらも棒で悪臭を近づけないようにして鼻をつまんでいる。
「……で、なんだって言うんだい?」
「なんだ、テメーは?」
「この広場を管理してるもんだ。広場にこれと言った法はねーが、迷惑かけんなら力ずくで黙らすぞ」
ポケットから
「ギャハハハハ! ガキがなにしようって言うんだよ? しかも、そんな棒キレで」
まあ、悪臭の身長は二メートル近く、ガタイもゴリラのようにガッチリしている。その半分にも満たねーオレの脅しなどギャグにしか見えねーだろうよ。
「だったらテメーの腰に差してる小枝はなんなんだ? 道に落ちてる馬糞でも突っつくのか?」
あまりイイおちょくり方が思い浮かばなかったが、この時代のアホは沸点が低い。こんなもんだろえと思ったら、なにやら直球ど真ん中。それは見事な激怒を見せた。
……沸点が低すぎてどこに触れたかよーわからんな……。
「このクソガキがっ!」
悪臭が冒険者かどうかは知らんが、剣を抜いて襲ってきたからには正当防衛が発生する。
不思議なことにこの時代は正当防衛が確立されており、襲われたら返り討ちにしても罪にはならねーときている。まあ、証人がいての正当防衛であり、町や村の外では弱肉強食が優先されるがな。
振り下ろされる剣を纏った結界で流し、悪臭の脇腹向けて金色夜叉を振った。もちろん、手加減してな。
ゴギって音がしたが骨は……折れてますね。まあ、ドンマイだ。
崩れ落ちる悪臭。動く生ゴミが動かぬ生ゴミになってしまった。
「まったく、規模が大きくなるのはイイが、こーゆーアホも増えてくるんだから参るぜ」
触りたくはねーが、このまましておくのもプチ災害だ。しょうがねーと悪臭に結界を纏わせる。
「さて。どこに捨てっかな?」
このまま川に捨てるのも畑に被害が出そうだし、山だと死肉食いになられたら更に被害が出そうだ。う~ん、どーすっぺ?
「あ、あの、いいだろうか?」
悩んでいると、北欧系のガタイのよい紳士が声をかけてきた。
「なんだい?」
「すまない。その男は、わたしが雇った男なのだ」
「じゃあ、そっちで処分してくれ。あと、騒ぎを起こすなとは言わねーが、起こすなら追い出される覚悟で騒げよ。ここにくる隊商は通商連合組んでっから目つけられたら二度と商売できなくなんぞ」
ここで買うものを一人占めしないように、抜け駆けしないように、抜け駆けした者に罰を与えるためにと、大手の隊商が通商連合を組んで仕切っているのだ。
まあ、規模と効力がどれほどのもんかは知らねーが、まあ、逆らわない方が無難だな。カムラ王国を通ってくる小さな隊商なら特に、よ。
「すまない。二度とこんなことはさせない。どうか許して欲しい」
深々と頭を下げて謝罪してきた。
北欧の人間がどんな民族性かは知らんが、こんなガキに頭を下げる度量に免じて流してやるか。
「わかった。なかったことにしてやるよ」
もう行けと手を払うが、ガタイのイイ紳士は動こうとしなかった。
「恥を忍んでお願いする。どうか商品を売ってくれぬだろうか?」
なにやら事情があるらしいが、こちらも隊商のルールに合わせて商売している身。特別待遇はできねー。
だが、オレの勘が言っている。出会い運が囁いている。
こいつを逃がすなと……。
「まあ、事情によっては売ってやらんでもないが、まずは説明しな」
外に出したテーブルを一つ並べ、椅子を出して座らせた。
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