第299話 交易広場、篇?

 さて、朝です。


 清々しい朝がやって参りました。


 まあ、天気は曇りだが、雨が降るような雲ではない。降るのはもうちょっと内陸に入ってからだ。


 いつもの習慣を終え、朝食を済ませる。


「んじゃ、オカン。広場にいってくんな。夕方には戻ってくっからよ」


「わかった。あたしらも午後にはいくよ」


 靴を履きながらおうと返事して家から出た。


 昨日のうちに準備はできているので柵に縛りつけていた縄をほどき、リファエルを荷車につける。


「リファエル、いけ」


 なんかネタをやる気分でもないんで普通に出発した。


 山を下り、街道に出る。そー言やぁ、この街道に名前ってあったっけ? なんかウーとかナーとか言ったような気がするが……なんだっけか? なんてどーでもイイこと考えた広場に着いてしまった。


 昨日、冒険者ギルド(支部)の前にたくさんいたから広場もいっぱいなんだろうと思ってたが、隊商がいくつか来ていて天幕を張っていた。


「……気の早い連中だ……」


 開始日が決まっていないとは言え、今くるのは明らかに早過ぎる。つーか、天幕を張るって、しばらく居座るってことか?


 まだ遠くで顔ははっきりしねーが、いつもくる隊商ではねーな。どこの国のなんて商会かを示す旗も違うし、なんか北欧っぽい顔つきをしている。


 ……隣のカムラ王国のさらに先の国からきたのかな……?


 カムラ王国をすぎたら北欧地帯と呼ばれ、小国や少数民族が乱立すると言う。去年も北欧地帯からきた隊商もいたから、噂を聞いてやってきたんだろうよ。


 どこの国、どんな種族でも商人は機にさといもの。 この世で最強生物は商人かもな。


 近付くオレに気がついたが、相手がガキでしかも一人だからなのか、すぐに興味をなくしてそれぞれの仕事に戻っていった。


 こちらもどこの誰だかどんな商売するかもわからねーし、やることもあるので頭から外した。


 広場はだいたい縦横百メートルで、オレの土魔法で平らにしてあり、四隅には井戸を掘り、上流から水路を引いて馬や騎獣用の水のみ場を二ヶ所造ってある。


 一応、と言うか、当然と言うか、この広場は領主たる伯爵のもので管理責任があるのだが、手本のようなアホ領主で、これだけ賑やかになってんのに官吏を一度も差し向けてねーのだ。


 まあ、街道税なるものは国境を越えるときに払い、広場の使用料を取ることはできねーが、他のことで取れるだろうに、まったく見向きもしねーのだ。


 なんでこの広場の管理はうちの村で行い、村長からオレに委託されている。


 つまりなにが言いたいかと言うと、だ。一番立地のイイ場所にオレの店があるってことだ。


 オレの店は広場の中央にあり、石積みの造りとなっている。


 建物は三十坪くらいと小さいが、幕を張って拡張するし、周りは村のもんが陣取るのでこのくらいで充分なのだ。


 もちろんのこと、オレの店の周りには水のみ場はなく、杭を打って隊商が集まらないようにし、村のやつらの場所としている。そのために井戸も四隅に掘り、水飲み場も端に造ってあるのだ。初めてきただろう隊商も井戸や水飲み場近くに天幕を張っている。


 読み通りと満足しながら店を開ける。


 冬以外なら隊商はいつでも通るが、雨が少ない今の時期に比べたら十日に三隊通ればきた方だろう。なんで、店を開くのは今の時期だけ。なんで窓や戸は板を張り、誰も入れないようにしてある。もちろん、結界も張ってあるので風雨にも負けません。


 板は釘を打っているので土魔法で解除して簡単に板を剥がしていく。


 外した板は煮炊き用の薪として使うので薪置場に並べておき、荷車に積んだ薪も下ろしておく。


 店の周りに溜まった枯れ葉や枯れ枝、小石をはいてキレイにする。


「こんなもんかな」


 村の女衆がきたら掃き掃除してくれるんでだいたいでイイのだ。


 中へと入り、窓を開けて空気を入れ換える。


 店の中は椅子やテーブル、天幕や骨組みが積まれており、それらを外に出し、水拭きに乾拭きをする。


 これもだいたいで済ませ、荷車に積んだ荷物を店へと運ぶ。その頃には昼となり、外で軽い昼食を済ませた。


 そこでふっと頭の上にプリッつあんがいないことに気がついた。


「あれ? 朝起きたときはいたんだがな」


 まあ、メルヘンでも一人になりたいときもあんだろうと、食後のマン〇ムタイム。あーコーヒーウメー。


「──また置いていくー!」


 と、プリッつあんが真正面から弾丸のごと飛んできて、オレの額にドロップキックをかました。


 痛くも痒くもねーんでそのまま流した。


「あんちゃん、プリを置いてっちゃダメだよ」


 なんか理不尽なことを言われている気がしてしょうがないが、まあ、オレの頭の上の住人さん。許可しちまったからには責任を持ちましょうだ。


 なんで耳をかじるプリッつあんの好きなようにさせ、サプルたち女衆に意識を向けた。


「そっちの準備はできたんか?」


「ううん、まだだよ。今回は人数が多いから場所決めしようと思ってね」


 よくよく見れば海の女衆もきていた。今回は村総出って感じだな。


「そっか。まあ、商品が被らねーように店を出せな」


 まあ、被ったところで売り上げにどうこうなる訳じゃねーが、見る方からしたらバラけてた方がおもしろいしな。


 サプルは娘衆のグループで料理がメインで、屋台をいくつか出してオープンカフェスタイルで商売をする。オカンらおば──じゃなくて婦人衆は露天で、野菜やら干物、保存食系を売る。


 それぞれが違う商売をするので各自、それぞれに動く。


 オレの商売は雑貨店のような道具屋のような、何でも屋だ。店名も何でも屋広場本店。ちなみに港は二号店です。


「さて。品出しすっか」


 午後の仕事を再開した。 

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