第292話 出迎え

 潜水艦から出ると、ウルさんとあんちゃんが出迎えてくれた──かどうかは知らねーが、久しぶりの顔に帰ってきたんだと実感した。


 ……やっぱ、ここがオレの居場所だな……。


 なんて言いながらまた旅行にいっちゃうのが人の業。今度は東の大陸に旅行だな。


「おう、お帰り」


「お帰りなさいませ。ベーさま」


 ちなみにあんちゃんは地上でウルさんは海面から上半身を出していますからね。


「ただいま。わざわざの出迎えワリーな」


「なに、上にいこうとしたら船がくるって言うから待ってたまでさ」


「わたしは、ベーさまにご報告と相談がありましたので」


 まあ、どんな事情であれ、お帰りと言ってくれるだけで金貨一万枚を手に入れるより嬉しいもんさ。


「お時間、よろしいでしょうか?」


「急ぎなのかい?」


 できれば今日はゆっくりしてーんだがな。


「はい。帝国から使者が参りまして、捕虜の返還と交易の打診を申しております」


 帝国? ──ああ。魚人のね。すっかり忘れてたわ。


「捕虜の返還は無視。交易はハルヤール将軍に任せる。帝国のゴタゴタに巻き込まれるのなんてゴメンだよ。メンドクセーわ。恫喝してくるんならいつでも相手になってやると言っとけ。エリナのエサにしてくれるわ!」


 こちらにはタケルと言う名の超戦力とエリナと言う名の超補給があり、ハルヤール将軍と言う名の超味方がいる。魚人の帝国がどんなんだろうと怖くもねーよ。


 ……それ、他力本願と言う、かどうかは知らねーです……。


「ってことだからあとはよろしくな。タケル。ウルさんに仲間を紹介しておけな。これからご近所さんになんだからよ。あ、まだ上に住むとこねーからしばらくは潜水艦暮らしな。なんならあそこの倉庫を改造してもイイからよ。個人的な買い物はあんちゃんの店で買えな。手に入れらねーものはエリナに頼んでおいてやるからよ。食料品の補給は勝手に持ってけ。足りなくなったら上の保存庫にあっからよ」


「──え!? サプルちゃんの料理食えないんですか!?」


 なにやら死刑宣告でもされたかのような顔して迫ってきた。


「うっとうしいわ!」


 問答無用で海へと放り込んでやった。


「ったく。すっかり食いしん坊キャラになりやがって。カーチェ。船長をよく教育しとけ」


 全力でサポートとするとは言ったが、甘やかすとは言ってねーし、オレは縁の下の力持ち的立場。タケルをちょ──じゃなくて教育は舞台の上にいるヤツの役目である。


「……了解です。雇い主どの……」


 その場を任せ、上に続く通路へと向かおうとして、停止。ウルさんへと振り返る。


「あ、ハルヤール将軍に武器を手に入れたから都合をつけてきてくれと伝えてくれや。イイものを手に入れられたからってよ」


 正確的にはまだ手元にはないが、親方から作るとの約束は取り付けてある。半月後にはできるって話だったし、ハルヤール将軍がくるまでには間に合うだろよ。


「わかりました。お伝えします。あと、手が空いたときでよろしいので館にお越しください。わたしでは力が足りないことが多いのでベーさまの知恵をお貸しくださいませ」


「あー、まあ、気が向いたらな」


 メンドクセーが、ハルヤール将軍の終の棲み家だ。なくすわけにもいかんし、ある程度は助力してやらんとな。


 また振り返って上に向かう通路へと歩き出した。


「なんか人数が増えてんな。まあ、人数と言ってイイのか謎だけどよ……」


 一緒に戻るあんちゃんが自分の言ったことに首を傾げていた。


 まあ、わからなくはないので突っ込みはしない。代わりにまったくだと頷いておいた。


「でもまあ、ベーに関わったら種族とか大人とか子どもとかどうでも良いか。あるがままを受け入れんと頭どころか心まで腐っちまうからな」


 いろいろ文句はあるが、それができるからこそオレの中で一番の商人はあんちゃんなのだ。


「そんで。王都はどうだった?」


「なかなか楽しい出会いに満ちてたよ」


 思い返す間でもなく、毎日が出会いだったっけ。


「そうか。それはなにより。仕入れを急がんとな」


 ほくそ笑む商売人。まあ、人との商売を捨てて人外の者と商売すると決めたのだからガンバレだ。


「そうだ。頼まれてたやつだ」


 収納鞄から王都で買ったものを詰めた収納鞄を出してあんちゃんに渡した。


「お、悪いな。金はお前の金庫に入れておくからよ」


 いちいち渡されんのもメンドクセーから巨大な貯金箱を渡してそれに入れておけと言ってあるのだ。まあ、信用払いってやつ、かな?


「村に変わりはあったかい?」


「これと言ったことはないが、隊商相手の商売で広場に小屋が建ち始めたな。今年は噂を聞いた近隣の村からもきてると、村長が言ってたよ」


 金の動くところに人あり。それが経済であり人の摂理ってもんさ。


「そうか。なら、今年は賑やかになりそうだな」


 今日はゆっくり──は、できねそうもねーが、オレも明日から広場に店を建てるとしますかね。

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