第291話 帰宅

 村の帰路は順調だった。


 陸から二十キロほど離れ、商船の航路でもなく、潜水艦のレーダーで全方位を見ている、らしい。


 もう船でイイんじゃね? とか思わなくもないが、人それぞれのロマン。興味ねーヤツが口出すことじゃねー。


「ベーさん、あの、ちょっと良いですか?」


 することもないなので正面モニターに映る光景を、ぼんやりと眺めていると、斜め上にいるタケルが声をかけてきた。


「うん。なんだ?」


 ここは補助席であり、戦闘に邪魔にならない位置にあるので船長席に座るタケルは角度的に見えないので声だけで応えた。


「今後のことで相談したいんです」


「別にお前の好きなように動けばイイだろう。別にどこかの国に所属してる訳じゃねーし、補給なら港に帰ってくればイイんだからよ」


 国の庇護はないが、オレやハルヤール将軍、エリナが庇護している。好きな場所に好きなときに行けばイイ。オレは自分の自由を認めると同時に他人の自由も認めている。縛る気はねーぞ、オレは。


「それに、そのためのカーチェだろう。カーチェと相談しろよ。サポートはしてやっからよ」


 家族となったからにはタケルのやりたいことには全力で応援する。家族至上主義なオレの絶対ルールだ。


「えーと、そのことなんですが」


 と、そのカーチェがオレの前に現れた。ちなみに副長席は船長席の横な。


「情けない話、わたしには潜水艦の知識がない上に、海の知識もありません。ましてや乗組員が足りてない状態です。これでは近くの海にしか行けません。ですからベーの知恵を借りようと思ったわけです」


 あー、確かに言われて見れば好きにしろは無謀だよな。


 艦橋にくるまで会ったのはメルヘンズだけ。とてもじゃねーがファンタジーな海を進むには不安どころか恐怖しかねーわな。


 真っ先に料理人を集めようと思ったのもそのためだし、バリアルの街で人材確保に奔走したんだもんな。


「まだ時期尚早ってことか」


 腕を組み、思考する。


 足りないものが多過ぎて思考するまでもない。が、言ったように全力でサポートするのがオレルール。破る訳にはいかねー。


「……そう、だな。まずは人材確保が優先だな。バリアルの街で料理人の卵を二人確保してあるから、二月は料理の修行をして、それから乗組員の分を用意できるのに一月は掛かるか。その間、タケルら、と言うよりタケルの訓練だな。カーチェがいるとは言え、タケルには世界を知る必要がある。だから一月くらい主要なヤツを連れて旅に出てこいや」


 まあ、一月くらいでは大した経験にもならんだろうが、やらないよりはマシだし、少なからず実戦は経験できるだろう。それだけでも意義はあると思う。


「そう、ですね。確かに海を知る前に陸の知恵を身に付けてもらわなければいけませんね」


「あと、最低限の自衛手段も叩き込んでくれ。世の中、物騒だからよ」


 一流の冒険者ならそこそこに鍛えてくれんだろう。厳しいか甘いかはオレは知らねー、だ。


「わかりました。なら、アルザイム国に向かいますか。今、あの国は内戦で大変そうですからね」


 なにやらいきなりハードモード? 


「その辺はカーチェに任せるよ」


 多分、死にはしないだろう。死にそうにはなるのは決定だろうがな……。


「……え、えーと、決定、なんですか……?」


「いろんな意味で決定、だな」


 下手な応援は蛇の生殺しなので、心の中で合掌デス。


「あと、帰ってきたら一月ほど近海で訓練したら東の海へと海賊退治に出るから覚えておけよ」


 東の大陸とは繋がりが欲しいからな、邪魔なものにはご退場願いましょう。


 なんて、いつになるかはわからん未来を想像してたら陽当たり山(裏)が見えてきた。


 たった数日なのに何ヵ月も留守にしてた気分だが、まあ、よくある気のせい。気にするな、だ。


「帰ったら隊商相手の店を用意せんとな」


 我が家での収益の半分以上は隊商相手の商売であり、村の臨時収入のときでもある。もはや行事となっているので今頃から準備が始まるのだ。


 さて。また明日から村人生活の再開だ。

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