第293話 立派な弟たち

「──あ。あんちゃん!」


 外へ出ると、デンコの下の弟……あれ? なんて言ったっけ、こいつ? カ……ブ、はバイクか野菜だな。えーと、あー、いっか。そのうち思い出すだろう。


 とにかく、ちゃんばらしていた弟たちがオレに気がつき、こちらへと駆け寄ってきた。


「あんちゃん、お帰り!」


「トータのあんちゃんお帰りだよ!」


 二人の無邪気な笑顔にこちらも笑顔になる。


 妹には妹の可愛さがあり弟には弟の可愛さがある。前世じゃ一番下だったからわからなかったが、兄ってのはイイもんだぜ。まあ、威厳とか立場とかいろいろ守るものも多いがな……。


「おう、ただいま。なんかあったか?」


「ううん。いつもと同じだった。なあ、ガブ?」


「ああ、毎日剣の稽古してただよ!」


 惜しい! カブじゃなくガブだったよ。なんて心の動揺は顔には出しません。できる兄貴な顔で二人の頭を撫でてやった。


「そうか。そりゃ立派だったな」


「立派? なんもしてないけど?」


 不思議そうに首を傾げるトータとガブ。


「オレやサプルがいねー中、いつものように過ごし、オカンや家を守ったんだ、これを立派と言わずなにを立派と言う。この世で一番スゲーヤツはいつもの日常を守れるヤツだ。そんないつもの日常を守った二人の兄貴として誇らしいよ」


 オレは褒めて育てるタイプ。そして、着実に兄の威厳を築いていくタイプなのである。


 まあ、二人には良くわかってないだろうが、褒められていると言うのはわかっている。ならそれで充分。今は情緒や愛情を知る時間なんだからよ。


「ほら、お土産だ。稽古のあとにでも食え」


 収納鞄から王都で買った果物を渡した。


 トータにも収納鞄や服のポケットに収納結界を施してあるので、露店一つ分の果物でも平気で渡せるのだ。


「ありがとう、あんちゃん!」


「ありがとうだよ!」


 こう喜んでくれると買ってきた甲斐があるってもんだぜ。


「そー言や、オカンは?」


 見える範囲にはいねーようだが?


「おかーちゃんなら隣にいってる。行商人のあんちゃんの嫁さんに料理を教えてんだ」


 料理のことならサプルの出番、となるところだが、料理を知らねーヤツにサプルの域は神の領域だ。初心者は心をおっちまうよ。まずは村人レベルから。それがベストだろーよ。


「そっか。サプルは帰って来たか?」


 エリナのお陰で燃料は湯水のようにあり、オレの結界で燃料タンクは十倍に膨れ上がっている。


 通常飛行距離がいくらだかは知らんが、まあ、大陸間横断も不可能じゃねーだろし、サプルの能力なら造作もねーだろう。が、ファンタジーの世界は魔境ならぬ魔空領域なるものがある。


 空飛ぶ島なんて珍しくもねーし、浮遊石群なんてものまである。なんでサプルにはいったところ(安全空域)しか飛ぶなと厳命してある。


 なんで、王都から帰ってくるのはサプルたちの方が早いのだ。


「ねーちゃんなら帰ってすぐにトアラねーちゃんのところにいった。広場に出す店の用意があるとかで」


 今回は、サプルを中心に山部落の娘衆で食堂を出すとか言ってたっけな。その仕込みかな?


「そっか。なら、昼は勝手に食っとけな。オレは近所を回ってくるからよ」


 意外、と言うか、当然、と言うか、スーパー幼児なトータくんは、サプルに次ぐ料理上手。まだ料理のレパートリーは少ないが、鍋料理なら余裕で店を出せるくらいのレベルだったりするのだ。


「わかった。ガブ。なに食べる?」


「肉! 肉がいいだや!」


 こうして見ると、デンコって結構周りを気にしながらオレの側にいたんだな~と、今更ながらしてデンコを見てなかったことに気がついた。


 ……まったく、オレってヤツはまだまだダメな男だぜ……。


 なんて気にしても今さらだな。今日の失敗を明日に活かせ、だ。


「じゃあ、鳥鍋にするか」


「おお、そりゃイイだなや!」


 家の台所はサプルの聖域なので、トータは自分の台所──陽当たり山のどこかにある秘密基地へと駆けて行った。


「さて。まずはドワーフのおっちゃんのところにいくか」


 大事な息子を預かった者の責任は果たさねーとな。

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