第285話 あんぽんたん人外ども

「おっ、なんか見えた」


 人外センサーどころか五感も劣るオレにはまったく見えねー。


「まっすぐこちらにきてますね」


 マイノのセリフになんか嫌な予感がした。


 ……確かあのジェット機、マッハで飛べたよな……。


 タケルがサプルにマッハがどれほど教えているかも謎だし、サプルが理解しているかも謎だ。そんな嫌な事実を前に呑気にしていられるほどスーパーな妹と弟を持つ兄はやってない。


 視界に入ると同時に空飛ぶ皿を結界で包み込む──と同時にジェット機が三十メートル先を掠めて行った。


 そして起こる衝撃波に波が爆発する。


 結界をしていなければ仮令人外でもただでは済まないだろう。いったいどんだけ出してんだよ、サプルのヤツは……。


「……いったいなんなんだ……?」


「この見えない壁はベーの仕業か?」


「ああ。オレの魔術だ。ワリーな、驚かせて。心臓は止まってねーか?」


 場を和らげるためにジョークでも言ってみたが、なんか倒れているヤツがいた。


「まったく、情けない子です」


 と、いつの間にか親方がそこにいた。えっ!?


 なんて驚いてみたが、人外に常識を求めたら負けだ。あり得ねーことがあり得るから人外なんだからな。


 まあ、ジーゴは親方に任せてオレはゴミのように転がるプリッつあんをつかみ上げ、頭に乗せた。ほんと、なにがしたいかわからんメルヘンさんだぜ。


「あ、また来ましたよ」


「今度はゆっくりだな」


 自分がやらかしたことに気付い……てたら成長したなと思わなくもないが、着水するために減速しただけなんだろうよ……。


「ワリー。だれか波を静めてくんねーか。ちゃんと魔術なり魔法なり通るからよ」


 さすがのサプルとは言え、この荒波に着水なんて不可能だろう。まあ、降りたら降りたでスーパー幼女伝説の一つに埋もれるだけだがな……。


「任せな」


 ガーが声を上げると、なにか魔術的な力が場に満ちると、荒波が徐々に弱くなって行き、二十秒もしないで穏やか……以上に波がなくたった。


「これでいいか?」


「ああ。助かるよ。ありがとな」


 魔術は奥が深きもの。土魔法の才能しかねーオレには理解する必要はありません、だな。


 サプルが操縦するジェット機がオレの肉眼でも捕らえる距離まできて、さらに速度と高度を下げ、着水体勢に入った。


 タケルの潜水艦に搭載されているジェット機は、水面に着水するタイプの飛行機らしく、そんな感じのフォルム(そこは各自の想像力にお任せします)になっている。


 風を読みながら機体を揺らすことなく鏡のような海面に線を書くように着水する。


「……綺麗だな……」


 ジェット機がなんであるか知らねーが、サプルがしたことがどれだけ高度なことかを理解したようで、人外どもが見とれていた。


 ……サプルはいったいどこに向かってるんだろうな……。


 好きなところへ行けとは思うが、この超才能が道を閉ざしているようであんちゃんは心配だよ。


 惰性を利用してピタリと空飛ぶ皿の脇に付けると、防風窓を開けてサプルとモコモコガールが出てきた。


 まあ、親友同士(?)になった二人だからいるだろうとは思ってだが、なんだい、その宇宙世紀的おべべは? ここはファンタジーな世界だぞ。


 なんかモ〇ルスーツから出てきても不思議じゃねー格好ではあるが、モコモコガール、よく着れたな。ヘルメットしてねーのにヘルメットしてるみてーだよ。ぷぷっ。


「あんちゃん、こんなところでなにしてるの?」


 我が妹ながら豪胆と言うか、豪気と言うか、これだけの人外が揃っているのにアウト・オブ・眼中である。サプル、恐ろしい子。


「友達と釣りさ。お前はなにしてんだ? 島はどうした?」


「島はだいたい終わったから片腕のおじちゃんに任せたよ。だからアリザと遊んでたの」


 サプルの背後にあるジェット機の機体に所々ある赤黒い点々は全力で無視しましょう。追求してもイイことはねー。


「そっか。まあ、夢中になって帰る時間を忘れるなよ」


 オレが言っても説得力がねーが、兄として妹が心配だから一言言いたくなるんだよ。


「うん、わかった!」


 まったく、この無邪気さがあんちゃん恐いよ……。


「ん? どうした?」


 なにやらモコモコガールが鼻をクンクンさせている。


「……美味しい匂いがする……」


 と、モコモコガールが声を出した。え、声出せたのっ!?


 いやまあ、モコモコガールと接点が少ねーから聞かなかっただけだろうが、そう言う声してたんだ。って言うか、やけに美声だな。歌でも歌えばヒットすんじゃね?


「そう? なんか食べたの?」


 そこは獣人の嗅覚のようで、サプルには嗅ぎ取れないよーだ。


「ああ。バリエを釣り上げて皆で食ったんだよ」


「バリエ? ああ、あんちゃんが好きな魚か。あれ、生で食べるの好きだもんね」


「ここにいるヤツらにも好評だったぜ。なあ?」


「ああ。旨かったぞ」


「で、こちらの子らは、どちらさまで?」


 おっと。自己紹介してなかったな。


「こいつはサプル。オレの妹だ。こっちはモコモコガール──」


「アリザだよ、あんちゃん」


「だ、そうだ。今、うちで預かっているモコモコダンディ──」


「──シェラダ族だよ」


「……だ、そうです」


「前から思っておったのだが、お前さん、名を覚えるのが苦手なのか?」


「苦手ではない。忘れるだけだ」


「それを苦手って言うんだよ!」


 どや顔で言ったらアーガルに即行で突っ込まれた。すみませんです、ハイ……。


「……あんちゃん、第一印象で名前決めるから……」


 なんか妹からダメ出しされた!


「ほ、ほーら、モコモコガール。バリエだよ~」


 収納鞄から後で食べようとしていたバリエの炙りを出してあげた。


「逃げた」


「逃げたな」


「逃げましたね」


「情けないさね」


「ダメ兄だな」


「根性なしが」


 う、うっせーやい! 兄には守らねばならぬ誇りがあんだよ! このあんぽんたん人外どもが!

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