第284話 身内です

 なんだろう。もうこれ乱獲じゃね? って感じてきた頃、人外さんたちの動きが止まった。


「どーしたん?」


 なにか辺りを警戒する人外さんに尋ねたが、誰も答えてはくれなかった。


 しょうがないんでオレも辺りに目を向けた。が、これと言った変化は見て取れない。


 雲が多少は出てきたが、風は弱いし波も穏やか。オレの考えるな、感じろセンサーにもなにもヒットしない。


 まあ、人外には人外にしか感じられないなにかがあるんだろうと、残りのバリエを時間凍結させていく。


 と、右手、約百メートルくらいのところで爆発が起こり、水柱が立った。


「──な、なんだ、海竜同士のケンカか!?」


 臆病な海竜が多いとは言え、生存競争に晒されている生き物には違いない。種の保存のためにオス同士メスを賭けて戦うこともあるし、巨大サメや大型の肉食魚と戦うこともある、と聞いた(とある漁師談)。


「いや、魔術による攻撃だな」


 と、竜人族のバックスが教えてくれた。


「魔術? 人魚か魚人で戦ってんのか?」


 人魚や魚人からしたら陸側は辺境扱いになるが、まったく立ち寄らねーってことはねー。人同様陸と海の境にしかねーものを採取しにきたり、陸のものを求めたりと、『人魚なんて珍しい』って漁師に思われるくらいにはきたりする(これもとある漁師談)。


「……いや、人魚や魚人の気配でなないな。これは……あいつか?」


「ええ。あの方のようですね」


「あいつか。まったく人騒がせな」


「しかし、なにやってんだ、あいつ? 外に出るどころか海にいるなんて初めてじゃないか?」


 人外さんらにはわかるらしいが、こっちはまだ人の域にいる小動物。説明プリーズです。


「……おい、ジーゴ。あいつなにしてんだ?」


 と、なぜかアーガルがジーゴに振った。だが、そこに見えない壁があるのか、それとも別世界に行ってるのか、まったく反応を示さなかった。


「おい、ジーゴ。ジーゴ!」


 一番近くにいたナッシュが呼びかけるも、やはり反応を示さない。なんでとばかりに襟首をつかんで強制的に振り向かせた。


「……え、あ、ナッシュ、さま……?」


 どこから帰ってきたジーゴが状況がわからず狼狽えている。つーか、ナッシュはジーゴより年上なんだ。見た目は、四十半ばなんだがな。


「ジーゴ、なに惚けてれんだ。しっかりしろ!」


 気づけとばかりにジーゴを平手打ちするナッシュさん。


 ……ナッシュの方が年上なんだろうが、知らないヤツが見たら老人虐待だよな、これ……。


「お、出てきた」


 ガーの言葉に振り向くと、なにか人、らしきものが波立つ海面から出てきた。


「……ん? 親方?」


 に見えた。


「アロードのやつ、なにやってんだ。槍なんか持って?」


「付与魔術の性能試験でしょうかね?」


 あ、そー言やぁ、海に行くとか言ってたっけ。すっかり頭の中から抜けてたわ。


「あー、多分、オレのせいだわ……」


 全員の目がオレに集中する。


「人魚の兵士に武器をやりてーから海の中で使えるものを頼んだんだわ。まさか昨日から海にいるとは思わなかったよ」


 もう職人気質とか匠のなんたらとか超えているよね。完全無欠なバカ野郎だよ。いや、そーゆーの好きだけどさ!


「まあ、あれもバカだからな」


 同意とばかりに全員が頷いた。なんとも呆れた顔してな。


「……放置だな……」


 また同意とばかりに全員が頷く。処置なしとばかりにな。


 んじゃ乱獲の続きでもやるかとばかりに各自の配置に付こうとしたら、また人外さんらが気配を強め辺りに視線を飛ばした。


 ……こんどはなんだって言うんだよ……?


 このメンツなら魔王軍が総攻めしてきてもオレに出番は回ってこねーしな、まあ、喉も乾いたし、マ〇ダムタイムにするか。


 あーコーヒーウメー。


「豪気さね、ベーは」


「このメンツがいてなにを怖がれって言うんだよ?」


 まあ、精神的に恐いものはたくさんあるけどな。


「……なんの音だと思う……?」


 音? まったく聞こえねーが?


「わからん。飛竜やアナバリ鳥の類いではないな」


「と言うか、生き物でこんな音出すものいたか?」


 人外さんらの気配が張り詰め、場が痛いほど静かになる。


 と、どこからか『ゴー』と言う音が聞こえてきた。


「……あー、ワリー。つーか、あれ、身内だわ」


 勘がよくない人でもわかるよね。そんな音を出すものがなんであるかを、よ……。


 徐々に音が大きくなり、こちらに近づいて来る。たぶん、あちらもこちらの、と言うか、オレに気づいたからこちらに向かってくるんだろう。


 タケルからもらった腕時計型の通信機は味方信号を出していると言ってたからな。

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