第282話 ウメ~!
魚群探知機と言う名の人外センサーは、思いの外高性能で、すぐにバリエの群れを発見できた。
バリエの生態を研究しているヤツもいなけりゃ釣るヤツもいないので、回遊魚だとははっきり言えねーし、どこの海にいるかもはっきりしねー。ただ、漁師や船乗りの間でまことしやかに王都の沖合いにいるとだけ流れている魚だ。
まだ謎の生き物だが、たまに浜に揚がったりして人の口に入るから食べられると知られている。まあ、鱗や皮が固いので捌くのは大変だし、焼いて食べるぐらいしか知らねーから本気で捕まえようとはしない。
なんで、海面近いところを游いでいるバリエの群れは、こちらが見えている(かどうかはよー知らん)にも関わらず逃げようとはしない。もちろん、人外さんらは気配を殺しているぜ。この人外さんらが本気になられたら生き物一匹いねー死の海になっちまうからな。
バリエがなにを食うかは知らないので先ほど捕まえたコノカを蒔いてみた。
「お、食ったな」
凄まじい速度で游いでいるので目の前にきたものしか食わないが、餌と認識してるのはわかった。
「釣るのか?」
「まあ、釣りにきたんだ、最初は釣り上げねーとな」
この距離なら結界で簡単に捕まえられるが、釣りは釣ってこそおもしろいものだ。また、漁も醍醐味があっておもしろいものだが、この日がくるだろうと作った竿とリールを使いてーよ。
もちろん、前世のような立派でガジェットなもんじゃねーが、そこは結界でおもしろおかしくいじってますから海竜でも釣り上げは可能だ。
釣り針にコノカをくっつけて海へと投げる。
まさに入れ食い。凄まじい勢いで糸が持っていかれた。
空飛ぶ皿は、若干速度を落としているので糸が持っていかれるのだ。
「やっぱ、スゲー力だぜ!」
まだオレの能力に余裕はあるが、引っ張る力は偉丈夫なオーガにも負けてねーな。
「ご隠居さん、ワリーが速度を徐々に落としてくれや!」
「任せるさね!」
ご隠居さんの巧みな操りで徐々にバリエを疲れさせていき、人が走るくらいの速度になったところで一気に釣り上げた。
バリエの年齢もサイズもわからんが、体長が二メートル以上あれば十分大物であろう。前にオレが捕まえたのは一メートル半くらいだったしな。
「おぉ、なかなかのもんじゃねか!」
「活きがいいな!」
獅子の獣人のアーガルとピンク髪の王族のガーが歓喜の声を上げた。
「バリエは前に浜に上がったのを見たが、やはり釣りたてのバリエは迫力があるもんだな」
「確かにな。だが、固そうだな。これは捌けるものなのか?」
竜人族のバックスが疑問顔(考えるな、感じろ的にそう思っただけです。竜の表情なんてわかんねーよ)でオレを見た。
「なら、ちょっと味見してみるか?」
「お、それは良いな。ベーの話を聞いて食ってみたかったんだよな」
「おう。そんなに旨いなら食ってみたいぜ」
と、皆が期待の目を見せるので捌くことにした。
空飛ぶ皿はなかなかのガジェットでシンプルだが、バリエを捌くに丁度イイ台が浮かび上がってきた。
まあ、突っ込んでもしょうがねーのでありがとさんと感謝してバリエのエラ辺りに結界を纏わせ一気に尾のほうへとずらして鱗を排除する。
捌きの知識も腕もねーので結界で包み込み、頭を下にして空中に浮かべて頭を両断。血をある程度流してはらわたを取り出す。
ちゃんと結界で覆っているので床(?)は汚れてはねーが、バリエは血塗れなので結界で真水だけを掬い取り、キレイに洗う。
台に乗せ、結界刀で三枚におろした。
あとはジーゴの包丁で適当に切り、収納鞄から皿を出して刺身として盛る。
もう一つの皿にも盛るが、こちらは炙り用。やっぱ、最初は炙りでいかねーとな。
結界で竃と網を創り、炭を出して火を着ける。イイ感じになるまで皿やバージャン、ドレッシング、あとは良く冷えたエール樽を四樽出した。
小皿にバージャンをたらし、ハシ……は無理そうだからトングを出して各自に渡した。
「変わったものだな?」
「まあ、フォークじゃ味気ねーからな。ほれ、食ってみな。バージャンは少しつけるのがイイぞ」
バージャン派に勧めると、興味津々に、なんの躊躇いもなく口にした。
「……旨いな」
「ああ、バリエがこんなに旨いとは……」
「旨いさね!」
「色が違うところで味が違うから試してみな」
次にドレッシング派のためのものを作ってやり渡した。
「ほ~。なかなかですね」
「ええ。今まで口にしたことがない味です」
どうやら人外さんらの口に合ったようだ。
「ほれ、ジーゴもプリッつあんも食ってみな」
影の薄い二人に渡して自分用の炙りを作る。
熱された網にバリエを乗せ、片面四秒。もう片面三秒。何度か試して見つけた炙りの黄金率だ。
「やっぱ、バリエはウメ~!」
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