第281話 異論はねー
意外と言うか当然と言うか、空飛ぶ皿は快適に海の上を進んでいた。
どんな法則で飛んでんの? とは今更だし、突っ込んでもしょうがないが、外からはどんな風に見えてんだろうな?
なんてどうでもイイことを考えてたら漁船(って言うか感じ的には舟だな)と擦れ違ったのだが、これと言った反応はなかった。
見慣れてる、って感じではなかった。あれは擦れ違ったことすらわからなかったから反応しなかったのだ。
「外からは見えねーようになってんだな」
「見られたら大騒ぎになるからな」
そりゃそーだと納得して空飛ぶ皿のことは頭から外した。
「止めてください」
漁港から二、三キロ進むと、吸血鬼のマイノが声を上げた。
それに応えて空飛ぶ皿が止まった。着いたのか?
「この下に魚の群れがいますね」
皿から身を乗り出し海面を見るが、キラキラと輝く海面しか見て取れなかった。
まあ、人外さんは誰しも高性能センサーを持っている。魚群探知機に似たもんを持っていると理解しておこう。
「なにが釣れんだ?」
そう吸血鬼のマイノに聞いて見る。
「この感じからしてコノカですね」
この世界のイワシ的存在でオイル漬けや撒き餌にして大物を釣る小魚として有名だ。
「釣んのか?」
まあ、なにを釣るか決めてねーし、人それぞれの魚の好みはある。釣るんなら否はねーが、このメンツにはちっと物足りねーんじゃねぇの?
「いや、撒き餌にすんだよ。やっぱ釣りは大物狙いだろう!」
見た目は気品と威厳を醸し出すピンク髪の王族、ガーさん。中身は結構ワイルドな人だった。
「大物って、この辺だとバリエか?」
「ほぉ。バリエを知っているのか。さすがだな。だが、あの魚を釣るのは大変ではないか?」
ナイスミドルなナッシュ。アレを釣るのは難しいだろう。
「いや、さすがに潜って捕まえるよ。あんな海竜ですら突き殺すような魚はよ」
味はマグロに近いが、生態は弾丸だ。時速にしたら八十キロくらいのスピードで泳ぎ、曲がるのが不得意。それで生きてきたから顔は鋭く尖り、鉄並みに硬い。なんで目の前の障害物は貫くと言う迷惑な魚なのだ。
「バリエを潜って捕まえる、か。まさかアーガルみたいなのがいるとはな。世の中は広いわ!」
竜人族のバックスの感想に皆が爆笑した。
なんか脳筋と言われた気がするが、潜水服のような結界を纏い、結界の網で捕まえ、五トンのものを持っても平気な能力で持ち上げる。うん? 脳筋か?
「まあ、ベーならやりそうさね。と言うか、バリエを食べるのか?」
「ああ。生でよし。炙ってよし。バージャンつけて食うのも塩をかけて食うのも最高だ。オレとしては軽く炙って塩で食うのが好きだな。アレはクセになるぜ……」
天然で身が締まってて脂が乗ってる。前世じゃ今日はちょっと豪勢にと、見切り品のマグロの千倍は旨い。できることなら毎日食いてーぜ。
「バージャンとは?」
「東の大陸の調味料さ。あれは万能調味料だぜ」
収納鞄からバージャンが入った瓶を取り出した。
昨日の帰り、チャンターさんのところ行ってもらってきたのだ。まあ、食糧としてだったので瓶二つしかもらえなかったがな。
「なんか臭うな」
「そうか結構旨そうな匂いだがな」
「わたしも、ちょっと苦手ですね」
「わしは好きな匂いさね」
「余も好きだな。食欲を誘う匂いだ」
「わたしもそう嫌いな臭いではないな」
まあ、前世のような醤油じゃねーし、この辺にはねーにおいだ。好みはわかれるのはしょうがねーさ。
「まあ、そう言うヤツは塩かナルの油にペオを混ぜたドレ──じゃなくて調味料がイイかもな」
生を食わないサプルだが、バリエをツナにしたら好物になり、それに合うドレッシングを作り出した。オレ的には酸味があって好みではないが、マリネにはしたら合う味だな。
「あ、これは好きな匂いだな」
「ああ。いい匂いだ!」
バージャン苦手派には好評のようだ。
「こうなるとバリエを食いたくなってきたさね」
「だな」
なにやら見解が一致したように全員(ジーゴは借りてきた猫状態です)が頷いた。
「バリエを釣るさね」
まったくもって異論はねー。
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