第280話 安全第一

「おう。待たせたかい?」


 動かなくなったジーゴを引っ張りながらこちらに気付いたご隠居さんに声を掛けた。


「全然さね」


 人外さんの視線が全てオレに向けられるが、不思議と普通に受け止めれた。まあ、ジーゴの硬直から言って凄まじいまでのプレッシャーなのだろうが、世の中股間がキュッとなることは多くある。それに比べたらなにほどでもねーわ。


「そうかい。それはなにより。このメンツで待たせちゃ申し訳ねーからな」


 さすがに前世の年齢を含めても目の前の人外さんの方が年上。生意気なクソガキでも年長者には敬意をはらうんだぜ。


「ふふ。さすがベーだな。怯みもしないか」


「まあ、ご隠居さんが一番威圧があったからな。もう慣れたよ」


 この中でご隠居さんが地味で影が薄いが、オレの考えるな、感じろがご隠居さんを一番恐ろしいと言っていた。


 初めてご隠居さんを見たとき、バケモノと魂が理解した。勝てないと理屈抜きに悟った。


 ここにいる人外さんもさぞかし強いだろうし、存在感がハンパないが、ご隠居さんと比べたら天と地ほどの差がある。ジーゴのセリフじゃないが、実は魔王なんだと言われても素直に信じれるだろうな。


「さすがガエラが見込んだガキだな。胆が太い」


 獅子の獣人がオレの頭をもぐ勢いでグリグリしてきた。普通の人なら普通に死ぬよ、それ……。


「ほ~。アーガルの力にも耐えるか。なにかを極めてる感じはしないんだがな。本当にただの村人なのか、ラスニト?」


 ナイスミドルさんが感心したようにご隠居さんを見た。


「正真正銘、と言うのもおかしが、ベーは村人さね」


 さすがご隠居さん。よくわかっていらっしゃる。


「まあ、ただの村人ではない、とつくがね」


 否定はしないが、あんたらに比べたら遥かに普通だよ。


「その辺はそれぞれの主観に任せるよ。ご隠居さんから聞いてるとは思うが、オレはベー。まあ、ヴィベルファクフィニーって長いんでベーでイイよ」


 なにはともあれ自己紹介はしておかんとな。


「なら、おれからだ。おれはアーガルだ」


 と、獅子の獣人さん。


「わたしは、ナッシュだ」


 と、ナイスミドルさん。


「わしは、ガーだ」


 と、ピンク髪の王族さん。


「マイノです」


 と、吸血鬼さん。


「余はバックスだ」


 と、竜人族さん。


 なんともあっさりした自己紹介だが、オレにも人外さんにもそれで十分であり、ここでは過去も肩書きも無用だ。お互いが誰かさえわかればイイんだからな。


「あ、ベー。たぶん、いろいろわしの呼び名は変わるが、まあ、気にせんでくれ。ベーはベーの言いたいように呼んでくれさね」


「あいよ」


 オレの中ではご隠居さんで固定されている。もう他の名で呼んでくれと言われてもマジ却下です。


「あ、これ、プリッつあん。よろしくな」


 結界で隠していたプリッつあんを出して人外さんに紹介した。


 人外さんらにメルヘンは普通なのか、これと言った反応はない。プリッつあんはビビりまくりのようですが。まあ、害はないので放置します。


 と言うか、なぜかオレの頭の上が気に入ったメルヘンさん。起きたらもう頭の上にしがみついてるんです。なぜに?


「そんで、船は?」


 人外さんらの後ろは海だが、船どころか流木すら浮いてないが?


「あ、もうちょい待つさね」


 と言うので待つことしばし。沖から何かくるのが見えた。


「……え? UFO……?」


 まさに皿のような未確認飛行物体がこちらに向かってきた。


「……アレは?」


「空飛ぶ皿さね」


 なんだろう。それは突っ込めってことか? だが、見たまんま皿が飛んでるし……ボケだったら高度過ぎてオレには突っ込めねーよ。


 時速百キロは出ていた空飛ぶ皿がスピードを緩め、ゆっくりと漁港に接岸した。


 まあ、オレの空飛ぶ結界も説明しろと言われても説明に困るもの。なんでオレも説明は求めない。船釣り(?)できれば問題ナッシングだ。


「見た目はアレだが、安定はしてるから心配いらんさね」


 もとより人外さんのすることに心配も不安もねー。まさに大船に乗るような気持ちで空飛ぶ皿に乗り込んだ。


「陶器、ってわけじゃねーな」


 見た目は陶器っぽいが、蹴った感じが木っぽかった。


「ああ。エニシと言う木で作ったもんさね」


 エニシがなんなのかまったくわからんが、記憶には入れておこう。今はあるべき姿を受け入れるので精一杯だわ。


「揺れんとは思うが、なんかあると困るんで中央に集まってしゃがんでくれさね」


 まあ、なにが起こるのがわからないのがファンタジーの海。安全第一でいきましょう。


「じゃあ、いくさね」


 さて。どんな釣りになることやら。

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