第272話 幸あれ
階段を上がってくると、壁が勝手に開いた。え? 自動ドアなの?
なんて驚きはあったが、人外が住む場所でいちいち態度に出してたら疲れるだけ。ハイテク住宅だとスルーしろだ。
カウンターには恰幅の良いおばちゃんがいた。つーか、こんな殺風景なところで飽きないのか? 独房部屋だろう、こんなのはよ。
「おや。もう帰りかい?」
「いや、親方が消えっちまったからな、ジーゴに武器を選んでもらおうと思ってな」
「親方?」
首を傾げる恰幅のよいおばちゃん。
「下にいた人外さんだよ。そう呼んでくれと言われたんだよ」
恰幅の良いおばちゃんの中ではあり得ないことだったらしく、目を大きくして驚いていた。
「……し、師匠、そんなことを……?」
おや、恰幅のよいおばちゃんもなんかの職人なんだ。店番かと思ってたわ。
「ああ。長年生きて名前を忘れたからそう呼んでくれだとよ」
どんだけ生きてんだよって話だが、人外さんに突っ込んでもしょいがねーしな、『あ、そう』で納得しとけだ。
「……あんたは、驚かないんだね……?」
「世の中不思議がいっぱい。いちいち驚いてらんねーよ。ましてや人外なんて珍しくもねー。まだ黒竜の方が珍妙だわ」
なんか、それもどうなの? な発言だが、なんでもありなファンタジーな今生だ、もうなにが出てきても驚きはしねーよ。いやまあ、ゲテモノだったら驚くとは思うけどね。
「……どんな人生送ってんだい、あんたは……?」
「出会いに満ちた人生だよ」
もうそうとしか言いようがない人生だわ。
「それより、ジーゴは?」
「奥で仕事してるよ」
「さすが人外の店だな。設備が充実してるぜ。おばあちゃんはなんの職人なんだ?」
おばあちゃんの手も職人の手だ。まあ、なんのかは知らんがな。
「あたしかい? あたしは師匠の弟子さ。まあ、一番下なんで店番が主だけどね」
「下ってことは、親方の弟子は何人もいんのかい?」
「ああ。あたしで四十六番目の弟子だからね、四十五人は上にいるはずだよ。もっとも、四十四番目と四十五番目のジーゴしか知らないけどね」
なかなか壮大な師弟関係だな。本にしたら百冊は超えんじゃねーの? ちょっと読んでみてーわ。
「親方は、結構面倒見イイんだな」
自分の欲求が一番。弟子とかメンドクセーとか言いそうな感じなんだがな。
「ん~。そんなに面倒見は良くないよ。ただ、環境は惜しみなく与えてくれるね。あたしはスラム街の生まれだったけど、やる気を見せたら字も魔術も学ばせてくれたよ。まあ、兄弟子が、だけど。でも、お陰でぶくぶく太れるくらいに充実した生き方を与えてくれくれたんだから、あたしには大切な人さ」
なるほど。ご隠居さんや魔女さん、親方がこの国を大切にするはずだ。ここが故郷になったんだからな。
「イイ出会いをしたんだな」
「……まったく、師匠が気に入るわけだ。その年代で出せる顔じゃないよ、それ」
自分がどんな顔をしているかはわからんが、親方と同じ気持ちならよくわかる。
ここは故郷であり終の棲家でもある。そしてなにより、愛する者たちの居場所でもある。大切にしたい気持ち、守りたい気持ち、嬉しい気持ち、本当によくわかる。
「……家族、なんだな……」
得られるようで得られなかった幸せ。それをやっと手に入れたのだ、失いたくないのは当然だろう。
人とは違うものになっても心は人以上のものにはなれない。それが良いのか悪いのかはわからんが、オレは全力で肯定するよ。
その形に幸あれだ。
温泉番付で東の横綱になってる宮城県鳴子町に出張。二種類の温泉がある宿なので温泉三昧。したらダルくてしょいがない。もう習慣になっているので書かないのもムズムズする。なのでちょっとだけ。いつもだろうの突っ込みはノーサンキューです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます