第271話 職人の矜持
親方に勧められ、工房に上がらしてもらった。
工房と言っても炉や火が燃えている訳ではなく、なにか理科室の実験室を連想させる造りとなっていた。
「不思議な工房だな」
「ふふ。まあ、わたしの創る武具は魔術──そうですね、付与魔術と言いましょうか、形あるものに力を与える職人です」
なるほど。確かに鍛冶屋のような造りにはならんわな。
「武具はジーゴが造ってんのかい?」
手が職人の手だったが。
「はい。いい腕の鍛冶職人ですよ。まあ、少々偏屈なところはありますがね」
苦笑する親方。
ふ~ん。人外さんって結構表情豊かだよな。ご隠居さんや魔女さんもそうだったしよ。イイ人生を送ってんだな……。
「じゃあ、ここにあるのはジーゴが?」
素人目にも見事な武具が揃っているのがわかる。
壁に飾られた剣などファンタジーゲームにでも出てきそうなデザインと存在感である。まあ、誰が使うんだと首を傾げるけどな。
「魔剣、かい?」
「わかるのかい?」
魔力はなんも感じねーが、あのデザインで普通の剣とか趣味全開にもほどがあんだろう。中学生の妄想と同じレベルだわ。
「なんとなくな」
そうとしか言いようがねーよ。
「一時期、魔剣創りに嵌まりましてね、思いのままにと言いましょうか、考えなしと言いましょうか、出来たものは誰も使えない欠陥品。捨てるにも捨てられずに壁の花となっているのですよ」
「ふふ。よくあるマヌケ話だな」
オレも思いのままに創って収納鞄の肥やしとなってるものが多々ある。結界で次元を強制的に裂いて衝撃を生ませる爆弾とか、ラーシュに二個だけ渡して残りは解体したよ。
「返す言葉もありません」
人も人外も根は同じ。バカ野郎は何年生きようがバカ野郎でしかない。転生してもバカ野郎が治ってねーんだからな。
「売ってくれるものはあんのかい?」
「ええ。より良いものをより安く。お客さまにあったものを提供するのがアロード武具店ですからね」
なにやらいき成り俗っぽくなった。
「……本気で商売してんだ……」
「当然です。職人としての矜持はなくしてませんからね」
なんなんだろうね? とは思わなくもないが、そこは人(外)それぞれ。いろんな主義主張があるのだろう。ここは軽く流しましょうだ。
「なら、魔剣を幾つかと良品の剣や槍、防具を売ってくれるか?」
「もちろんです。なにかご希望はありますか?」
「そうだな。A級の冒険者が使えそうなものを二、三。あとは良品なのを適当に見繕ってくれや」
そこはプロに任せるわ。
「ベーさんが使うので?」
「いや、知り合いが隣でよろず屋をやっててな、武具を幾つか置きたいから買ってきてくれと頼まれたんだよ。結構、実力者がくんでな」
ザンバリーのおっちゃん以外にもA級の冒険者はやってくる。なにやら知る人ぞ知る場所になってっからな、うちは。
「あ、海の中でも使えるものはあっかい? 最近、人魚からも頼まれててよ、あるんなら買いたいんだか?」
オレのは結界で包んで強化したもの。ただ、丈夫な剣でしかねー。まあ、それでも十分らしいんだが、海の中は凶悪のが多いらしく、魔術的魔法的なにかが欲しいんだとさ。
「人魚、ですか。考えたこともありませんでしたが、なにやら職人としての好奇心が疼きますね」
親方もこちら側の人(外)らしく、思いのままに想像の翼を広げていた。
邪魔をするのも無粋なので帰ってくるまでマ〇ダムタイム。あーコーヒーウメー。
しばらくして親方が無事ご帰還。お帰んなさい。
「申し訳ありません。わたしの悪い癖が出てしまいました」
「構わんよ。オレもそうだからよ。で、人魚用のとか、大丈夫かい?」
「海専用、ではありませんが、幾つかならありますね。しかし、防具はどうなのです? 海の中では動き難いと思うのですが?」
「そこは人魚の魔法でなんとかなるし、オレもなんとかできるしな。つーか、付与魔術で水の抵抗をなくすようにはできねーのかい?」
前世の水着ですらそう言う機能があったんだ、魔術的魔法的になんとかできると思うんだかな。
「水の抵抗、ですか。なるほど……」
また出掛けてしまったのでコーヒーお代わり──と思ったら直ぐに帰ってきた。
「申し訳ありません。武器はジーゴに聞いてください。ちょっと海にいってきます──」
と言うと消えてしまった。
まあ、同類なので不快感はない。しょうがねーなと上に上がった。
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