第268話 金色夜叉(こんじきやしゃ)
「いや、それにしてもまさか腕を買われるとは思わなかったよ」
オレも買えるとは思わなかった。いや、本気で欲しいとは思ったが、こんなにも簡単に承諾されるとは思わなかったぜ。
「ふふ。こちらはイイ買い物させてもらったよ」
「そう言ってもらえると買われた甲斐があるってものだよ」
金にものを言わせてとか、余り気にしないようで、自分の腕を認めてくれたことの方が嬉しいようで、満面の笑みを見せていた。
「それで、わたしは直ぐにお持ち帰りかい?」
なんか言い方がイヤらしいが、まあ、気持ち的にはお持ち帰りしたいけど、迎える準備ができてない。それにだ。
「そうしたいのは山々だが、店の処分とかやらなくてイイのか?」
自分のものにしろ借家にしろ、処分するのに何日かは掛かるだろうし、隣近所や知り合いへと挨拶とかいろいろあるだろうよ。
「あー、そうだね。忘れてたよ。それに、まだ注文が残ってたっけ」
「まあ、それを済ませてから構わんよ。工房とか家とか作らんとならんし、最低でも一月は掛かるな」
いや、七日もあれば余裕だが、帰ったら隊商相手の商売が待っているし、オカンとザンバリーのおっちゃんの結婚やら新居造りとかやることいっぱい。あ、エリナの方もやらなくちゃなんねーか。一月でも怪しいが、サリネにはいろいろ作って欲しいからオレ、ガンバレだ。
「工房や家を一月かい。ベーは飛び抜けてるな」
「もしかしたら伸びるかもしれんが、工房だけは真っ先に創るよ。ワリーがそうなったらそこで寝起きしてくれ。仮眠できるところは造るからよ」
あくまでも万が一であって完成が目標だ。
「アハハ。そう急がなくても構わないよ。わたしはどこでも眠れるし、工房で寝るなんていつものことさ。家なんて簡単でいいよ」
わかるわ~、その気持ち。オレも工房で寝泊まりとかしてーが、家族を守る一家の長。そうもできないのだ。だが、ザンバリーのおっちゃんがきたら家長の座は慎んでお譲りします。オレは趣味に生きるだ!
「なら、工房に力を入れるよ。とは言ってもサリネの好みや拘りがあるだろうから注文を聞いて、まずは創ってみるよ。あとは使ってみて、だな」
「まあ、その辺もゆっくりで構わんさ。仕事に割かれる時間も減るだろし、その時間を工房改造に使えるからね。あ、どうせなら一から作りたいかも? でも、材料が足らないか?」
「ハハ。夢が膨らんでなによりだな。あ、そう言やぁ、材料って王都で手にはいんのかい?」
まあ、木の家があるんだろうから材木屋があっても不思議じゃねーが、どこにあるのかは耳にしたことねーな?
「街の外れに材木の競り市があってね、そこで手に入れるのさ。結構いろいろ入ってくるから重宝してるよ」
へー。そんなところがあったんだ。王都、想像以上の広さにびっくりだよ。
「そうか。なら引っ越す前に買い占めてた方がイイかもな。なあ、サリネ。こんくらいの木箱ねーかな?」
縦横五十センチくらいの箱を手で示した。
「ああ。あるよ。ちょっと待っててくれ」
奥に下がり、しばらくして長方形の木箱を持ってきた。それ、荷物入れにイイかも。今度大量に作ってもらおう。
「これ、魔術的にいじっても大丈夫か?」
「ベーは魔術も使えるのか。そう言えばあのこん棒も服から出していたな。まったく、呆れるくらいの多趣味だな。まあ、好きにして構わないよ」
と言うので収納結界を施した。
「この箱に収納魔術を施した。容量的にはこの店と同じくらいある。あと金な。これでしばらくの材木を買い占めてくれ。で、これには引っ越しの荷物。こっちは店にあるものを。あ、これと同じのがあるなら何個か収納魔術を施すが?」
金や収納鞄をサリネに渡しながら尋ねた。
「なら、そうしてもらおうかな。いろいろと荷物が多くてね」
「あいよ」
持ってきた木箱八箱に収納結界を施し、番号をつけた。
「助かるよ。ありがとう」
「どう致しまして。一月でなんとかするからそれまで好きなように過ごしててくれや。もし、金が足りなくなったらバーボンド・バジバドルに都合してもらってくれ。ベーに誘われてボブラ村にいくと言えば出してくれるからよ」
まあ、会長さんならそれでわかってくれんだろう。ボケてなけりゃあな。
「アハハ。大商人と知り合いか。ベーは顔が広そうだな」
「まーな。人は力。繋がりは財産。貯めろや貯めろ。懐一杯に、さ」
どんな能力があろうと人の世で最後にものを言うのは人の力。それがオレの第四の能力だ。
「おっと。大事なことを忘れっとこだった。飾ってあるこん棒をもらえるか?」
「ふふ。余程気に入ったようだな」
「ああ。一目惚れさ」
ウインドショーケースからこん棒を持ってきてもらい、この手に握った。
見て感じたように手触りがイイ。まるでオレのために生まれてきたかのようだぜ。
何度か振ってみて具合や重心、風切り音を確かめる。
「まったくもって素晴らしいぜ」
「それは良かった。だが、意匠だけで強度はないに等しいぞ」
「問題ナッシング」
結界で包み込み、折れぬ! 砕けぬ! 欠けもせぬ! を具現化した。
「フフ。これでお前は最強無敵のこん棒……そうだな、名を付けるのもイイかもな」
聖剣も魔剣も神剣もある。妖刀(木刀)はオーク撲殺でご臨終してしまったので永久欠番になった。他になになに剣は思い浮かばないんで名前を付けよう。
「そうだな……うん。
特に意味はありませぬ。考えるな、感じろ的なものデス。
「よろしくな、相棒」
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