第266話 オレの勘が言っている
皆が仕事に出かけたあと、オレは村人の服から旅人の服に着替え、腰に小剣を。腰にはナイフを。そして薄汚れた箱型の鞄を背負った。
なぜに? との問いに答えましょう。たんにTPOです。
今さら? って突っ込みはノーサンキューです。
と言うのは冗談で、なにやら外で待ち伏せされているから変装したまでです。
カーチェの弁では貴族の侍女や侍従だろうのこと。昨日のオシャレアイテムのことで目を付けられたようだ。
貴族なんぼのもんじゃい! 権力でくんならこっちも権力で相手してやんよ! とかなら楽なのだが、この国の貴族は礼儀をわきまえたヤツらが多い上に村人相手に平気で頭を下げやがるのだ。
いくら嫌なことはしねー主義でも礼儀正しくくる相手を無下にできるほどゲスじゃねー。気が向くまでお待ちしますとか言う相手の前を素通りできる勇気はねーよ。まあ、そこは透明結界で失礼しますで通りすぎるが、街中でまで透明にしている訳にはいかんし、買い物を楽しめねー。なんで変装すんだよ。
だったら相手してやれよと言われるが、貴族のお嬢さま相手になにをしゃべれと言う。オシャレ話なんてできねーわ。ハイ、オレには無理です。ムリゲーです。ドロンさせていただきます。
……ったく。オシャレアイテムなんて売るんじゃなかったぜ。まるっと会長さんにお願いしますだな……。
持つべきものは大商人のお友達。頑張って~!
するっと倉庫から脱出。武器屋通りへと向かいましたとさ。
と、その前に貸倉庫の事務所だ。チャンターさんのこと言っておかんとな。
てなことで来てみたら、チャンターさんがもう来てた。早いことで。
「もう話したのかい?」
「おう。時間は有効に使わないとな」
まさに時は金なり。商人でござるな。アッパレです!
「まあ、そう言う訳なんで倉庫は勝手に入ってくれてイイからよ。よろしくなおっちゃん」
あ、そう言えば、なんて名前だったっけ? ダーじゃなくてバーでもなくて……。
「バーザです」
おっと。今回はニアピンだぜ! じゃなくてよくわかったな、このおっちゃん。侮れぬ……。
「あ、ああ。そうそう、バーザさんね。んじゃ、そう言うことで、お邪魔さま~」
華麗に事務所からフェードアウトする。はずかちぃー!
たったたーと駆け出し、旅人な感じで人混みに紛れた。あくまでもオレの主観で。旅人とかよー知らんがな!
と、いつものように武器屋通りの場所がわかりません。なんでそこら辺にある店屋へとお邪魔します。
「いらっしゃい!」
どうやら日用雑貨屋のようで生活必需品類がところせましと置かれていた。
「なにか入り用かい?」
「おう。金貨一枚で買えるだけ買わしてくれ」
なんて言ったらびっくりするおっちゃん。ま、当然だよね。いや、マジで買うけどさ。
金貨一枚カウンターに置き、ガキんちょどもが使いそうなものを選んでいく。その途中で武器屋通りの場所を聞いた。
「大量大量。んじゃ、どーもな」
ちょっとすっきりした雑貨屋を出て聞いた武器屋通りへと向かった。
近づくにつれ、当然と言うべきか冒険者の姿が多くなってくる。
「ふ~ん。冒険者って結構いんだな」
冒険者ギルドには行ったが、冒険者自体はそれほど見なかったし、冒険者自体にそれほど興味がないので気にもしなかったよ。
……まさにファンタジーな光景だな……。
いろいろファンタジーな光景を見てきたけど、こう言うのは初めて。ちょっと感動かな。
行き来する冒険者らを眺めていると、視界の隅になにかを捉えた。
いや、見えたのは武器屋なのだが、その店のショーウインド(的なもの)に一振りの聖剣(いや、こん棒なんですけどね)が飾られていた。
「……イイな、これ……」
普通のこん棒とは違い、バットのようにスタイリッシュでいて重圧な感じを纏わせ、グリップになにか枝を模様した柄が彫られていた。
この感情を言葉にするなら『惚れた』が一番近いだろうか。飾られたこん棒から目が離せなかった。
余程貧しい村でなければ村人が自衛のためには剣や槍を持つことあるし、一家に一つはあるのがこの時代の常識だ。あ、うちの村は別ね。
オレに3つの能力があるとは言え、無手ってのも様にならんし、威嚇にもならんから武器を持つようにしたのだが、どうもオレには剣術や槍術の才能がまったくないみたいで、バンたちにも勝てなかった。
まあ、村人として生きるオレにはそんな才能なくてもどうと言うことはないのだが、武器は必要だといろいろ使ってみたが、しっくりくるものはなかった。唯一、投げ技が良かったくらいだ。
前世では少年野球に身を捧げてきたので投げるのは得意だったし、打つのも走るのも人一倍上手かった。自慢ですけど、エースだったんだぜ。まあ、中学に上がったら映画研究会に入りましたけどね!
で、思ったわけ。武器、バットでイイんじゃね? と。
で、使ってみたらしっくりしちゃったわけよ。
まあ、そうは言っても3つの能力が一番扱いやすいので聖剣(釘バット)や魔剣(普通のバット)、神剣(鉄のバット)は強敵が現れたときか威嚇するときにしか出さんがな。
「値段、書いてねーな」
欲しいものには幾らでも金を出す、と言う性格ではないが、売ってくれんなら幾らでも出す性格なのでまずは聞いてからだ。
武器屋の名は、カルニーグの店。可もなく不可もない、一般的な店構えだが、どうやら木製品の武器を売る店のようだ。
オレの勘が言っている。この店の主は、趣味人(同類)だと。
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