第265話 テメーの人生テメーで決めろ

 朝、いつものように目覚めたオレは、習慣を済ませてから隣の倉庫へと向かった。とは言っても屋台の準備ではない。つーか、今日は屋台はやらん。昨日のでお腹いっぱいです! 気が向くまで中止です! なんで今日は武器屋に行きます。


 武器の購入はタケルとカーチェに任せたのだが、予定外のことがあってまだ買ってないってことだからな。


 アブリクト島の方もまだ時間が掛かるようだし、オレも武器屋には用があったので、気分転換のためにいくことにしたのだ。


「……我ながら剣やら槍やらいっぱい作ったもんだな……」


 武器庫としている収納鞄からなに入れたっけかなと、中身を出してみたら『戦争すんの?』ってなくらい出てきた。


 まあ、七歳くらいの頃作ったもんだからそんな大したできではないが、それなりには威力があると自負している。立派な武器と言っても過言ではないだろうよ。


「少し処分するか」


 鉄に戻すのもイイのだが、せっかく作ったものを戻すのもクリエイターとしての矜持が邪魔をする。これが土魔法で創ったならそれほどではないんだが、鉄を熱し、打ち、そして研いだもの。なかなか熱いものを込めている。それをなしにするのは勇気がいるもんだぜ。


 もっとも、売れるかどうかは武器屋にいってみないとわからんがな。


「問題は、このナイフだな……」


 まぁ、ナイフと言ってもそんな大きいものではなく、雑用ナイフ──枝を切ったり削ったり、ときにはフォークにしたりスプーンにしたりと、ド田舎じゃ必需品で、老若男女誰でも一つは所持しているものなのだ。


 刃渡り十センチくらいで、柄は木。鞘も木とそれほど高価なものじゃあねー。村の鍛冶屋でも銅貨二枚で売っているものだ。


 ……練習用にと作ってはみたものの、さすがに三百はやりすぎだな……。


 村ならともかく、街で雑用ナイフなんてそれほど使い道がねー。せいぜいが気休め程度の護身用ぐらいか?


「……護身用、ね……」


 ふっと、初めてトータにナイフを渡したときのことを思い出してしまった。


 ……喜んでいたっけな~……。


「やるか。ガキんちょどもに」


 前世なら子供らにナイフなどけしからんと言われそうだが、この時代なら誰も文句は言ったりはしないだろう。自分の命は自分で守れな時代である。剣を持つことは罪にはならないのだ。まあ、剣や槍は高いから持たない人が多いけどな。


「ま、女子にもやったし、男子にやらないのも不公平だしな」


 幸い、かどうかは知らんが、男子にはベルトを配り、小物入れのポーチや鞘をくくりつけておくようになっている。雑用ナイフの鞘も通し穴にヒモを通せばくくれることだろうさ。


 と言うことで雑用ナイフを普通の鞄に入れて隣の倉庫へと戻った。


 皆はとっくに起きており、それぞれ身支度しているところだった。


「男子、ちゅ~も~く!」


 オレの呼び声になんぞやとばかりに皆がこちらに注目した。


「今日を頑張って生きている男子に贈り物だ。好きなのを一つ選びなさい」


 テーブルの上に雑用ナイフを出した。


 女子のように獣になることはなかったが、やはり男の子。雑用とは言えナイフをもらえることに大喜びだった。


「どれにしようかな?」


「おれ、これにする!」


「おれはコレ!」


 雑用ナイフと一括りにしたが、練習用なので形はそれぞれ違い、柄や鞘にもちょっとした柄を付けている。なんで自分の趣味に合うものを選んでいるのだ。


 満足気に見ていると、なにやら女子たちも興味ありそうに覗いていた。あ、まあ、老若男女と言ったので女子も興味があるのはしょうがねーか。


 ん~、女子ばかり優遇するのも纏まりにヒビが入りそうだし、この年代は無意味に男女で反発し合うからな~。どーすっぺ?


 悩んでいると、デンコが近寄ってきた。


「どうした?」


 なにやら言いたげにオレを見ている。


「あ、あのだな、兄貴、その、は、話があるだが……」


「言いたいことがあるなら言いな。別に怒りはしねーよ」


 グズ野郎な発言じゃなけりゃあオレは大抵のことは笑って許せる男だぜ。キラン☆


「あ、あのだな、な、何人か、冒険者になりたいってもんがいるだよ。だ、たからその、ダ、ダメだかや……?」


 冒険者、ね~と、男子を見る。


 こちらを見る年長者(だいたい十二から十五くらいか)からしてそいつらだろう。まあ、憧れるには無理もねー年代だし、浮浪児が這い上がるには冒険者が一番の近道だろう。


「イイんじゃねーの」


 あっさり認めると、歓喜する年長者男子。


「──ただし、誰でもってわけにはいかねー。能力のねーヤツ、根性のねーヤツ、努力をしねーヤツ、意志のねーヤツにやらせるつもりはねー。冒険者は腕があればやってけるほど優しい仕事じゃねー。依頼書を読み、そこに書かれている内容を考え、成功させるために万全の用意をしなくちゃならん。お前たちは、字が読めるか? 金を数えられるか? 街の外にどんな魔物がいるか知ってるか? 人の悪意、人の善意、人の気持ちを見たことがあるか? まあ、オレが言ったことがわかるなら冒険者なんてならんだろうが、オレは己がやりてーことを否定──やるなとは絶対に言いたくねーし、阻みたくもねー。なんで冒険者を目指すバカ野郎ども、女子もはいるが、試練を与える。そのうちお前たちには給金を渡すことになる。その給金を貯めてもイイ。仕事が終わってからまた仕事をするのもイイ。ただし、悪さして集めたヤツにはここから出てってもらう。つまり、まっとうに働いて銅貨二十枚を作れ。そしたらこれを売ってやる。


 収納鞄から刃渡り三十センチのナイフ(鞘つき)を出した。


「さらに銅貨四十枚を集めたら剣か槍を。さらに四十枚集めたら皮鎧を。四十枚ごとに冒険者に必要なものを売ってやる。まあ、長い時間がかかるし、手元にあると使いたくなるから銀貨三枚集めたら冒険者に必要なものを売ってやる。日にちは問わない。だが、日は大切にしろ。能力のあるヤツ、努力するヤツはどんどん先にいくぞ」


 それがオレからの最低条件。気に入らないのなら出ていけばイイ。テメーの人生だ、テメーで決めろだ。


 静かになった年長者男子らに構わず女子たちにも選ばせた。


 うやむやになってラッキーと思ったのは内緒です。

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